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地上最強の高校生  -(前編) -(中編) -(後編)


地上最強の高校生(前編)


 かなめにとって3度目の、宗介にとっては2度目の文化祭となった。

 今回も宗介は警備に余念がない。

「いい加減にしなさいよ、アンタは」

 かなめのあきれ顔をよそに、宗介は使命感に燃えていた。

「確かに俺は生徒会長補佐官は解任となった。だが、俺にはこの学校の治安を維持する責任がある。前・会長閣下にくれぐれもよろしくと頼まれたのだから」

「まったく、先輩も余計なことを……」

 林水会長はすでに卒業しており、現在はすでに後任者が会長を務めている。

 だが、いや……だからこそ、宗介は(自称)安全保障問題担当として、現会長の負担を軽減させようと考えているのだった。

 現会長本人が感謝するかどうかは別にして……。

「第一、去年だって、事件なんて起きなかったじゃないの」

「無論だ。そのために俺が働いたのだから」

「違うっ! あんたの存在の有無に拘わらず、事件は起きなかったの!」

「俺がこの学校のためにどれだけ力を尽くしているのか、君には分からないのか?」

 宗介が堂々と言ってのける。

 かなめは、こめかみにぴくぴくと血管を浮かび上がらせつつ、無理矢理感情を抑えつけた。

「……そうね。あんたが学校のために頑張っているのはあたしも認めてあげる。だけどねぇ、あんたのために、どれだけ無用の騒動が起きているかわかってんの?」

「不幸な事故だ」

「事故ですますんじゃない! あんたが危険を察知した的中率を言ってみなさいよ。1%を越えていたら認めてやってもいいわよ」

「…………」

 宗介の表情がこわばり、脂汗が流れた。

 かなめを救い出したことは何度もある。その意味では、自分の存在は確かに役に立ってはいる。

 しかし、こと予防に限ってはどうだろう? かなめに迫る危険を事前に排除できたことがあるだろうか? 残念なことに、後手に回ることの方が多かった。

 その場で硬直してしまった宗介が我に返った時、そこにかなめの姿はなかった。

 

 

 

 それでも懲りないのが宗介だったりする。

 今まで、その方面でまったく役に立っていないと判明したわけだが、それでも宗介は行動を起こす。

 例え、ほとんど予防にできた事例が無くとも、これまでの行動が何者かへの警告、もしくは抑制となっているかもしれない。

 それに、何度も口にしているとおり、一時の気のゆるみが、敵にたった一度をチャンスを与えるかも知れないのだ。

 そう、たとえば、こんな風に――。

 

 

 

 宗介は裏の林で慄然としていた。

 去年もかなめにこっぴどくしかられたのだが、宗介は今年もここに数々のトラップをしかけていた。

 だが――。

 仕掛けておいたトラップが軒並み除去されているのだ。

 火薬の使用は減らしているため爆発しても危険性は低いが、知識だけの素人にできる仕事ではなかった。

 宗介はプロだ。それだけの自負がある。

 つまり、これを解除した相手もまたプロに違いない。

「しかし、妙だな……」

 陣代高校への潜入が目的だったら、存在をにおわすようなことをすべきではない。逆に、すべてを無効化する必要があるほど大人数なら、突入後、すぐに作戦に移るだろう。

「何を考えている? 何者なんだ?」

 

 

 

 視聴覚室――ここは、宗介が校内にしかけた監視カメラの集中制御室となっていた。

「あれ? 相良くん。どうしたの?」

 監視をまかされていた信二が、不思議そうに見返した。

 ちなみに、信二がこの仕事を引き受けたのは、可愛い子をチェックしやすいという理由からである。

「気になることがあってな」

 どうやら、敵はプロだ。風間の目に怪しいと移るような行動はすまい。

「変わったことはないか?」

「特にないけど……」

「ふむ」

 宗介がモニタを一瞥する。

「これはどうした?」

 電源の切れている一台のモニタを差す。

「カメラが壊れちゃったみたいで映らなくなったんだ」

「これは、3−2のカメラか。確か、古代遺跡同好会だったな」

「えっと、……そうだね」

 信二がパンフレットを参照して答えた。

「これのビデオを見せてくれ」

「うん」

 録画しているビデオを停止して、再生を開始する。

 巻き戻ししていくと、真っ暗な画面から、カメラが故障する前の状況が映し出される。天井の隅から、室内を捉えている構図だった。

 なげやりというべきか、教室に同好会の人間はいない。どっかの遺跡の写真や、そこで拾ってきた石ころがならべてあるだけだ。非常に手抜きの出し物である。

 その画面が突然、真っ暗になる――。それだけだ。

「校庭の0−Cのカメラで、外から狙ってくれ」

 屋外のカメラは可動式だ。現在の教室にカメラを向けて、画像を拡大する。

「……ここだ」

 宗介がモニター上の一点を指さす。

「なに? 何もないよ」

「そうだ。ここにあった石が消えている」

「え!?」

「もう一度、3−2のビデオを再生してくれ」

 再びビデオが表示された。

「ホントだ」

 信二が頷いた。

 宗介の指摘通り、カメラがブラックアウトする前まで映っていた一つの石が消えているのだ。

「このまま、巻き戻していこう。訪問客の中で、この石か、カメラに反応した人間がいるはずだ」

「うん。わかった……」

 信二も真剣な表情になっている。

 数名の客は興味なさそうに、室内を歩き去っただけだ。

 そして、高校生ぐらいの少年が入室した。

 問題の石の前で足が止まる。

「…………」

 しばらく見つめたあと、室内を一瞥して教室を出て行った。

 わかりづらかったが、このカメラに一瞬だけ目を向けている。

 カメラが壊れる20数分前のことだ。

「犯人はこいつのようだな」

 宗介が断定する。通してビデオを見たが、宗介の目から見て怪しいのはこの男だけだった。

 ガラガラ……。

 不意に扉が開けられた。

 室内に緊張が走る。

 二人の様子に、扉を開けたまま、かなめは目を丸くする。

 信二は硬直しているだけだが、宗介の方は拳銃まで引き抜いていた。

「な、なによ!?」

「千鳥か……」

「いい加減にして、ソースケも文化祭を楽しんだら?」

「今は緊急事態だ。それどころではない」

「む……。なによそれ?」

「本当なんだよ、千鳥さん。泥棒みたいなんだ」

「泥棒?」

「っていっても、盗んだのは石ころなんだけどね」

「金銭的価値など二の次だ。この校内で外部のものによる犯行をみすごすわけにはいかん」

 宗介は是が非でも犯人を見つけるつもりのようだ。

「あの男がいないか調べよう」

 犯行が露見したことを知らなければ、まだ校内にいる可能性もある。

「うーん? それが目的だったら、もういないんじゃ……」

 並んでいるモニタを、宗介と信二がざっと見渡し、

「相良くん。これ、そうじゃない?」

「うむ。確かに……」

 三階の廊下に姿を確認できた。

「あれ、この人……」

 かなめがぽつりと漏らす。

「知っているのか?」

「知り合いってわけじゃないけど、たぶん……小学館第三高校の生徒よ」

「なんか……ふざけた名前の学校だね」

「同感だ」

 ふたりが素直な感想を漏らす。

「それで、何者だ?」

「名前までは知らないわ。むこうの生徒会を訪ねたときに、噂を聞いただけだから」

 そう前置きして、かなめが説明する。

「しょっちゅう学校を休んで、出席率が悪いんだって。それも、欠席明けには怪我が増えているらしいの。まるで、どこかの誰かさんみたいよね」

 宗介を揶揄してかなめが笑う。

 だが、宗介はその言葉に平静ではいられなかった。

 学校を休むたびに増えるという負傷。

 トラップを解除されている裏の林。

 その二つの事実から、連想されることは一つだ。

 おそらく、あの少年にとって、学生という立場など偽装にすぎない。

 そして、おそらく自分と同じ──。

 

 

 

 少年の背後に迫った宗介が、その背中に拳銃をつきつける。

「静かにしろ。貴様に話がある」

「てめえ……。こんなところでやる気か?」

 怒りをこめて尋ねてくる。

「そんなつもりはない。どうあっても、貴様には屋上へ来てもらう」

「ああ。わかった……」

 少年は素直に従った。

 

 

 

 屋上に、人気はなかった。

 宗介と少年が対峙している。

「お前は誰だ? なんの目的でここにいる?」

 少年が尋ねた。

 そう。驚いたことに、その質問を口にしたのは少年の方だったのだ。

「……それを尋問するのはこちらだ。立場をわきまえろ」

 宗介の構えるグロック19は、少年に向けられたまま、ぴくりとも動かない。

「林のトラップをはずしたのは貴様だな。他にも増援がくる予定なのか?」

「あんな物騒なものしかけやがって、ここの生徒や客がどうなってもいいのか?」

「それは脅迫のつもりか?」

「そうじゃねーよ。お前の行動次第だっていっているんだ」

「貴様……。陣代高校安全保障問題担当として看過できん。文化祭終了まで拘束させてもらう。警察に突き出すのはその後だ」

「……なに? ちょっとまて。どいうことだ、そりゃ?」

「言ったとおりだ。おとなしくしていろ」

「お前……、ここの生徒なのか?」

「無論だ。安全保障問題担当だといったはずだ」

 正確には自称である。

「嘘だろ? どこの物好きが、学校の警備にお前みたいなプロを雇うんだ?」

「俺はこの学校に雇われているわけではない。それに、こちらの事情など、貴様には知る資格などない」

「待て、頼むから、俺の話をきいてくれ」

「ああ。もちろんだ。貴様が知ることを全て吐かせてやる」

「いいか、この学校は狙われている。俺はそれを阻止するためにここへ来たんだ」

 少年の訴えを、宗介は不審そうに眺めている。

「……なるほど。実害の薄い情報を餌に、信用を得るつもりだな?」

「違う! 俺はお前が敵側だと勘違いしたんだよ。まさか、お前みたいなヤツが生徒とは思えなかったからな」

「そういう貴様も、学生らしいな?」

「なっ!? てめぇ、どうしてそれを?」

「貴様の名は? 黙秘するなら、小学館第三高校へ問い合わせるが?」

「……御神苗優だ」

 

 

 

 このときの宗介は、御神苗優(おみなえ ゆう)が”地上最強の高校生”と呼ばれている事実をまだ知らなかった。

 

 

 

 ──つづく。

 

 

 

 あとがき。

 今回は、クロスオーバーらしいお話。

 ゲストはスプリガンの御神苗優です。








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