日本海戦隊  >  二次作品
傍若無人なデュエット- [1]- [2]- [3]- [4]- [5]- [6]- [7]


(2)困惑のマンデー

 先週までは、まったくなかった話題で、教室内は騒がしかった。

 ちらちらとかなめを見ながらも、話しかけようとはしない。 妙に気を使ってるのがわかり、かなめの機嫌は悪くなる一方だ。

 話題の中心は宗介だった。かなめと宗介が一緒に登校するのは、たまにあることだが、 今日の宗介はさらに別な少女二人と連れだって登校したのだ。

 その朝、宗介はかなめの部屋にやってきた。 曰く『数日間、彼女たちと行動をともにするため、かなめの護衛ができない』というものだった。 揃って登校したものの、かなめは不機嫌そうに黙り込んでしまい、 道中での会話はまったくなかった。

 かなめは自分の気持ちがよく分からないでいる。 『任務として護衛している』と聞けば腹が立つ。『任務があるから護衛しない』と聞いても、 やっぱり腹が立つ。護衛されても、されなくても気に入らない。 ……だったら、どうなれば納得するんだろう?

 その奥底にあるのは『任務と自分とどっちが大事?』といった、 よくある心理なのかも知れない。自分を最優先にしてほしいのだろうが、 彼女自身はそれに気付いていない。

 思いにふけっていたかなめに、恭子が話しかける。 恭子も泉川駅で合流したため、彼女たちの存在を知っている。

「噂になってるね」

「そりゃあ、目立つんじゃない?ソースケが女連れだもん」

「えー?相良くんはいつも女の子と一緒だよ」

「え?」

 かなめが驚きの声を上げる。

「なによ、それ?あいつのまわりに女の子なんて……」

「カナちゃんと一緒にいるじゃない」

 あっさりとかなめを指さす。

「あたしは彼女なんかじゃないし……」

「彼女だなんて言ってないよ。カナちゃんと一緒にいるって言っただけ」

 恭子に軽くいなされて、かなめの顔が赤くなる。

 かなめにはそう言ってみせたが、恭子は二人がお似合いだと思っている。 クラス中でそう思わないのは、当人達だけだろう──宗介がそんな発想するとも思えないが──。 宗介が有名なのは確かだが、遠目でも目立つのは、そばにかなめがいるからだ。

 注目を集めるのも、警戒心からというよりは、二人がまぶしくみえるためだ。 端で見てると、過剰なほどエネルギッシュに見える。 なんか、二人が揃っていると、無敵な気がする。 どんな障害も粉砕して我が道を行くというか……。 誰にも、割って入ることはできない気がするのだ。

「他に、相良くんと親しいのは、あたししかいないもんね」

「そりゃあね。あいつの個性は知れ渡っているから、 いまさら一目惚れなんてあり得ないし。知ったうえで気に入るなんて酔狂な人間も、 いないだろうしね」

「そうかなー?知らないからだって気がするけど」

「……どういう意味よ?」

「外見だって悪くないし。無愛想だけど、 頼めばいろいろしてくれるし。暴力沙汰だったら頼りになるし。 とんでもないことしでかすけど、悪気がある訳じゃないもんね」

「甘いわよ。その『とんでもないこと』がどれほど凄まじいものか、 キョーコだって知ってるじゃない。気が休まる時なんて……」

「なんで、悪く言うの?」

「悪口じゃなくて、事実をいってるだけ」

「あたしが相良くんを誉めたんだから、 うなずいていればいいじゃない。それなのに、相良くんが『迷惑だ』って強調するんだよねー。 カナちゃんって」

「単に、あたしの苦労わかって欲しいだけよ」

「でも、相良くんって、最初はとっつきにくいけど、 イヤな人間じゃないもん。あたしだって好きだし。 カナちゃんだって最初は悪口ばっかりだったけど、一緒にいるじゃない」

「まあ……どんなに迷惑な奴だって、友達だしね」

「相良くんのそばには、カナちゃんしかいないけど、 ……カナちゃんと一緒にいる男の子も、相良くんぐらいなんだよね」

「やめてよねぇ。あいつと一括りにするのは……」

「じゃあ、相良くん以外の誰かに、食事を作ってあげたりしてる?  あたしと一緒に行動するときに、他の男の子を連れてきりする?」

「……それは別に、あたしの意思って訳じゃなくて、その、 他にも理由があるし……」

「どんな理由?」

「いや……あの、言えないけど、理由があるのはホントなんだからね」

「ホントに迷惑なら、誰かに任せたら?」

「なんなのよ? さっきから……妙にカラむけど」

「ほら、今朝の女の子達に相良くんを任せちゃったら?  カナちゃんがそれでいいなら、問題なさそうだし」

「キョーコはそうしてほしいの?」

「んー、そういうわけじゃないんだけどね。 たぶん、言うとカナちゃんが怒るから言わない」

「その言い方、なんか、カンに障るんですけど」

 かなめのこめかみに血管がぴくぴくと浮かぶのを見て、恭子はすかさず話題を変える。 このあたりの呼吸が、宗介に致命的に欠けているものだ。

「それでさー、誰なの? あの二人って?」

「ったく……。知人なんだって。 例によって宗介の養父関連らしいけど」

「テッサちゃんもそうだし、他にもそんな知り合いが多いのかなあ?」

「さあね?」

 かなめが肩をすくめて見せる。

「カナちゃんはその養父の人って、会ったことあるの?」

「ちょっとだけ……」

「どんな人? やっぱり爆破ばっかりしてるの?」

「爆破したとこは見たことないなぁ」

「じゃあ、鉄砲は?」

「……ないかな」

 戦場で拳銃撃ったのは見たけど……。そんなことを言えるわけがない。

「まあ、強いけど、静かな人だよ」

「強い?」

「えっと、体格もいいし、強そうってこと。 口数も少ないし、やたらと騒動を起こさない宗介ってとこかな。やっぱり似てるのかもね」

「ふーん」

「しかし、遅いわね」

「そうだね。あの子達の説明で手間取ってるのかな?」




 このクラスに、お約束のように転校生がやってきた。それも二人同時にだ。

 またしても転校生が来たうえに、二人まとめて同じクラス。 生徒達も不思議そうにざわついている。

「あちらが高城さやかさんです」

 恵里が教壇から少女を紹介するが、当の本人は恵里の視線を受けたまま、 不思議そうに見つめ返したままだ。

 背中まで髪を伸ばした少女に、生徒たちが視線を向けたが、 本人は視線に気づきもせず、ぼーっと突っ立ったままだ。

「こちらが天野ちはるさんです」

 恵里は、仕方なく、もう一人を紹介する。

 眼鏡をかけて、二本の三つ編みを首の両側から垂らしている少女だ。

「よろしくお願いします」

 無表情に言って、それっきり口を閉ざす。 さまざまな経験をしているこのクラスの生徒達も、こんなに愛想のない転校生を見たのは、 いままでで一度しかなかった。

「天野さん。その、もう少し転校の事情なども話してくれないかしら?」

「……はい。私も高城さんも日本人ではありますが、 これまで海外で暮らしていました。 旧知の相良さんがいるためこの学校に転入することになりました。 高城さんが病弱なため、1週間ほどしかいられませんが、よろしくお願いします」

 生徒たちが皆、宗介の方へ視線を向ける。宗介は周囲を気にせず、 転入生の二人に視線を向けたままだ。

「じゃあ、二人とも後ろの席について」

 窓際の最後部が宗介で、その隣にさやか、次にちはると、順に座った。

 最後部に集めたのは、恵里のそれなりの判断なのだろう。




 授業中。

 宗介の隣の席についているさやかは授業を開始してからずっと、 顔を横に向けて宗介の顔ばかり見ている。 教師たちには彼女の健康状態など説明されているため、注意する人間はいなかった。

 さすがに気になって、宗介が尋ねる。

「なぜ、俺の顔を見ている?」

「……? 相良さんの顔を見ていると、安心するの」

「そうなのか?」

「見たら、だめ?」

 そう尋ねるさやかは脅えた小動物のようにみえた。

「いや、かまわん」

「うん……」

 そう言って、さやかが心ここにあらずといった感じで、宗介を見続けている。

 小さな声での会話だったが、級友達は興味しんしんで聞き耳を立てている。

 しばらくして、彼女が目線を外したかと思うと、親指の爪を噛み始めた。 数分経っても数十分たっても、やめようとしなかった。

「やめるんだ」

 宗介が制止の声をかけるが、さやかは気付かないのか爪を噛み続ける。

 宗介は手を伸ばして、彼女の口元にあるその手を握って、行動を止めた。

「やめろ」

 さやかは、自分の手を覆う宗介の手を不思議そうに見下ろすと、視線を宗介に向ける。

「うん……」

 ぽそっと答えて、やっぱり宗介を見つめ続ける。

 それを宗介は二度と止めようとは思わなかった。




 昼休み。

 屋上へ向かおうとした宗介の学生服の裾を、さやかがきゅっとにぎって、追いかける。

 授業の合間にトイレに立ったときも、彼女はそうしてついてきたのだ。 一応、トイレの外に押しとどめはしたが……。

「どこへ、行くの?」

 さやかが尋ねた。

「屋上へ弁当を食べに行く」

「それなら私たちも一緒に行きます」

 ちはるが告げた。

「……そ、そうか」

 宗介は、微妙にためらいを見せる。

 それを気にもせず、ちはるはさやかの弁当も手にして後ろに並んだ。

 三人がぞろぞろと屋上に出ると、屋上に腰を下ろしていた少女の一人が手を振って見せた。

「……やっぱり、一緒だね」

 恭子が面白そうに、かなめに話しかける。

「そうね……」

 つまらなそうにかなめが応じた。

「彼女たちも一緒で構わないだろうか?」

「いーよ。あたしも聞きたいことあったんだ」

 明るく応じたのは恭子の方だった。

「助かる」

 宗介は微妙にかなめと視線を合わさず、恭子と話す。

 三人がそれぞれ、弁当を開いた。

「あれ、相良くん、今日はお弁当なんだ」

 恭子が指摘すると、宗介より先にちはるが答えた。

「はい。私が作りました。二つ作るのも、三つ作るのも同じですから」

「え?どうして?」

「一緒に生活していますから」

「えーっ!」

 恭子が驚きの声を上げる。

 恭子が聞いていたのは、宗介の知人であることだけだったので、 近所に住んでるだけだと思っていたのだ。

 かなめは、恭子の視線が向けられたのを感じ取ったが、 無視したまま、カスタードパンを囓った。

「いいの?」

「あたしには関係ないでしょ」

 いつものようにかなめが応じる。

「ふーん。あたしは本当に関係ないから、いいんだけど……」

「なによ、言いたいことでもあるの?」

「カナちゃんがないなら、あたしにもないよ」

「あたしには、ないわよ」

 いや、かなめとしては言いたいこともあるのだが、言っても意味はないし、 その権利もない。

 ただ、自分が残した調理器具を使用して、料理を作ったのかと考えると、妙にムカつく。

 あまり会話も弾まないまま、おとなしく食事を進める。

 さやかとちはるは無表情だ。

 かなめも表面上は普通に食事をしているように見えるが、 宗介は無言の圧力を感じ取っている。思い過ごしかも知れないが、 彼女は不機嫌だと思われる。

 恭子も同じく平気で食事をしている。しかし、 彼女ならば俺と同じものを感じているはずだ。 だが、かなめの扱いに関しては、彼女は最高のスペシャリストなのだ。 この状況も、意に介する程ではないのだろう。

 こうして、不要な緊張感をはらみつつ、昼食の時間は過ぎていった。




 放課後。

「ねえ、カナちゃん。あれ……」

 恭子の指さす方向を見たかなめが、げっそりした表情を浮かべた。

 校庭を横切ろうとしていたその三人の生徒は、なぜか縦に並んでぞろぞろと歩いている。 校庭の中で異様に浮かんでいた。

 宗介が先頭で、さやかが学生服のすそを握って続き、ちはるが最後尾を守っている。

「なんだかなー」

 情けなさそうな表情でかなめが眺めると、珍しいことに、 三人の中で当惑しているのは宗介のように見えた。

 その三人の行く手に、一人の男が立っていた。

 立ち上る陽炎や、舞い上がるつむじ風の幻が見えるようで、 時代劇や西部劇での決闘場面を彷彿とさせる。

 その場に立ちはだかっているのは、椿一成だった。

「あちゃー」

 かなめは頭をかかえる。

 また、こんなときにこなくても……。

 かなめが疲れた表情を見せる。

 騒動の元が向こうから近付いてきた。

「相良宗介。今、この場で勝負しろ。 今日こそは決着をつけてやる」

「別にその必要はないだろう。 俺とは関係なく、好きに生活してくれてかまわんのだが……」

「それでは俺の気がおさまらん」

「できれば来週にしてもらえないか? いまは忙しい」

「臆したのか? まさか貴様が、突然の挑戦だからといって、 戦いを避けるとは思わなかったぞ」

 今回は、珍しく一成の挑発が効いたようだ。

「……確かに、敵の急襲に泣き言をいうわけにはいかん。 受けて立とう」

 宗介が言うと、なぜかちはるが前に進み出て、宗介の左に並ぶ。

「申し訳ありませんが、出直してもらえませんか?」

「女。俺は相良に話しているんだ。お前には関係のない話だ」

 ちはるが一成に目を向けたまま、宗介に話しかける。

「相良さん、彼は平穏な生活の障害になると思われます」

「そのようだ」

「排除すべきではないでしょうか?」

「うむ。だが、奴は素手での格闘でしか納得しないぞ」

「了解しました。私は左からいきます。相良さんは右から」

「了解だ」

 不意にちはるの左足が跳ね上がる。突然の蹴りをかわすことはできなかったものの、 一成の鍛えられた反射神経はガードに成功する。

「いきなり、何を……?」

 だが、一成が言葉を言い終える前に宗介の拳が飛ぶ。

 両側から攻め立てられて、さすがの一成も防戦一方であった。 本来、素手での戦いで宗介と一成は互角なのだから、 ちはるまでが参加すると、そのバランスが一方的に崩れることになる。

「……待て! こら……」

 一成の言葉に構わず二人の攻撃が叩き込まれる。

 どちらかの一発によって一成の動きが鈍った。

 一成の身体が無防備のまま、攻撃にさらされる。 ほどなく、一成は気絶してグラウンドに伸びていた。

「まだまだ、未熟なようだな」

 宗介がつぶやく。

 すぱん!

 すかさずかなめのハリセンが宗介の頭頂部に叩き付けられた。

 すぱん!

 続いて、ちはるの頭にも。

「? ……これは?」

 ちはるが不思議そうに宗介に尋ねる。

「ハリセンだ。彼女がハリセンで叩くときは、 こちらの行動になんらかの落ち度があった場合だ。記憶しておいてくれ」

「了解しました」

「ソースケもあんたも、卑怯じゃないの」

「……? 素手だったぞ」

「2対1じゃないの!」

「うむ、相手の人数も把握できないとは、状況判断が甘いのだろう」

 宗介の言葉に、ちはるが頷いている。

「『素手で戦う』というのは、1対1で戦うものなの」

「しかし、俺も複数の人間に囲まれることが多いが?」

「もともと、そのテの連中は卑怯なんだから、 二度とそんな真似しないでよ」

「了解した」

 宗介がうなずいた。

 かなめの視線を受けて、慌ててちはるもうなずいた。

「了解しました」

 二人を前にして、かなめはイヤな事実に気付いた。

 ちはるは言葉遣いこそ丁寧だが、口数も少なく感情に乏しい。 常識にとらわれず、独自の行動基準を貫き、世間の目を気にもとめない。

 かなめのそばにいる、『ある人物』とよく似ている。

 目の前の二人を見て、かなめは心理的重圧にめまいがした。

 『ソースケ』が、二人になった……。




 ──つづく。




 あとがき

 本来はただの護衛役として登場したちはるでしたが、何か特徴を出そうと思って、 宗介に似せてみようと思い立ちました。おかげで極端にお気に入りになってしまった。







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