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こんなベリー・メリー・クリスマス -[1] -[2] -[3] -[完]


こんなベリー・メリー・クリスマス(3)


 テッサを欠いた〈トゥアーハー・デ・ダナン〉が高速水中艦三隻との戦闘中。

 その緊迫した状況だというのに……、

「そうですか。では、戦闘終了の連絡を待ちましょう」

 テッサの対応は落ち着いたものだ。

『なにをのんきな……』

 クルーゾーの言葉を、テッサが遮った。

「待ってください。中尉は、マデューカスさんの事を知っていますか?」

『どういう意味です?』

「陸戦隊員には知られていないでしょうけど、マデューカスさんは、潜水艦乗りの間では有名な人なんですよ。まあ、英国海軍のデューク(公爵)といった方が通りはいいでしょうけど」

『公爵ですか?』

「はい。彼の冷静沈着にして、大胆不敵な操艦からつけられた異名です」

 そう言われても、クルーゾーには、単なる技術屋然とした姿しか思い浮かばない。

「仮にも潜水艦の副長が、事務能力や、管理能力だけで選ばれると思いますか?」

 言われてみれば、確かにその通りだった。陸戦隊に置き換えたならば、カリーニンの副官に事務官がつくようなものだ。実戦経験もない人間に務まる仕事ではない。

 自分たち〈ミスリル〉は、敵も存在せず定期演習を繰り返すだけのお飾りの軍隊ではない。

 むしろ、絶えず戦場を渡り歩き、なお、人手が足りないという組織なのだ。正規軍ではないからこそ、能力こそが重要視される。あのサガラ軍曹をあの若さで重用する軍隊など、他にあるはずがない。

『申し訳ありません。浅はかでした』

「あら、私に謝罪されても困りますよ。……それに、そう考えているのは、クルーゾーさんだけではないと思いますし。これで、クルーのみんなもマデューカスさんの実力を理解してくれるかもしれませんね」

 楽しそうにテッサがつぶやいた。




 一成はかなめと共に、ショッピングセンターへ向かって通路を進んでいる。

 かなめを振り返ると、さすがに不安を隠しきれないように見えた。

 宗介が一緒にいた時は、こんな顔をしていなかったはずだ。認めたくはないが、自分もまた、宗介がいたことで恐怖を感じずに済んでいた気がする。

 同じような素人とはいえ、自信満々に振る舞った方が、同行者を安心させる事ができるのかも知れない。

「千鳥。心配するな。お前は俺が守ってみせる」

「う、うん。頼りにしてるからね」

 一成が自分に気を使ったことぐらい、かなめにもわかった。

 宗介がいないことで、心細い顔をしていたのだろう。

 自分は、こんな経験が何度もあった。逆に、巻き込んでしまった一成に申し訳ないぐらいだ。

 その一成が足を止めた。

「出てこい! 隠れていても分かるぜ」

 一成が、通路の曲がり角にサブマシンガンを向ける。

 かなめ自身は、その相手を目にしていない。

「勘違いじゃないの?」

「いや。確かに気配を感じた。出てこねぇのなら……」

「ま、待ってくれ。私は敵じゃない」

 その人物が曲がり角から、慌てて飛び出してきた。船員の格好をしている。

「誰だ貴様は?」

 一成が銃口を向ける。

「船長さんだわ」

 答えたのはかなめだった。

「本当か?」

「うん」

 乗船してすぐに、かなめは船長の挨拶を受けた。

 間違い無いはずだ。

 かなめの言葉に、一成が銃口を下ろした。

 たしかに食堂でスピーチしていた人間のようだ。

 船長ならば、自分たちと同じく、シージャックによる被害者だ。警戒する必要はないだろう。

「君は……君たちは、どうしてここに?」

 こちらの様子をうかがいながら船長が尋ねてきた。

「隙を見て逃げ出してきたんです」

 かなめが答えた。

「……そうですか。私はこの船の中を知り尽くしています。私が、あなた達を安全な場所までお送りしますよ」

 客を安心させるためだろうか?

 船長が笑ってみせる。

 かなめにはその笑みが、なぜか、獲物を前した肉食獣のように思えた。




 テッサは〈アラストル〉の行動原理を看破した。

 おそらく、かなめを探しているのだ。

〈アラストル〉の行動を直に見ようとしてその場に出向いたテッサは、いつものようにずっこけた。

 そのテッサに〈アラストル〉が迫った時は、さすがに、皆の心臓が飛び跳ねた。

 だが、〈アラストル〉はテッサに襲いかかろうとはせず、情報を得るべくその容姿をスキャンしたのだ。

 敵組織〈アマルガム〉が欲する少女――考えられるのは、ウィスパードであるかなめの存在であった。




 テッサは自分を囮として、 〈アラストル〉を誘導し殲滅する作戦を提案した。

 しかし、それは皆の猛反発を受けた。

 それも当然だろう。

 頭脳労働ならまだしも、テッサの運動神経は並以下なのだ。ヘタにテッサが捕まりでもしたら、西太平洋戦隊は打つ手がなくなる。

 それに、かなめを目的としているならば、テッサはその対象からは除外される事になるのだ。

 危険すぎる――。

 だが、テッサは強引にその作戦を皆に受諾させた。

 陣代高校の生徒達は、テッサにとっても大切な友人達だった。自分には、巻き込んでしまった皆を守る責任がある。

 そして、彼女の作戦に変わる代案をだれも提示できなかったのだ。




 がんっ!

 不意の衝撃に一成が倒れた。

 一成を責めるのは酷というものだろう。

 いかに強いとはいえ、彼は一介の格闘家に過ぎないのだ。宗介の言葉ではないが、彼は素人なのだ。

 仲間とみなした船長に襲われるなど、予想外の事だった。

 傍らに立つ船長が、自動拳銃の銃底を、一成の後頭部に叩きつけたのだ。

「椿くんっ!」

 かなめが叫ぶ。

 船長がイヤな目つきでかなめを見つめる。

「〈ミスリル〉のせいで、私はこの船を失ってしまった。こうなった以上、君だけはなんとしても、つれて帰らねばならないのだよ」

 その言葉にかなめが驚いた。

「〈ミスリル〉?」

 なぜ、〈ミスリル〉がこの事件に関係するのか?

 まさか、あのテロリストが〈ミスリル〉なのだろうか?

 戸惑ったものの、かなめは身を翻して逃げ出そうとする。

 一発の銃声。

 その弾が命中して、かなめがその場に転倒する。

 そのまま、まったく身体が動かない。

 撃たれた?

 その想像に、背筋が冷たくなった。

 しかし、その恐怖を払拭したのは当の船長だった。

「動けないだろう? 今のは筋弛緩剤を仕込んだ特殊な弾丸だからね」

 その薬を打ち込まれた人間は、その名の通り筋肉が弛緩してしまい、行動することができなくなってしまう。

「さあ、長居は無用だ」

 船長は、声も出せず、身動きもできない、かなめの身体を担ぎ上げた。




 いま、テッサは〈アラストル〉の前に自らの身体をさらしている。 〈アラストル〉の目的がかなめなのは間違い無いはずだった。

 それでは、自分はその標的として登録されていないのだろうか?

 いや――。

 彼女には確信があった。

 この〈アラストル〉には、兄であるレナードが関わっているらしい。

 自分はレナードにとって、重要な存在のはずだ。利己的な計算によるものか、独善的な愛情によるものか、そこまでは理解できないが……。

 そして、レナードならば、どのように〈アラストル〉に行動プログラムを組むだろう?

 今回の作戦の目標は、あくまでかなめだった。その船に、テッサがのりこんでいるなど、普通は考えもしないはずだ。

 だが、レナードは別だった。

 彼の予測を覆す事態など、めったにないはずだ。

 彼の優秀さは、残念なことに、よく知っている。

 おそらく……。

「大佐殿。危険です」

 焦燥も露わに宗介が通信機に話しかける。

『大丈夫です』

「しかし……」

 不安そうな宗介の表情をみて、テッサが笑顔を浮かべてみせる。

『わたしはいつも同じような思いだったんですよ。もう少しだけ、耐えてください』

 その言葉は宗介を驚かせた。

 宗介は最前線で身体を張るのが仕事だった。

 しかし、部隊の責任者が実際の戦場へ出ることは、ほとんどない。だが、実際は、一番辛いのではないだろうか?

 部下を危険な場所へ送り出し、現場の人間を信じて、祈り続ける。それは、銃を持って戦うことと同じくらい、苦しい戦いなのだろう。

 何十、何百といった命に責任を負うのは、すさまじい重圧になるはずだ。

 宗介は改めて、彼女の存在を尊いものとして感じ取っていた。

 彼女をこんなところで失うわけにはいかない。

 サブマシンガンを握る手が、じっとりと汗ばんでいた。




 人を一人担いで動き回るのは、鍛えていない人間には重労働だ。船長は時々、かなめの身体を下ろしながら、救難ボートへ向かっていた。

 彼女が太っているとは言わないが、軽すぎなかったのは、幸運だったろう。

「ま、……待ちやがれ」

 背後からハリスを呼び止める声がかけられた。

 振り向いた船長の前に、ふらつきながら一成が姿を見せる。

「さっきのガキか」

「千鳥を置いていきな。そうしたら見逃してやるぜ」

 ふらつきながら一成がそう告げる。

「断ったらどうするんだね?」

 相手の様子を見ると、ハリスはあざけりを含めて尋ねた。

「この場でぶちのめす」

 一成がにらみつけた。

 しかし、ハリスは笑みを浮かべた。

 一成にダメージが残っているのが見て取れたのだ。ただの虚勢としか思えない。

「生意気なガキが。追ってきた自分の愚かさを悔やむがいい」

 ハリスが自動拳銃を取り出した。

 しかし、一成は怯まない。

 正面からハリスに向かって走った。

 ハリスが発砲するが、初弾ははずれた。

 一成も映画ぐらいは見ている。銃で狙うなら頭ではなく、動かない胴を狙う。

 ハリスが外したのもこれが原因だ。

 そして、胴体ならば防弾ベストが守ってくれるはずだ。

 一成がハリスに迫る。

 だが、さすがにここまで近づけば、外しはしない。

 二度目の銃声。

「……なっ!」

 ハリスが自分の目を疑った。

 一成の姿が視界から消えたのだ。

 当然、銃弾もはずれた。

 弾丸が発射される瞬間、一成は右へ向かって床を蹴っていた。

 正面の敵ではなく、その側面へ飛ぶ。そして、再度壁を蹴って、敵へ襲いかかった。

 三角蹴りだ。

 一成の体重を乗せた蹴りが、ハリスの顔面に叩きつけられる。

「がはっ!」

 ハリスがもんどり打って倒れた。

 立ち上がった一成は、ハリスの手からこぼれ落ちた拳銃を、床から拾い上げる。

「だから、言ったじゃねーか……」

 千鳥を奪われるわけにはいかない。

 千鳥のため、自分のため、そして、宗介のためにも守り抜いてみせる。

「あいつに見下されるわけには、いかねぇからな」

 宗介は自分のことを嫌っている。だが、その宗介が自分に千鳥を預けたのだ。好悪の念を別にして、自分を信頼したからこそだ。

 がちゃりと音を立てて、別な相手が姿を見せる。

 黒いコート姿で、顔には横長の赤いサングラスをしているようだ。

「お前もテロリストの仲間か?」

 一成の問いに、相手は応えない。

 思いがけない方向から声があがった。

「やれ! やってしまえ! あのガキを殺せぇ!」

 ハリスが身を起こして叫んでいた。一成の蹴りを受けたために、前歯を失い、内出血で膨れあがり、鼻や口から血を垂れ流している。

 紳士然とした物腰を捨て去り、無様な姿だった。

 その船長の前に、彼の強力な味方が出現したのだ。いや、味方だったはずの存在である。

 船内で起動した、1ダースの〈アラストル〉のうちの、最後の一体だった。

 興奮して命じた船長だったが、自分の指示もなく起動した状況に気がついてしまった。

 何者かの命令で起動したのだ。そして、こいつらが実行できる命令は単純な命令だけだ。

「待て、この娘は私が手に入れたんだ。いまから、脱出するところだ。……お、おまえは、私の護衛をして……」

 機械相手に無意味だと思いながらも訴える。

〈アラストル〉の目にあたる赤いスロットが船長に向けられる。

〈アラストル〉は船長を味方とは認識しなかった。

 機体に内蔵された火器が、船長に向けて銃弾を撃ち込んだ。

 ボロ雑巾のようになって、船長は絶命する。

「ちっ!」

 一成が慌てて、かなめを担ぎあげようと駆け寄るが、その動きに〈アラストル〉が反応した。

 再び銃撃音。

「ぐわっ!」

 一成の悲鳴。

(椿くんっ!)

 かなめは初めから意識が残っているものの、身体が思うように動かなかい。

 床に横たわっている状態では視界が狭く、一成の様子を知ることはできなかった。

 倒れたままのかなめに、〈アラストル〉が歩み寄る。

 青ざめたかなめの顔を、赤いスロットが覗き込んだ。




〈アラストル〉をおびき出すために、宗介とテッサが船内を走る。

 すでに作戦は開始されており、SRTメンバー達も二人の援護に回っている。

 しかし、宗介に腕を引っ張られ、引きづられるように走っていたテッサが、足をもつれさせて、派手に転倒した。

「大佐殿!」

 宗介が、テッサを助け起こそうと手をさしのべる。

 そこへ、新手の〈アラストル〉が出現した。 〈アラストル〉の突き出した拳を、辛うじて宗介はマシンガンで受けた。だが、その衝撃で壁に叩きつけられる。

 宗介は倒れたまま動かなかった。

 頭でも打ったらしい。

 ぎょっとなったテッサが、それでも〈アラストル〉の手をすり抜けたのは幸運だった。彼女は床を転がって、〈アラストル〉の魔手から逃げ出すことに成功した。

 宗介との間に〈アラストル〉が割り込んでいるため、駆け寄ることもできない。

 テッサはそのまま踵を返した。

 連中が自分を追ってくる事に賭けたのだ。

 そして、〈アラストル〉達は、倒れたままの宗介には興味を示さず、テッサを追いかけてきた。




 あとは、「彼」の元へとたどり着ければ……。

 仲間達が〈アラストル〉に応戦する銃声が、背後に聞こえた。

 テッサはマオと行った、ASでの模擬戦を思い出していた。

 マオからの銃撃に追われながらも、テッサは無事に逃げ通して見せたのだ。

 ASを動かすよりは、この二本の脚の方がまだ信用できる。

『大丈夫。あなたならできるはずだ』

 あのとき、励ましてもらった宗介の言葉が、脳裏に思い浮かぶ。

 サガラさん……。無事でいてください。

 いや、宗介だけではない。皆、自分の大切な部下達だ。

 そして、巻き込んでしまった友人達。

 わずかな恐怖に耐えて、全員を守ることができれば……。

 本来は、指揮官がすべき行動ではない。

 むしろ、不要な行動だと言い出す人間だっているだろう。

 しかし、それでも、自らの力で窮地を脱してみたい。自分が彼らの支持を得られる人間だと証明して見せたい。なにより、守られてばかりだった自分から、少しは成長したいと願った。

 自分にだって、誰かを「守る権利」は許されるはずだ。




 二面のテニスコートがある、屋上の広大な甲板。

 そこへ、テッサは、文字通り転がり出た。

 手にしていたサブマシンガンで〈アラストル〉を牽制しつつ、テニスコートを走り抜ける。

 そのテッサが、途中で脚を止めた。

 向こう側からも〈アラストル〉が三機姿を見せたのだ。

 挟まれた。

 脱出路を失ったこの場所で、テッサは手近な排水溝に潜り込んだ。

 身を低くすることで、かろうじてお尻も飛び出さずに済んだ。

 しかし、その様子を全て見られていては、隠れてやり過ごすことなどできるはずもない。

 狭い排水溝の中で、テッサが通信機に話しかける。

「こちら、アンスズです。準備はいいですか?」

『肯定(アフアーマティブ)。連絡をお待ちしていました』

「彼」が答えた。

「では、発砲を許可します。敵を殲滅してください」

『ラジャー。Fire at will!』

 その声に合わせて、轟音がとどろいた。

 砲弾が、雨あられと降り注いだのだ。

 対人兵器として凄まじい殺傷能力を誇る〈アラストル〉であっても、その砲弾の雨の中では無事にいられるわけがなかった。

『ターゲットの破壊を完了しました』

 連続した爆発音が途絶えて、テッサが排水溝から、ひょっこりと顔をだした。

「シーズ・ファイア(撃ち方やめ)」

 テッサが命じる。続けて指示を行うと、それに従いASがモード変更を行った。

 何もなかった空間に、ECS(電磁迷彩)を解除した〈アーバレスト〉の姿が出現する。

 宗介の分身ともいえる、彼──自分と同じ力を持ったバニが作り上げ、宗介が育て上げたASだ。

 あたりに漂っていた煙が、風で流れていった。

 雲海を貫いて立つ神の如く、そのASが佇立している。テッサの目には、まさに守護神として映った。

 その〈アーバレスト〉が、クビをかしげた。やたらと人間くさい仕草だった。

『大佐殿、おひとりですか? 軍曹は休憩中なのでしょうか?』

 無機質な音声で尋ねてくる。

「そ、そうです。サガラさんっ……」

 船内に駆け込もうとしたテッサに通信が入った。




 潜水艦による戦闘は、海上の人間が何もわからないうちに決着していた。

 途中、〈デ・ダナン〉が発射したマグロック(対潜水艦ミサイル)が空中へ飛び出したりしたのだが、それぞれが忙しかったため気づいた者は皆無だった。

 通信は敵艦を屠ったマデューカスからのものであった。

「マデューカスさん。ご苦労様です」

 テッサが労をねぎらったが、マデューカスはそれどころではなかった。

『艦長、申し訳ありません。敵艦は全て撃沈しましたが、敵の発射した魚雷を一発阻止できませんでした。至急待避願います』

 今の通信は、作戦指揮官のクルーソーも受信していたはずだ。

「中尉。すぐに全員を右舷側に誘導してください!」

『了解しました』

 クルーゾーの声にも緊張が走る。

『その前に、こちらでも可能性を試してみましょう』

 その音声が通話に割り込んだ。

「アル?」

 テッサが〈アーバレスト〉の頭部を見あげた。

 その〈アーバレスト〉は、魚雷が迫り来る左舷に歩み寄り、海面下を探査する。

 水中を進む魚雷に向けて、〈アーバレスト〉は、頭部に搭載しているチェーンガンと、手にしたマシンガンで砲弾を叩き込んだ。

 テッサも海面を見下ろすが、海面は静かなものだ。

 魚雷が爆発した形跡はない。

 海水の抵抗により、弾道が狂うため、直撃させるのは非常に難しいのだ。

『軍曹がいれば、ラムダ・ドライバでの回避も考えられたのですが』

「いまから、呼んできます」

『もう、間に合いません。危険なので、船内に入っていてください』

「どうするつもりなんですか?」

『一つだけ試してみたいことがあります』

〈アーバレスト〉がセンサーで検出している魚雷に正対し、何も持っていない右手を突き出した。

 そして、距離を算出しながら、タイミングを計る。

 ワイヤーガンが射出する。

 ワイヤーの尾を引いて、先端のアンカーが水中に没した。

 砲弾とは逆のアプローチである。

 魚雷に当てるのではなく、魚雷を当てさせるのだ。

 進路上に出現したそのアンカーに、魚雷が激突する。

 至近距離だ。

 その爆発により、海面が盛り上がり、波がうねる。

 巨大なこの船が揺れた。

 このときに、数人が軽傷を負ったものの、直撃していれば海に投げ出されていたかもしれない。それを考えると、軽微なものだ。




 かろうじてこの客船は危機を脱した。

 皆が安堵のため息を漏らしたとき、ひとりの隊員から、次のような報告が入った。

『こちらカノ17。学生の負傷者を発見しました』




 ──つづく。




 あとがき。

 話の流れはほとんど原作と同じですが、重要な役割が真逆となっております。

 話を変えた方が、書き手としては楽しめるものですから。








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