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悪夢の南海遭難事件-[序] -[前] -[後] -[終]


悪夢の南海遭難事件(前編)


 それは、食堂でのこと。

「なんだとっ!」

「文句でもあるのか?」

 椅子を蹴倒して、二人が立ち上がる。

 お互いの襟首を締め上げるようにして、二人が取っ組み合いを始めたのだ。

「おいおい、やめとけよ」

 普通ならケンカ沙汰などが起きると、調子に乗って騒ぎ立てるはずの一人の青年が止めに入った。

 金髪の美青年で、優男にしか見えない。客観的にみて、彼の仲裁でケンカが止まると判断するものはいないだろう。しかし、ケンカをしている人間も、周囲の人間も彼がどういう人物か知っている。

 この部隊の精鋭・SRT(特別対応班)の一員であるクルツ・ウェーバー軍曹だった。SRT隊員の中でこそ、彼の格闘術は目立たないが、一般兵とでは比較の対象にならない戦闘のエキスパートだった。

 しかし、二人はケンカをやめようとしない。

「ちっ」

 クルツが腰を浮かしかけると、彼の正面に座っていた若い人物が、一瞬早く席を立った。

 クルツに先んじて、少年が二人に近寄った。

 二人とも、割り込んだ相手がどんな人物なのか知っているはずなのに、怒りの矛先を変えて少年に殴りかかる。

 しかし、少年はかわした拳に腕をからませて、相手の一人を投げ飛ばした。

 もう一人も、少年の拳をみぞおちに食らって、その場にうずくまった。

「ソースケ。俺の見せ場を取るんじゃねえよ」

 不満げにクルツが話しかける。

「それはすまなかったな」

 宗介が軽く応える。

 宗介はSRTどころか、部隊全体の中でも最年少になるが、格闘戦であればクルツをもしのぐ。

「で? ケンカの理由は、なんなんだよ?」

 クルツが、二人と食事をしていた人間に尋ねた。

「それが……」

 言いづらそうに、言葉を濁す。

「なんだよ?」

「スープの量が、お互いに相手の方が多いって話で……」

「は?」

「……?」

 くだらない理由に、宗介とクルツがあっけに取られた。




 二人はSRT専用の待機室に向かって艦内を歩いていた。

「なにかがおかしい」

 宗介が誰に言うでもなくつぶやいた。

「そうだよなぁ」

 クルツも思うところがあるのか天井を見上げた。

 強襲揚陸潜水艦〈トゥアハー・デ・ダナン〉が航海に出て、数日が経っていた。

 極秘事項とやらで、作戦内容や、目的地は宗介達にも教えられていなかった。しかし、問題はそこではない。

 そのわずかな日数において、いざこざが絶えなかったのだ。ケンカ沙汰になるのも珍しくない。先ほど、クルツが止めに入ったのは、すでにうんざりしていたからだった。

「なんか、イライラするようなことでもあったか?」

 クルツが相棒に尋ねるが、すぐにその言葉を翻した。

「あ、悪ぃ。お前に聞いても、無駄だったな」

「どういう意味だ?」

「お前は周りに気をつかうようなこと、しねえからな。みんなが、どんな話題で盛り上がっているかなんて、興味ないだろ?」

「そうとは限らん」

「じゃあ、テッサに彼氏ができたの知ってるか?」

「彼氏?」

「恋人ってことだよ」

「それが、どうかしたのか?」

 さすがにクルツが呆れて、説明した。

「俺たちにとって、テッサはアイドルなんだよ。自分たちにとって大切な、守るべき存在なわけだ。それを誰かに独占されたらイヤになるだろ?」

「そういうものなのか?」

「じゃあ、カナメが誰かと仲良くしてるのを想像してみろよ」

「ふむ……」

 言われるままに、想像をめぐらしてみる。

 彼女が誰かと一緒にいる……。

 例えば、彼女が遊園地を楽しんだ他校の生徒と。はたまた、素手での戦いに固執する妙な男と。

「……むう」

 宗介の眉間に寄ったしわが、明白な答えになっていた。

「そうなるだろ? テッサの場合も同じことさ」

「しかし、大佐殿が望んだことなら、何の問題もないだろう?」

「これだよ……。テッサも報われないよな」

 クルツが肩をすくめてみせる。

「どういう意味だ?」

「そうやってわかんないのが問題だって言ってんだよ」

「もっと具体的に説明してくれ」

「まあ、いいさ。恋人ってのは冗談だから。どっちにしろ、お前は周りの話を聞いていないってわけだ」

「つまり、大佐殿に恋人はいないのか?」

「冗談だって言ったろ? そんな話、誰もしてないぜ」

「そうか」

「おっ、もしかして、ホッとしたな」

「別に、そういうわけではない」

 しかし、クルツは宗介の言葉を無視する。

「やっぱりなあ。お前も隅におけないね。カナメだけでなく、テッサにも気があるんだから」

「違うと言っている」

「いいんだって、男として当然だよ。どっちも魅力的だからなあ。お前の気持ち、お兄さんにはよくわかるよ」

 妙に浮かれているクルツを、とりあえず黙らせようと考えて、宗介が拳を握る。

 そこへ……。たたたっと一人の少女が駆け寄ってきた。

 いつものカーキ色の制服。アッシュブロンドの髪。戦隊長として、この艦の責任者を務めるテレサ・テスタロッサだった。

「あの、サガラさん」

 話しかけた彼女の前に、クルツが進み出た。

「お、テッサ。今、ソースケがテッサに恋人がいなくてよかったって……」

 ごん!

 クルツの後頭部に、宗介の容赦のない拳が炸裂した。

「ぐぐぐ……」

 クルツが後頭部を押さえてその場にうずくまる。

「なんでしょうか?」

 宗介は何事もなかったかのようにテッサに尋ねた。

「あの、わたしは今のお話を、もう少しお聞きしたいんですけど」

「自分に、何かご用だったのでは?」

 宗介が、強引に話題を変える。

「そ、そうですね。ちょっと、いいですか?」




 宗介が、テッサに連れてこられたのは、医務室だった。

 中へ入ると、そこには二人の人物が待っていた。

 一人は艦医のゴールドベリ大尉。彼女はいて当然である。

 もう一人は意外な人物で、この戦隊の副長を務めている、マデューカス中佐だった。

 彼は宗介を見て表情を険しくする。

「艦長」

 そう呼びかけただけで、テッサに意味は通じた。

「ですが、どうしても戦力は必要です。サガラさんなら実力は申し分ないですし……」

「それならば、少佐でもかまわないはずです」

 少佐とは、宗介の属する陸戦隊全ての責任者である、カリーニン少佐のことだろう。

「いえ。カリーニンさんでは目立ちすぎます。敵を警戒させないためにも、一兵卒の方が……」

 マデューカスは、なおも言い足りないようだったが、ため息をついて見せた。

「まあ、いいでしょう。この件を知る人間は少ない方が望ましいのですから……。サガラ軍曹、くれぐれも彼女の信頼を裏切ることのないように気をつけたまえ」

 そう言って、宗介をじろっとにらんだ。

 宗介にとっては居心地が悪いことおびただしいが、なにやら、重要な用件であることだけは察しがついた。いまさら、手を引くわけにもいきそうにない。




 宗介が初めて潜水艦に搭乗したのは、この戦隊に来てからのことになる。だから、他の潜水艦内の雰囲気や、人間関係といったものを全く知らない。

 マデューカスの説明によると、〈トゥアハー・デ・ダナン〉は、比較的に規律が甘い割には、皆の士気は理想的と言えるらしい。

 普通の艦では、艦長は絶対権力者としてにらみをきかせ、権威や規則で皆を従えている。逆に、艦長にはそれだけの、能力や責務が要求される。

 しかし、全く逆のテッサの様な艦長が現れた。どのような歴戦の艦長をもしのぐ指揮能力を持ちながら、か弱い少女。彼女を守るためにあらゆる隊員が、自らの職務をより以上にこなそうとしている。そこには、上からの強制だけでは生まれない、同志のような連帯感が発生しているらしい。

 その説明が全て理解できるとはさすがに言えないものの、宗介にも実感できる部分が確かにあった。

 ところが、今回の航海中では、いざこざが多発している。

 それは、宗介が感じたように、いままではなかった状況なのだ。

 そこで、マデューカスが注目したのは、水だった。食堂もそうだし、トレーニングルームや、水を口にする場所で騒動の発生率が高いらしい。

 ゴールドベリは、マデューカスから飲料水の調査を依頼されていたのだ。

 そして、飲料水になんらかの成分が混入されているのが判明した。まだ薬物の特定までにはいたっておらず、その点はこの後の調査であきらかにするしかない。

 宗介が命じられたのは、その実行犯の制圧であり、再発の防止だった。もちろん、現状では情報が少なすぎて不可能だが、いずれ犯人が特定された場合、宗介の出番になる。それまでは、艦内を定期的に見回るなどして、予防に努めるしかなかった。

 水不足を理由に、水の使用を控える通達を出そうとの案も出たが、犯人を刺激するのを避けるために、現状維持となった。




 数日間は、例のいざこざが偶発的に起きる程度で、周囲の人間が早めに止めているため、それほどの問題にはいたっていない。




 SRT専用待機室に宗介達数名がいた。それはこの部隊の最精鋭達だ。

 扉を開けて、一人の少女がひょっこりと顔を覗かせた。

「大佐殿?」

 彼女に気付いた宗介の声に、クルツ達も顔を上げた。

 クルツは、宗介の顔でも見に来たのだろうという考えが頭をかすめたが、テッサは室内を見渡し、落胆したように見える。

「どうしたのよ?」

 マオに尋ねられたテッサが説明する。

「マデューカスさんを見かけませんでしたか?」

「いえ。見てないわ」

 マオが周囲に視線を向けるが、皆も同様に首を振る。

「そうですか……」

「中佐のことだから、発令所か自室じゃないの?」

「それが、どちらにも見あたらないんです」

 マオの指摘は当然のことだが、だからこそテッサも真っ先に確認を済ませていた。

 緊急事態でもないのだから、マデューカスの不在は問題視するほどのことではない。だが、真面目な彼の行動としては相応しくなかった。

 マデューカスの声色をまねて、誰かが答えた。

「パトロール中です。艦長」

 クルツの言葉に、数人が吹き出した。

 通常、その言葉を発するのはテッサの傍らに立つ、マデューカスの役割だからだ。

 テッサは、クルツをにらんで見せた。

 彼女が怒るのも当然で、その言葉は殉職の隠語として使用されるので、冗談で使われたくなかったのだ。

「悪かったよ」

 クルツは肩をすくめる。

 しかし、それは冗談ではすまなかったのだ。




 彼の遺体は食堂で発見された。

 飲料水のタンクの傍らに、生命を失ったマデューカスの身体が転がっていた。

 彼は至近距離から射殺されていた。

 犯人は不明だった。

 現場を訪れた、宗介が慄然となる。

 宗介にはこの状況に隠れた事情が分かった。この事件は、以前に聞かされたテッサ達の話に係わっているのだろう。

 彼が引き受けたのはマデューカスの護衛ではない。しかし、事情を知っていた者として、口惜しく思った。少なくとも相談した面子の中で、体を張るべきなのは、自分であるべきなのだ。

 宗介の隣にテッサが立った。

 室内のマデューカスの遺体を目にして、青くなっている。

 死体を見慣れた宗介とは違う。テッサに限らず、乗員たちも、直接死体を目にする機会は少ないだろう。技術が発達したことにより、死体を見ずに敵を殺すことは、より簡単になってきている。

 この時代、スイッチ一つで、数万人規模の人命を奪うこともできるのだから……。




 そして、皆を驚かせるもう一つの事態。

 またしても、遺体が発見されたのだ。

 それは、遺体を調べてもらおうと考えていた人物――艦医のゴールドベリ中尉だった。

 医務室で死体を見たテッサは傍らに立つ宗介にしがみついた。

 当然だろう。

 飲料水に混入された薬について知っている四人のうち、ふたりまでが殺されたのだ。

 何者かは、どうやってかは不明だが、こちらが事態を知ったことを察して、先手を打ってきたに違いない。その情報力や行動力は、甘く見られる相手とは思えなかった。

 敵の戦闘能力が宗介の技能を上回っているとは思えないが、少なくともこちらの隙をつくことは可能なのだ。その一点だけでも、非常に不利だ。

 そのうえ、自分が狙われるとは考えづらい。

 残る人物は、宗介とテッサ……。

 どちらが、狙いやすいかは自明の理だった。

「大佐殿、クルーゾー中尉のそばにいてください」

「え?」

「あの男なら、白兵戦でも格闘戦でも、この艦で最強でしょう」

 ASでの格闘戦において、彼は宗介を圧倒したのだ。おそらく、生身の身体で戦闘を行っても優秀なはずだ。

「自分が囮になります。早めにケリを付けるべきです」

「サガラさん……」

 心配そうにテッサが宗介を見返した。




 格納甲板にいるクルツのもとへ、宗介がやってきた。

 何者かの行動は早い。

 宗介としては、なんとか先手を打つべく、クルツの助力を仰ぐつもりでいる。彼が敵とは、宗介には思えなかったからだ。

 クルツは自分のASで照準の調整中だった。宗介は機体の傍らに立ち作業が終わるのを待っている。

 そして、宗介は視界の端に意外な人物を認めた。

 ベルファンガン・クルーゾー中尉――SRTの隊長であり、宗介やクルツの直属の上司にあたる。彼はテッサからの指示で、彼女の護衛をしているはずだった。

 それが、どうしてひとりでこんなところへ?

 怪訝そうに宗介が見ていると、彼は自分のASに乗り込んだ。

〈ファルケ〉が起動を始める。

 格納甲板が騒然となる。

 誰もASの起動を聞かされていないのだから、当然だった。

「どういうつもりだ? あの、おっさん」

 クルツも不機嫌そうに疑問を口にする。クルツは個人的にクルーゾーを嫌っているが、だからといって、能力や識見を認めていないわけではなかった。

 独断で、潜行中の艦内でASを起動させる。――いつものクルーゾーからでは考えられない行動だった。

 いつものクルーゾーではない?

 そう思いついた宗介が愕然となった。

 何者かの実力行使ばかり警戒していたが、もう一つ、薬の一件がある。

 いままでは、ケンカ程度ですんでいたが、もしも、そのケンカにASを使用したらどうなる?

「クルツ。手伝え。中尉を止める」

「お、おい……ソースケ?」

 宗介はクルツの返事を待たずに、〈アーバレスト〉に乗り込んだ。

〈アーバレスト〉までも起動して、整備担当達の騒ぎが大きくなる。

「知らねーぞ」

 クルツが投げやりに通信機に話しかけて、自分のM9を起動させる。

『サガラさん。聞こえますか?』

 クルツとは違う声が、通話に介入する。

「良好です。大佐殿」

『事情は聞きました。今のクルーゾー中尉は混乱しているようです。できれば、彼を無傷で取り押さえてください』

「…………」

 さすがの宗介も、即答出来なかった。

 相手は並の兵士ではないのだ。

 もしも相手が、クルツや、マオや、カリーニンであっても、なんとかなるだろう。

 しかし、あの男だけは別だった。

「……善処します」

 それだけ答えるのがやっとだった。

〈ファルケ〉は、起動した〈アーバレスト〉に向き直った。

『サガラ軍曹。貴様は戦いが好きか?』

 唐突に通信機を通してクルーゾーが尋ねてきた。

「否定です」

『私もだよ。殺し合いにはもう、うんざりだ』

「でしたら、すぐにASから降りてください。我々が戦う必要はありません」

『いや。そうもいかん。この艦がある限り、戦いを避けることはできない。そうだろう?』

「それは逆です。戦いがあるから、この艦が必要なんです。艦がなくなっても戦いがなくなるわけではありません」

『私はもう、うんざりだと言ったはずだ。この艦にも、ASにもな』

 クルーゾーが宣言する。

 構えたサブマシンガンを船体に向けて斉射する。

 艦内に銃声が反響する。

 宗介だけでなく、皆の背筋が寒くなった。

 いつこの艦が沈むか分からない。それだけの事態だと、皆が認識したのだった。

〈アーバレスト〉が動いた。

 こちらは、クルーゾーと違って火器を使用するわけにはいかない。

 真っ直ぐにに突進してくる〈アーバレスト〉に、〈ファルケ〉がサブマシンガンを向ける。

 ひるむわけにはいかない。

 かわすわけにもいかない。

 一刻も早く銃を奪い取らなければ!

 そのためには、ラムダ・ドライバを使いこなすしかなかった。

 二機の中間で銃弾がはじける。

〈アーバレスト〉に搭載されたラムダ・ドライバが稼働し、二機の間に虚弦斥力場が出現し銃弾を全て防いでくれた。貴重な数瞬を手にした〈アーバレスト〉が、ファルケの間合いに飛び込んだ。

〈ファルケ〉の右手からサブマシンガンを払いとばすが、〈ファルケ〉は構わずに〈アーバレスト〉の胴体に拳を叩き込む。続けて、蹴りが来た。その攻撃はガードをかいくぐり、確実に〈アーバレスト〉にダメージを与える。

〈ファルケ〉は、〈アーバレスト〉やクルツ機と、上手く距離を取り、単分子カッターを引き抜いていた。

「まさか、また艦内でAS戦をすることになるとはな」

 おもわず、宗介がつぶやく。

 とんでもない事態になった。

 あまりに突然すぎた。

 なんの兆候もなく、突然のAS戦。

 しかし、嘆いていても事態が改善されるはずもないのだ。現状で出来うることを実行に移す。宗介は並の兵士ではない。少なくとも戦場においては、自らの意志や感情を制御できる。

 なんとかして、奴を制圧するしかあるまい。

 どんなに不利な状況だったとしても……。

 艦の損傷を気遣う宗介としては、火器はほとんど使用できない。だが、奴は逆だ。もともと、艦を沈めるつもりなのだから。

 そうなると、接近戦ということになる。宗介としても格闘戦は得意分野だ。他のSRT隊員を相手にするなら、ひけをとるつもりはない。しかし、この男だけは別だ。自分はすでにあの男に敗れているのだ。

 今のやりとりだけでも、腕の違いが分かる。

 ただ一つ有利な点は、〈アーバレスト〉にしか搭載されていないラムダ・ドライバだけだ。しかし、格闘戦で使用する機会があるかどうか……。使いこなせるという保証もない。

「く……」

『行くぞ。サガラ軍曹』

 クルーゾーの声が通信機から聞こえてきた。




「なんてこった……」

 クルツが呆然となる。

 彼も自分のASに乗り込んでいるものの、なんの行動も起こせずにいる。

 実際、宗介とクルーゾーは、ASの格闘戦において、この戦隊でトップを争う。

 クルツでは介入する余地はないのだ。

 ヘタにクルツが参加すると、宗介はクルツ機への攻撃をしないよう気遣う必要があるし、クルツ機を守るために行動が制限されるかもしれない。

 クルツはなすすべもなく傍観しているしかないのだった。

「ちっ! この俺が、M9に乗って何もできないのかよ!」

 クルツが嘆いた。




 いまは、なんとか互角に持ち込んでいるが、それもラムダ・ドライバが望んだ通りに動いているからだ。

 いつまた、起動にしくじるとも限らない。

 いまですら、薄氷を踏む思いで戦っているのだ。

 無傷で制圧することなど不可能だ――。

 失敗するまで戦い続けるわけにもいかない。

 一撃で敵を止める。

 ――それしかない。




「クルツ。今から、ヤツの動きを止める」

『ソースケ?』

「その隙にヤツを撃て」

『おい、無茶だっ!』

 クルツの制止を宗介は聞かなかった。

〈ファルケ〉の両腕を押さえるようにして、組み付いていた。

 クルーゾーはなんとか、自由になる両足で〈アーバレスト〉を引きはがそうとする。

〈ファルケ〉の背中がクルツ機に向けられた。

「早く撃て」

『そんなことしたら、お前まで』

 クルツが躊躇する。

「俺にはラムダ・ドライバがある」

『そんなこと、言ってもよ……』

「早くしろっ! 長くはもたんぞ」

 戸惑ったクルツだったが、彼にも事情はある程度察しがついた。

 宗介の駆る〈アーバレスト〉ですら、〈ファルケ〉を押さえ続けることは無理なのだろう。

『失敗しても恨むなよ』

「無論だ」

『ちっ……』

 クルツが舌打ちしながらも、照準を覗いた。

 クルツのM9が滑空砲を構えて、〈ファルケ〉と〈アーバレスト〉に向ける。

「いいんだな?」

『早くしろ!』

 宗介の声。

 クルツの顔から表情が消える。一個の彫像のようになり、感情が消え失せた。

『南無三』

 ひとことつぶやいて、引き金を引く。

 クルツの目には見える。

 予測する弾筋と、それをなぞる砲弾の射線が──。

 砲弾が〈ファルケ〉の背中を貫いた。

 そして、閃光──。




 ──つづく。 




 あとがき。

 

 まず、謝罪など。

 マデューカスファン、ゴールドベリファン、そして、クルーゾーファンの方々。

 ……いるかどうか、しりませんけど(^ ^;)。

 申し訳ありません。お話の都合上、このような展開となっております。

「今回の謝罪」はこんなもので……。










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