モーゼルM712 mauser M712 |
「軍用拳銃の王様」モーゼルミリタリーの最終型で、セミ/フルの切り替え機構が付いたモデル。
モーゼル社内では「シュネルフォイヤー(速射)」、ドイツ軍正式名は「R713(Rはライエンフォイヤー・連射
の意)」だが、アメリカの輸入代理店ストーガー社で「M712(Mは多分モデルの意だろうといわれている)」と名づけたのが有名になってしまい現在ではこ
の名で広く通っているので、ここでも便宜上M712と呼ぶ事にする。
※猶この名称に付いては、連射機構の設計者の違いによってジョゼフ・ニックルタイプ(セレクターレバーが細い)をR713、改良型のカール・ウエスティンガー式(セレクターレバーが大きくなりストッパーが付く:内部構造も異なる)をM712と呼んでいる資料もある。
M712を語る前に、元になったC96(contract1896)について説明しよう。
この銃のパテントは1895年に取られているが、1896年にドイツ皇帝ウィルヘルム2世が試射を行った事を記念してこの名前が付けられた。
モーゼルミリタリー独特のトリガー前弾倉にクリップ装填という形式は、時々「自動拳銃の過渡期に誕生したのでラ
イフルの構造をそのまま模倣した」という解説がなされているが、実際の所は「グリップ内マガジン」や「トリガー前に弾倉を置き下から着脱式マガジン使用」
というのは全てパテントで保護されていた為、設計者は止むなくグリップ前の弾倉配置にカートリッジクリップを使用して上から装填する形式にした為だとい
う。
しかしながら制約された状況下でもとことん拘った造りは、例えばグリップの木部を止める一本以外に全くネジを使わない寄せ木細工の様な機関部などに余すところなく表現されている。
1000mまでの目盛が刻まれた可動式サイト、木製ホルスターはグリップ後部のレールに装着すればストックとなりカービン銃として使用できるという機能性など、当時の技術を考えるとかなりの意欲作と言えるだろう。
しかし現在の工作機器を使っても猶製造が容易ではない複雑な部品形状による機関部構造は当事流通していた他の拳銃の倍近い価格となり、コピー品が出回る背景となった。
外観はそっくりなスペインのアストラやアズールといった銃は、内部機構はモーゼルとは異なっている。
モーゼル社のリボルバー時代からの系譜を引き継ぐ小柄なグリップは「箒の柄(ブルームハンドル)」と渾名されたが、グリップ内にマガジンを収容する必要がない分小振りに出来、欧米人より手が小さいアジア人等にも扱いやすいという利点になっている。
初期型ではセーフティを上に上げた状態が解除なので、M712とは逆になる。また、最終系のM1930ではセーフティをかけた状態ではトリガーを引いてハンマーを落としてもファイアリングピンを打たない様な改良がなされた。
モーゼル社では「C96のどこそこ向け」という程度以上には特に区別する名称はなく、そのほとんどはマニアが区別の為に呼び習わした俗称なのだが、そのタイプの違いにより代表的なものだけでも以下の様な呼び方がされている。
コーンハンマー | 極初期型。ハンマー穴のところが段階状(コーン)になっている |
ラージリングハンマー | コーンハンマーの次モデル。ハンマーが大きくなり、穴も大きい |
スモールリングハンマー | ハンマー形状の最終型。穴も大きさも小さくなった |
フラットサイド | イタリア海軍の依頼(1899年)で製造された、下フレームの軽量化削りこみが無く平坦なタイプ。M1900と呼ばれる事もある |
オフィサー | 6発マガジン・ショートバレルで小型化を狙ったモデル。グリップ形状が通常やボロとは異なる。後に10発マガジンも作られた |
ボロ | 4インチバレル、グリップも小型化されたタイプ。戦前型・戦後型や6発仕様など何種類かバリエーションがある |
レッドナイン | 第一次大戦中ドイツ軍の依頼で9mmパラペラム口径にした物。呼び名はグリップの赤い「9」の文字から。M1916と呼ばれる事もある |
M1920 | 戦後、ワイマール共和国の軍・警察用にショートバレル・固定サイト化した物。主に既存の物を改造して作られた |
M1930 | ユニバーサルセーフティを備えた最終形態。グリップの溝数も変わった。M712のベース。M−30と呼ばれる事もある |
M712 | M1930ベースにフルオート機構を追加した物。R713やシュネルフォイヤー・ライエンフォイヤー、M1932等と表記する資料あり |
※9mm口径や6発マガジン仕様は上記モデルだけに特有ではなく、コマーシャルタイプのバリエーションとして存在する
モーゼルというと「ドイツの銃」という印象が強いが、実際には第一次大戦中ルガーP08の不足を補う為に
9mm口径の物が使用された(区別の為グリップ部に赤字で9と入っている)、第二次大戦時は武装SSがSMG不足を補う為にM712を後方部隊や対ゲリラ
部隊で使用した程度で、一度もドイツ軍正式拳銃の座に着く事はなかった。しかしながら他国ではこれを正式とした国が多く、ギリシャやイタリア、ノル
ウェー、インドネシア植民地軍、トルコ、イラン、ソ連(帝政ロシア)等がある。例えばソ連ではナガンリボルバーの後継として銃身4インチのモデルを発注し
たが、これにより4インチモデルはその後、俗にボロモーゼル(ボロとはボルシェビキの略)と呼ばれる事となり、この時使用した7.63mmボトルネック弾
はその後トカレフ拳銃が制定された時もそのまま受け継がれた。
他にも、下フレームの削り込みのない通称「フラットサイド(ラージリングハンマー)」はイタリア海軍からの発注
で製造されたものだし、イラン発注モデルにはパーレビ王家の紋章であるライオンが、またトルコ発注のコーンハンマーモデルには当時のスルタン、アブドゥ
ル・ハミト2世の紋章が彫刻されている。
ちなみにモーゼルミリタリーを初めて軍用正式として採用したのはこのオスマン・トルコ軍だった。
特にモーゼルを好んだのが中国軍で、モーゼルミリタリー後半の生産分はその大半が中国大陸に渡ったという。
当時の軍閥割拠による内戦状態の中国における需要は膨大で、モーゼル純正だけでなくスペイン製のコピー品も多数出回ったがそれでも不足し大沽造船所や漢陽兵工廠など、国内生産のコピー品もまた多数製造された。
このときにはタイプにこだわらず手当たり次第に手本にしたようで、スモールリングハンマーのフラットサイドやコーンハンマーのユニバーサルセーフティなど、オリジナルには存在しないタイプがいろいろと存在している。
中でも特に有名なのが山西軍人工芸実習廠で製造されたといわれる、45口径モーゼルであり、その数8000丁といわれている。
フルオート機構搭載のモーゼルタイプとしては本家モーゼル社よりもスペイン製コピーの方が早く、固定10連・
20連マガジンの時代から既にセミ・フル切り替えモデルを製造しておりこれが中国で大人気だった事からモーゼル社でも本稿で紹介するフルオート搭載モデ
ル・M712を開発したと言われている。
主要なスペイン製コピー
ベイステギ・エルマノス社
・ロイヤル:モーゼルC96のコピー
・アズールMM31:フルオート搭載、20連固定マガジンタイプ
ウンセタ社
・アストラM900:モーゼルC96のコピー
・アストラM901:M900にフルオート搭載モデル
・アストラM902:フルオート搭載のマガジン20発(固定)モデル
M712はモーゼルミリタリーの最終形M1930をベースにセミ・フル切替機構を搭載したモデルで、この
頃にはパテントの問題も解決してモーゼルも着脱式マガジンを採用している。標準の10発装填マガジンの他に、フルオート時に有利な様20発マガジンも用意
された(勿論従来通りカートリッジクリップを使用した装填も可能)。
当時最高の初速を誇った7.63モーゼル弾をフルオートでばら撒くという迫力は凄いが、実銃だと跳ね上がりがキ
ツくてストックなしのフルオートは当てにならなかったらしい。しかし中国軍では銃を横にして反動利用の「水平薙ぎ撃ち」(俗に「馬賊撃ち」等と呼ばれる)
を行い日本軍を苦しめたという。
本国のドイツでは武装親衛隊や空軍が使用していたが、MP40が行き渡らない為の代用であったりオートバイ伝令兵・砲兵部隊・降下部隊のサイドアームとしてであったりと補助火器的な意味合いが強かった。
フジミ製モーゼルはエアーガンとしてゲームに使える唯一のモーゼルとして、マルシンMAXIが出る前まで
10年以上の長きに渡ってモーゼルマニアの手中で活躍を続け、電動ガンと同等の初速といざとなればフルオートで制圧射も出来る火力のおかげで戦場で数多の
勝利をその使用者にもたらしていた。
特にホルスターにもなっている着脱式の木製ストックと、実銃通りのタンジェントサイトの組み合わせは拳銃であり
ながら別種の銃であるかの様な使用感を与えてくれる。ゲームでも「距離30!目盛りは・・・800mだな」等と言いながらサイトを調整してドンピシャで叩
き込む爽快感は使った者にしかわからない醍醐味といえよう。
実際、初速60m/sをやっと越えるかどうか程度でホップも入ってないにも関わらず「モーゼルは良く飛ぶ」と言われるのはこの辺の調整がものをいっているからなのだ。
尚、発売から1年ほど経ってマガジンの給弾口を改良し、セミオート時のシアーの微調整を可能とした「後期型」が
発売された。これは気温の変化によるガス圧の変化で不発や暴発を改善しようとした物だが同時にチャンバー周りについて前期型は組み上げていたものが一体型
鋳物に簡略化されてしまっており、必ずしも後期型の方が性能が良い、とは言えないようだ。メンテナンスをきちんと出来るなら前期型でも十分動作するし、
BV式特有のOリングに依存する発射機構自体は変わらないので後期型でも動作不良の個体は多数存在する。
また、何故か前期型はブラックが、後期型はシルバーが多く出回っている。
最末期には工場の余りパーツで組み上げたハーフシルバータイプも市場に流れたようだ。
2001年4月にマルシンからMAXIでM712が発売されたが、セレクターは見かけだけでフルオート射 撃不能(だったらなんでM712なの?)といった問題点があり、また2006年12月には同じくマルシンからブローバックM712が出てフルオートが可能 になったものの8mmという使えない口径(後に6mmも発売)や動作の不安定さが忌避されることから、今後もフジミモーゼル活躍の機会は存在することであ ろう。
エアーガンデータ
全長:296mm
全高:160mm
全幅:35mm
重量710g(ショートマガジン40g)
装弾数:ショートマガジン17発・ロングマガジン36発
銃身長:165mm(内径6.1mm真鍮製)
価格:スタンダード¥9800、デラックス¥12800、メタルフィニッシュ¥14800
アクセサリー:木製ホルスターストック¥16800
その他モーゼル系
ガンスミス系