日本海戦隊  >  二次作品
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(弐)檄!帝国華撃団


「あんな人が隊長になるなんて、あたしは絶対に反対です!」

 力一杯断言したのはさくらだった。

 そのさくらの呼びかけで、花組に所属する他の三人がこのサロンに顔をそろえている。

「なぜ?」

 マリアが不思議そうに尋ねた。

「だって、あたしがシャワーを浴びているときに、更衣室に入り込んだんですよ! 性犯罪者です。絶対に許せません」

「さくら一人が反対しても、人事が変更されるとは思えないわね」

 マリアの返答は冷淡なものだ。

「マリアさんは平気なんですか?」

「平気というより、ふさわしいと思ってるわ」

 その返答に、さくらは驚いた。

 この前などは、お互いに銃口を向け合っていて、あまつさえ、マリアは発砲までされたのだ。信用できる相手とはとても思えなかった。

 その対応に宗介の実力をかいま見たからこその、マリアの判断だったのだが、戦場を知らないさくらには、そのような判断はできなかった。

「すみれさんだって、あんなデリカシーのない人は苦手ですよね?」

 珍しくすみれに同意を求める。

「でも、軍曹の場合は仕方がないですわ」

 すみれもまた、すまして答えた。

「ちょっと、軍曹について調べましたの」

 彼女は神崎財閥の直系であり、神崎重工が〈ミスリル〉研究部のカバー企業としての一面もあるため、入手が困難なはずの情報も知ることができたのだ。

「幼少時から中東でゲリラに身を投じていたらしく、一般常識が欠けているのもそのせいですわ。ただ、こと戦闘においては所属部隊ではトップクラス。それも、アーム・スレイブでの戦闘では一級品の腕前らしくてよ」

 すみれの説明を受けて、マリアは納得したかのように、頷いていた。

「じゃあ、すみれさんはあの人を認めるんですか?」

「ええ。優秀にして寡黙。自己の能力をひけらかしたりしないのは好ましいですわね。渋くもあり、可愛くもあり、顔も悪くはありませんものね」

 すみれがどこか楽しそうに、宗介を評する。

 マリアがまたしても、無言のまま頷く。

「きっと、あなたのような未熟な人には、軍曹の魅力はわからないのですわ」

「どういう意味です?」

 すみれの言いように、さすがにさくらも声を荒げた。

「言ったとおりの意味ですわ」

 平然と答えたすみれの態度が、余計にさくらを刺激する。

「ねえねえ、じゃあ、アイリスも大人だよね?」

「アイリス?」

 会話に割って入った少女の言葉の意味が理解できず、さくらがきょとんとなった。

「だって、アイリス、お兄ちゃんのこと好きだもん」

「ど、どうして? 最初に会ったときに怖いって言ってたじゃない」

「でも、もう平気。お兄ちゃん、可愛いもん」

「あら、じゃあ、さくらさんが一番、男性を見る目がないことになりますわね」

 すみれの言葉に、マリアが珍しく、くすっと笑みをこぼした。

 さくらの顔が悔しさで真っ赤になる。

 奇妙なもので、さくらを除けば、宗介は実戦担当者に受けがいいようだ。

 逆に、事務方をしている、藤井かすみ、榊原百合、高村椿といった面々は、宗介を快く思っていない。突発性トラブル・メーカーである宗介が、計算外の出費を強いることが関係しているのだろう。

 さくらが反論しようと口を開きかけたとき、突如として警報が鳴り響いた。

 さくら、すみれ、マリアの三人が席を立って、走り出した。慌ててアイリスも追いかける。

 それは、帝国華撃団・花組の出撃合図だった。




 真宮寺さくら。

 神崎すみれ。

 マリア・タチバナ。

 アイリスこと、イリス・シャトーブリアン。

 戦闘服を身に纏った四人の少女が並ぶ。

 その前には、同種の戦闘服を着込んだ宗介と、軍服に着替えている米田が立っている。

 宗介も含んだ花組の面々を前に、米田が檄を飛ばす。

「〈光武〉の調整は間にあったものの、ぶっつけ本番ということになる。生身で戦っても負けやしないだろうが、初の実戦投入だ。シミュレーションどおり、落ち着いてやれ」

『はいっ!』

 応えたのは、さくら、すみれ、マリアの三人だった。

「相良、これが帝国華撃団の実戦担当である花組だ。皆を頼むぞ」

「了解しました」

 言葉を飾らず、端的にしか応えない宗介だったが、それが軍人らしく、信頼に値する言葉に思える。

「ふん。〈ミスリル〉も冗談で、お前さんをよこしたわけじゃなさそうだな」

「光栄です」

「アイリスの光武はまだ完成してないんだって。応援してるから頑張ってね」

 アイリスが励ましてくる。

「……君もメンバーなのか?」

 目を丸くして宗介が尋ねる。

「うん。アイリスの霊力が一番強いんだよ」

 嬉しそうにアイリスは告げたが、宗介は疑惑の目を米田に向ける。

「この子の言う通りだ。だが、今はそんな話をしている暇はないぞ。相良、お前が命じろ」

「了解しました。帝国華撃団・花組、出撃!」

『了解!』

 三人の声が唱和した。




 参戦する四人の機体が、一悶着を起こしつつも、ヘリに積み込まれた。

 最先端技術の電磁迷彩により、可視波長を遮断することで透明化できるヘリが、機体の運搬に使用される。〈轟雷号〉と名付けられているらしいが、名前の由来は不明である。

 ヘリは、怪物の出現場所である上野公園へ向かって飛び立った。




 ラムダ・ドライバという装置がある。

 それは、人間の防衛本能や攻撃衝動を擬似的な物理エネルギー──虚弦斥力場に変換する装置のことだ。

〈ミスリル〉で所有している装置は、初めて起動に成功した宗介用に書き換えられてしまっていて、他人では使用できなくなっていのだが、ある条件を満たすにより、別な人間でも稼働できることを研究部が解明した。

 その条件とは、一定値以上の霊力である。

 ラムダ・ドライバを稼働させるためには、ある脳波が必要なのだが、霊力を持つ人間からはこれが強く検出される。そのため、「宗介以外の使用者」と「ラムダ・ドライバとの媒介を果たすTAROS」との同期が不完全でも、起動することが可能となるのだ。

 さらに、斥力場は超常現象に対しても有効との研究結果により、テストケースとして帝国華撃団に配備されることとなった。

 製造されたのは、市街地での戦闘を考慮した小型のパワード・スーツに、霊子戦用ラムダ・ドライバを搭載した機体であり、その名を、〈光武〉といった。




 作戦司令室で、米田と副指令を務める藤枝あやめが、モニタを見つめている。

 画面上には、現在の上野公園の映像と、ヘリからの映像が表示されていた。

 そこへ、アイリスがやってきた。

「どうしたの? 突然」

 あやめが不思議そうに尋ねる。

「みんなの戦いを見に来たの」

「そう……」

 アイリスの返答に、あやめは表情を曇らせた。いずれ、このアイリスも〈光武〉を駆って戦場へ出ることになる。今の自分たちは、彼女達の力にすがるしかないのだ。

 そして、彼女等が自らを守るためには、戦闘を知り、戦う力を身につける以外に方法はない。

 しかし、アイリスは対照的に笑顔を浮かべたままだ。

「だって、大きいジャンポールの活躍、見たいもん」

 その奇妙な発言に、米田とあやめが顔を見合わせ、同時にその名前を口にした。

『ジャンポール?』

 それは、アイリスが今も抱いているぬいぐるみの名前だ。アイリスの言葉の意味を理解しかねて、ふたりが呆気にとられた。

 モニタ上では、帝国華撃団・花組が、上野公園に到着したところだった。




 そこに、並ぶ四つの影。

 さくらの搭乗する、桃色の〈光武〉。

 すみれの搭乗する、紫の〈光武〉。

 マリアの搭乗する、黒の〈光武〉。

 そして、一回り小さく、シルエットが全く違う、宗介の機体――。

 犬かねずみか分からない頭部。おしゃれな帽子と蝶ネクタイ。黄色い身体に茶色の斑点。宗介の機体は、とある遊園地のマスコット・キャラクター――ボン太くんであった。

 正式名称を『ν(ニュー)ボン太くん』といい、ラムダ・ドライバを搭載した最新型である。華撃団への配属を聞いて、彼は使い慣れた機体を研究部に要求したのだ。〈ミスリル〉研究部も変わり者が多いのか、ノリにノッてカスタマイズされているため、もしかすると〈光武〉をも凌駕しかねない機体であった。

『帝国華撃団・花組。参上!』

『ふもっふ!』

 花組が名乗りを上げた時に、奇妙な声が重なった。

 …………奇妙な沈黙。

『相良さん! ふざけてるんですか、貴方は!』

 我に返ったのか、さくらの声が回線を通じて、宗介にぶつけられた。

「心外だな。俺は真剣に事態に対処しているぞ」

『だったら、『ふもっふ』はないでしょう! 『ふもっふ』はっ!』

「ボイス・チェンジャーの不具合で、外部への音声は全て変換されてしまうのだ。通信回線には影響しないから、作戦に支障はないはずだ」

 ヘリへの搭載時も、生真面目なさくらともめたのだが、宗介はこの機体を非常に気に入ってるため、手放すはずもなかった。

『そういう事を言ってるんじゃありません! あたしはっ……』

『さくら、そこまでよ。話の続きは後にして』

『……はい』

 マリアがたしなめると、さくらが頷いた。

「そうだな」

 宗介も敵に視線を向ける。




 出現した怪物は五体だった。

 角を生やした鬼が一体と、先日出現した鎧武者が四体従っている。

「真宮寺と神崎は直接攻撃。俺とタチバナはその援護だ」

『了解』

 三人がうなずいて、陣形を整える。

 さくらと、すみれが装備している武装は、それぞれ刀と長刀だ。銃器で武装した宗介とマリアが、後衛に回るのは当然といえる。

 しかし、通常ならためらいそうなその指示を、宗介は平然と行った。

 宗介は、女性蔑視という言葉から一番遠い人間なのかも知れない。彼が重視するのは、「適性」と「技量」であり、決して「性別」ではないのだ。




 さくらとすみれが、並んで刃を振るって、切り込んでいく。

 二人は〈光武〉の性能に驚いていた。

 いつもなら、相応の霊力を消費するはずなのに、今はそれほどの苦にならない。わずかな霊力で、予想以上の効果を発揮するのだ。ラムダ・ドライバにこれほどの出力があるならば、めったな事で遅れを取ることはなさそうだった。

 宗介とマリアの放った弾丸も、残る鎧武者に命中し、敵を消し去った。

 残るは一体の鬼だけだ。




 しかし、やはり、初の〈光武〉による実戦というのが影響したのだろう。優位に進んだ戦闘に、さくらが一瞬だけ気を緩めた。

 その隙を見極めたかのように、鬼が口を開き、火球を吐き出した。

 轟っ!

 うなりをあげて火球が飛ぶ。

「真宮寺っ!」

 宗介の叫びに、さくらは火球に気づく。

 しかし、かわす時間は残されていない。

 さくら機の姿が爆炎に隠れて見えなくなる。

 しかし──。

 その爆発は、さくらに達していなかった。

 直前の空間で完全に遮断され、さくらはまったくの無傷である。

『あれは? あれが、さくらさんの真の力ですの?』

 すみれが驚きの声をあげる。

『まさか、結界?』

 マリアもまた、見えない壁が爆発を防いだ瞬間を見た。

 自分たちの攻撃の様に、刀や銃弾といった物体を媒介せずに、具現化した力。

 だが、当のさくら自身も驚いていた。

「…………っ!」

 これが自分の力でないことは、さくら自身にもわかっている。

 すみれでも、マリアの力でもない。

 そうなると、答えは一つだった。

 さくらが、ボン太くんに視線を向けた。




 実は、〈ミスリル〉で製造できるのは、宗介が稼働に成功したラムダ・ドライバの、コピーにすぎなかった。そのため、〈ミスリル〉製のラムダ・ドライバには、宗介のデータが標準で組み込まれており、たとえ、他の誰か用に調整されていたとしても、宗介は自分の意志で作動させる事が可能なのだ。

 いま、さくらの〈光武〉は、近くにいた宗介の意識を感知し、斥力場の障壁を作り出して、爆発を防いだのだ。

 宗介が帝国華撃団に配属されたのは、まさしく、このためなのだ。花組に所属する少女たちを守るために……。

 そして、まだ誰もしらない事実があった。

 この霊子戦用ラムダ・ドライバは、宗介と操縦者の二人分の情報が登録された状態にある。そのため、二人が協力して稼働させたときこそ、このラムダ・ドライバはより強い力を発揮するのだ。




「真宮寺、動けるか?」

『だ、大丈夫です。やれます』

 その声には十分張りがあった。もとより、損傷を受けていないのだから、無事のはずだ。

「では、お前が決めろ。敵は近いぞ」

『はい!』

 さくらは機体を翻して、敵の真横に移動した。

 刀を構え直す。

『破邪剣征……』

 言葉に合わせて、足を踏み出す。

『桜花放神ーっ!』

 それは、さくらが会得している最強の技だ。

 ラムダ・ドライバによる影響だろう。

 さくら本人がイメージした光景が、その場に具現化された。舞い散る桜の花びらが、風の奔流に流され、鬼に向かって吹き荒れたのだ。

 さくらの刀が一閃し、刀身が届かないはずの鬼を両断してのけた。刀から発した閃光が、間合いの外の敵を切り捨てたのだ。

〈光武〉は圧倒的な力の元、鬼の撃退に成功した。




 怨霊とは、恨みを持った人間の霊だ。

 鬼とは、魔界にすむ魔物である。

 鬼が出現するというのは、非常に霊的に汚れている証拠で、異界との境界がほころびやすくなっているのだ。

 そのため、帝国華撃団の霊能部隊である夢組が出動し、公園内を浄化している。

 その一方で、花組はといえば……、花見の真っ最中であった。

 公園内での事故調査という名目で一般人を閉め出しているため、自分たちだけの貸し切りであった。

 むろん、先ほど一戦交えたばかりなので、華撃団関係者から苦情がでるはずもなかった。

 それに、こんな機会でもなければ、歌劇団員として人気のある、すみれ、マリア、アイリスがのんびりと、花見など楽しめるわけがないのだ。まだ、デビューもしていないさくらだけは顔を知られていなかったが。

「軍曹〜。さあ、お酌いたしますわ」

 すみれがなにやら、宗介にしなだれかかってきた。

「酔っているのか? この仕事を長く続けたかったら、アルコールは控えることだ。脳細胞が破壊されるぞ」

 宗介がすみれに忠告する。

「その、すみれが飲んでいるのは、甘酒です。アルコールはふくまれていないはずなのですが……」

 マリアが本人に替わって説明し、すみれをなだめはじめる。

「ねぇ、お兄ちゃん。あのぬいぐるみの名前教えて」

 替わってアイリスが尋ねてきた。

「ボン太くんだ」

 むっつりと応える。

「この子、ジャンポールっていうの。ボン太くんと仲良くしたいんだって」

 抱えているぬいぐるみを宗介に見せた。

「そうか。よくわからんが、同じ隊員同士、友好的であるのに越したことはない。シャトーブリアン、これからもよろしく頼む」

 宗介の呼びかけに、アイリスだけでなく、皆がきょとんとなった。

「アイリスの事は、アイリスって呼んでくれなきゃ、ヤ!」

「しかし、君の名だろう? 何か、問題があるのか?」

「アイリスの方がいいの」

「では、君の言うとおりにしよう。それでいいか? アイリス」

「うん」

 頷いたアイリスが、満面の笑みで応えた。




 すでに〈光武〉の回収をすませた輸送空挺部隊の風組や、この場所の浄化を終えた夢組。はたまた、所属不明な人間も混じり、場が賑やかになった。

 興が乗ってくると、アイリスや、すみれが歌を披露し、当然のごとく宴が盛り上がった。

 もともと、楽しんだり騒いだりするのが好きな人間ばかりだった。

 マリアは、決して騒いだりはしなかったが、仲間たちを見つめる視線は優しかった。

 宗介も同様で、隊員が笑みを浮かべているのを、満足げに眺めている。

「しかし、初戦までも上野公園とはな……」

 帝国華撃団へ配属され、迎えに来たさくらとの合流地点も、同じく上野公園だったのだ。それを思い出して宗介がつぶやく。

 耳に届いたのか、さくらがこちらに振り返った。

「そ、そんなの、単なる偶然です!」

 妙に強い口調で否定してきた。

「そう考えるのが自然だろうな。俺も同感だ」

 彼はあっさりと頷いて見せた。




 ──つづく。

 平政桜に、浪漫の嵐〜♪




 あとがき。

 この話は、ミスリル対アマルガムが終了しているであろう、翌年の春が舞台となっています。

 話の都合上、ラムダ・ドライバがすでに実用可能な状況となっていて、調査・研究の期間が短すぎるとは思いますが、その点には目をつぶってください。

 おわかりと思いますが、黒之巣会は登場しません。

 補足:デフォルトで宗介のデータが登録済みという設定は、『勇者警察ジェイデッカー』の超AIを参考にしました。








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