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地上最強の高校生  -(前編) -(中編) -(後編)


地上最強の高校生(中編)


 ある音が宗介の耳に届いた。

 宗介にはそれが聞き慣れたものだとすぐにわかった。自動小銃による掃射音だ。

 屋上にいるもう一人の人物――優もまた、この音に気づいたようだ。

 宗介の携帯電話が鳴りだす。

 優を警戒しつつ、宗介は携帯電話を耳にあてた。

「千鳥さんがさらわれたよ!」

 信二が泣きそうな声で告げてきた。

「なにっ!? 相手は誰だ?」

「わからない。突然襲撃してきて、さらっていったんだ。カメラもモニタも全部壊されちゃった」

 信二自身は無事だったらしい。宗介が命じたとおり防弾ジャケットを着ていたのが幸いしたのだろう。

「ちっ――」

 優の事など後回しだ。

 宗介が階段に向き直ると――。

「なんだ、やらないのかい?」

 一人の少年が、出入り口に立っていた。

 宗介や優と似た少年。

 それは年格好ではなく、生きてきた人生が、その在りようが似ているのだ。

 身にしみついているのは、血と硝煙の匂い。

 間違いなく、宗介や優の同類である。

「てめぇ……」

 優が相手をにらみつける。

「知っているのか?」

「…………」

 宗介の問いに、優は答えない。

「お仲間だよ。そうだろう、NO.43」

「てめぇらと一緒にするんじゃねぇ!」

 宗介相手の時とは違い、優が激昂する。

「君たち二人を相手に勝てる自信はないんでね。このまま失礼するよ」

 ひょいっと軽く何かを落とした。

 手榴弾だ。

 とてもじゃないが拾い上げる余裕などないだろう。

 宗介と優はその場に伏せる。

 その爆発は、少年が姿を消した屋上の出入り口を吹き飛ばしていた。瓦礫で埋もれてしまい、階段が塞がれてしまう。

 ふたりは屋上を囲うフェンスへと走り、身軽によじ登る。そして、そのまま外へと身を投じていた。

 屋上の縁に手をかけて、階下のベランダに飛び降りる。

 宗介は校庭を見下ろし、なんの騒ぎも起きていないことを確認した。

 あの人だかりでは抜けるのは難しい。

 となると……裏の林か?

 窓ガラスを割って飛び込んできた人物に、生徒も客も呆気にとられる。

 それを無視して宗介は走り出していた。

 

 

 

「なぜついてくる?」

 宗介が併走する優に尋ねた。

 どうやら、優と謎の襲撃者は仲間ではないらしい。

 だからといって、自分の味方とは限らない。

「オレは任務でここへ来たんだ。そっちこそ引っ込んでろ」

「そうはいかん。これは、俺の仕事だからな」

「邪魔すんなよ」

「それはこちらのセリフだ」

 競い合うように二人は校内を走り抜ける。

 

 

 

 林の中を十数人が走っている。

「見ろ、貴様がトラップを解除したからだ」

「だったら、もっと上手く隠せ! 人のせいにするんじゃねぇ!」

 ふたりは非建設的なやり取りを繰り返す。

 逃亡している連中が、足を止めてこちらに銃口を向けた。

 即座にふたりが反応する。

 ふたりが両側に飛びのくと同時に、その場を銃弾の豪雨が襲った。

 左右の木の陰に二人が身を隠す。

「この場に、君がいるということは、事前に僕たちの情報をつかまれていたらしいね」

 敵の言葉に反応したのは優の方だった。

「おい。その子は俺と無関係だ。解放しろ!」

 その言葉に、宗介が首をひねる。

「賢者の石は俺が持っている。これが目的だったんだろう?」

 優の言葉に相手が笑い出した。

「はははははっ。君は勘違いしているようだね。僕たちの目的は、初めから彼女なんだよ」

「なに……?」

 それは優にとって予想外の事らしかった。

「奴らは何者だ?」

 宗介が尋ねる。

 優もあの連中も、この業界では考えられないほどに若い。そのあたり、宗介自身も人のことを言えないのだが……。

「奴らは、チルドレン・オブ・ソルジャー・マシン・オーガニック・システム――通称〈COSMOS〉。小さいころから、殺人技術を叩き込まれたエリート兵だ」

 優が苦い物を吐き出すように、宗介に説明する。

「まるで人ごとみたいに言うんだね。君を育て上げたのはその〈COSMOS〉じゃないか」

 相手の指摘に、優が歯噛みする。

 その事実で、優がどんなに自分を呪っているか、宗介はまったく知らない。

「その貴様らが、なぜ千鳥をさらう?」

「彼女の価値を君が知らないはずがないだろう、相良宗介?」

「ち――」

 宗介が舌打ちする。

 どうやら、優と彼等のトラブルではなく、かなめ自身が中心にいるのは間違いない。

「御神苗、トラップだけか?」

「あん?」

「解除したのは対人殺傷用トラップだけかと聞いている」

「ああ。木の上のヤツは放っておいた」

 優は笑みを浮かべて答えた。宗介の意図を察したらしい。

「それなら……」

 宗介がポケットの中で、スイッチを入れる。

 木の上に仕掛けておいた発煙筒が反応して煙を噴出する。

 大音響が鳴り響き、聴覚まで封じられる。

 この状況で発砲すれば、同士討ちの危険がある。

 人数が多いほど、銃の使用が制限されのだ。

 宗介と優は、身を潜めていた場所から、放たれた猟犬のように飛び出していた。

 

 

 

〈COSMOS〉で純粋培養された兵士は確かに優秀だ。薬や暗示により戦闘のみに制限された思考、身体に刻み込まれた戦闘技術とそれを支える身体能力。すべてが一流である。

 だが、戦場では臨機応変な対応が必要となる。それはマニュアルからでは会得することができないものだ。

 一方的な殺戮ではなく、不利な状況でこそ鍛えられる勇気と知恵。

 彼等にとっての不運は、敵が相良宗介であったこと。そして、御神苗優であったことだ。

 年齢こそ同じであっても、彼等の戦場経験には雲泥の差がある。

 そして、宗介達の強みは、知識や熟練度だけではなく、生き抜く才能に特化していることにあるのだ。

 銃を封じられ、連係を阻まれ、個と個の戦いとなった時、宗介や優に勝てる兵士などほとんどいない。

 五分にも満たない戦いで、〈COSMOS〉の兵士が叩きのめされていく。

 そして――。

 最後のひとりが眼前に立っていた。

 宗介は相手を認識するよりも早く、左拳を突き出す。

 ――それがかわされた。

「危ねぇだろ」

 不満そうな優に、宗介もまた不機嫌に告げていた。

「貴様が言うな」

 宗介が防御していなければ、優の振り上げた脚は確実に宗介の頭に当たっていたはずだ。

 宗介の拳も、優の脚も同じタイミングで放たれたものだった。

 

 

 

「く……」

 宗介が唇を噛む。

 宗介達の迎撃にあたった人間は全て倒したが、この場にかなめの姿はない。

 数人は彼女を連れて離脱してしまったようだ。

 宗介が優に銃口を向けた。

「貴様が知っている情報を全て話せ」

 優が固い視線を、宗介に向ける。

「〈COSMOS〉が動いていることを知って、俺はここへ調査にきたんだ。てっきり、奴らの目的は展示されていたこの賢者の石だと思っていたんだがな」

 ポケットから黒ずんだ石を取り出して見せる。

「本当の目的は千鳥だったということか?」

「そうらしいな……」

 宗介が銃口を下ろす。

 敵対している優を尋問しても、今必要な情報は得られないだろう。

「――っ!?」

 宗介が優に飛びついて、その場に押し倒す。

「なにしやがる!?」

 小銃が火を噴き、その火線は優の立っていた場所を貫いていた。

 倒されたうちの一人が、優を狙って発砲したのだ。

「ぐっ……」

 宗介が声を漏らす。

 そのうちの一発が宗介に命中したのだ。

 敵の銃が弾切れを起こすと同時に、駆け寄って優が少年の顔を蹴り飛ばしていた。

「おい! 大丈夫か!?」

 振り向いた優は、宗介の背中に血が流れていないことに気づいた。

 防弾ジャケットを着込んでいることを確認して、優が安堵のため息を漏らす。

「外で待機していた俺の相棒があいつらを追っているはずだ。あの子は俺が必ず助け出してやる」

「待て!」

 痛みを押して宗介が追おうとするが、優は待たずに走り出した。

「相良とかいったな? 俺たちに任せておけ。後で連絡を入れる」

 

 

 

 一時は拉致されたかなめだったが、すでに彼女は救出されていた。

 かなめの目の前には、助けてくれた金髪の少年が座っている。

 彼はジャンと名乗った。

「あの、ジャンさん……。ソースケは無事なの?」

「誰だ、それ? 学校で怪我人でもでたのか?」

「そうじゃないんだけど……」

 彼は何者なのだろう? 宗介を知らないのだから、〈ミスリル〉の人間でもないらしい。

 もしかして、自分は助かったのではなく、別な敵の手に捕らえられたのかもしれない。

 一方、ジャンの方でも興味深そうにかなめを見ている。

 ふむ……。

 普通の少女なら、突然さらわれて、銃撃戦に巻き込まれたら、パニックになってもおかしくない。

 ところが、かなめはごく平然としており、他人を気づかっている。

 プロとは思えないが、こういう事態に慣れているのだろうか?

 ふたりがいる部屋へ一人の少年が姿を見せた。今回の事件の発端となった、高校生である。

「御神苗。ソースケってヤツ、知ってるか? この子が気にしてるんだけどよ」

「ああ。そうだな、アイツにも連絡しておくか……」

 優は、脱いだ戦闘用ジャケットを壁にかける。

「アイツがあたしを助けに来ないなんて、おかしいもの。怪我でもしたの?」

「たいした傷もなかったしピンピンしているはずさ」

「だったら、どうして……」

 不意にかなめの言葉が止む。

「……?」

 不思議に思った優がかなめを振り返ると、彼女は優の方を見ていない。

 驚きに身体を硬直させて、その視線は壁に縫い止められたままだった。

「まさか……、オリハルコン?」

 かなめがその言葉をつぶやいていた。

「こんな物を精製するなんて、現代ではできないはずよ……」

 かなめは震える声で、その疑問を口にする。

 優もジャンも答えない。

 いや、答えられずにいる。

 そろって、驚愕の目をかなめに向けていた。

「……これが、この子が狙われた理由ってわけか?」

「そうみたいだな……」

 ジャンの言葉に優がうなずいた。

 オリハルコン(精神感応金属)――優のジャケットに使用されている素材なのだが、これは現在の科学力では精製できないはずの金属だった。

 超古代文明の遺産であり、遺跡から発掘される”賢者の石”を触媒にするしか精製する方法が存在しない。

 当然、一般に広まっている知識ではないため、知っている人間は限られている。

 優が真剣な表情でかなめに問いかけた。

「なんで、君はオリハルコンのことを知っているんだ?」

 

 

 

 宗介のもとに電話がきたのは、20時を過ぎてからだ。

『相良か? あの娘は無事に救出したぜ』

「だったら、なぜ、彼女を解放しない?」

『……悪いが、少しだけ待ってくれ』

「そんなことを了承できると思うのか?」

『お前の気持ちもわかるけど、そうもいかねぇんだ。ちょっと話を聞くだけだよ』

「ダメだ。彼女を解放しろ。いますぐだ」

『おいおい。俺達は彼女を助けたんだぜ。話を聞くぐらいいいだろ?』

 そんな言葉で宗介の不安が解消されるはずがない。

 話を確実に聞き出す方法は、宗介もよく知っている。言いたくない事を、言いたくなるようにし向ける簡単な方法を。

「……取引しないか?」

 宗介が唐突に提案する。

『取引だって?』

「俺にとってはなんの価値もない代物だが、貴様にとってこの石は貴重なのだろう?」

 宗介は、右手に握った石に視線を向ける。

 優が盗んだはずの石がなぜかここにあった。

『やっぱり、てめぇか!?』

 優がうめく。

『あの時だな?』

「そういうことだ」

 優をかばって宗介は撃たれた。

 宗介がそのような行動をとったのは、優からこの石をスリ取るためだったのだ。

『ちっ。どうせ、お前にその石は使えないだろ。それは預けておくから、大切に持ってろ。あの娘は、無傷で返すからそのときに交換しようぜ』

「待て。御神苗……」

 だが、宗介との会話は無駄と判断したのか、電話は向こうから切られてしまった。

 携帯電話からは、電子音が鳴るだけだった。

 

 

 

 かなめが持っていた発信器は処分されてしまったらしいが、破壊される前の位置情報は残っている。

 おそらく、そのビルにかなめが拘束されているはずだ。

「交渉するつもりがないというのならば、仕方がない……」

 つぶやく宗介の目に、決意の火が灯る。

「……後悔するなよ、御神苗」

 

 

 

 ――つづく。

 

 

 








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