「人類滅亡の危機なんじゃよー!」 ファーザーの突然の叫びが室内を満たす。 「今回はずいぶんと、大きい話題を持ってきたな」 さすがに宗介も動じなくなっていた。 ファーザーの全ての奇行に付き合っていては身がもたない事を悟ったからだ。 「おぬしはこの危機的状況をなんとこころえておるかー! このままの状態が続けば、人口の激減は必定。遠からず、人類は絶滅するに1万点! さらに倍!」 「とりあえず、落ち着いて説明しろ」 「ものわかりの悪い相棒を持つと苦労するのー。では聞くがよい、モノワカリワルイスキー。われらだけを仲間はずれにしたナオンだけの蜜あふるる約束の地、リリアン女学園。ナオン達は、世界の半数――男という人種を無視して、姉妹契約とか世迷事をほざいておる。この、時給自足の二重螺旋を覆さねば、人口はデフレスパイラルするらしい。ナオンどもの結束を断ち切るのがワシらの急務と知れ!」 「貴様の思いこみが激しいのは今に始まったことではないが……」 「女の園では、ギガンテス・ザ・栗太郎やら、スーン・スールズカリッターやら、耳慣れぬ単語が飛び交っておる。おそらく、男に知られてはまずい話ばかりしているもよう」 「何処で仕入れてきた知識か知らんが、話が理解できないからといって、妄想で内容を補完するのよせ」 「同調者の増殖率は我らの予想を遙かに越える。なにしろ、『神聖モテモテライトノベル』スレでは、”マリみて”と”板違いの話題”が7、”他のライトノベル”が3で構成されておる。このままでは、いつまた、第3、第4の『マリみて』が放映されるとも限らん。我らはこれより情報戦に突入せんとす」
どこから資材を調達したのか、ファーザーは駅前にステージを組み、壇上でマイクを握った。 「ナオンたちは、柔らかくて、暖かくて、いい匂いがするとか聞いておる。ナオンたちはまさに人類における至宝なんじゃよー!」 「……ちょっと待て。誉めているようにしか聞こえんぞ」 ステージの裏側から宗介が指摘する。 「はっ!? するってーと、わしが行っていたのは姉妹の量産化?」 やっと気づいたようだ。 「今の主張は撤回する。わしの脳波が混線して、間違った知識を披露してしまったんじゃよー」 物珍しさに、周りに人がよってきた。ファーザーの行動目的としては好都合なのだが、宗介自身は嬉しくも何ともない。 「ナオンと書いて、強欲と呼ぶ。奴らこそは欲望の権化。どこへ行くにも費用は男持ち、たまの記念日には物ばかりねだる。そのうえ、欲しがる品は無用の長物ばかりなり! もう少し実用的な物を欲しがったらどうかね、君ぃー! 男どもをはべらして、女王様気分のうえ、気に入らなければ、捨てて屍拾う者なし!」 ファーザーの過激な演説は続き、周囲からは殺気が立ちこめる。――主に女。 「結婚すれば男への補給物資を着服し、自分だけは贅沢三昧の上、寂しいとかのたまって、浮気しておるんじゃよー!」 「なによ、アイツ」 「ムカつく」 そんなつぶやきが、宗介の耳にも届く。 「……女の悪評を流すのはかまわんが、女の評判が落ちるよりも先に、貴様が嫌われるだけではないのか?」 「…………」 ファーザーの言葉が詰まったタイミングで、周囲から、罵声が浴びせられる。 さらには、石まで投げつけられて、二人はその場から戦略的撤退を開始した。
「また、ナンパ? っていうか、女を敵に回す気なの? アンタたち」 傍らにやってきた少女が、呆れたようにつぶやいた。 どうやら、街に遊びに来て一連の状況を目撃したらしい。 「千鳥か……」 視線を向けた宗介が表情を強ばらせる。 「……どうしたのよ?」 歩み寄った宗介が、かなめと、その隣に並ぶ恭子を見た。 「千鳥……、君は、常盤のことが好きなのか?」 「へ? あたりまえじゃない」 「そうか……」 がっくりとうなだれた宗介が、力無く立ち去っていく。まるで、風に飛ばされる枯れ葉のようだった。 「ちょ、ちょっと……、どうしたっていうのよ?」 「ねぇ、カナちゃん。ひょっとして、相良くん、勘違いしたんじゃ……」 「勘違いって、なによ?」 「相良くんが聞いたじゃない。あたしのコトが好きかって……」 「それがどうかした?」 「だから、カナちゃんが、相良くんよりも、あたしを好きだって思ったんじゃない?」 「え、……あっ!?」 いまさらながら気づいたかなめが、顔を真っ赤にする。 「違うわよ! あたしは友達として……」 「あたしに弁解しなくてもいいってば。わかってるもん。それより、相良くんを追いかけないと」 「う、うん。ちょっとゴメンね」 慌ててかなめが追いかけていった。 それを見送って、恭子がくすりと笑う。 その傍らにつつーっとファーザーが近寄った。どこから取り出したのか、白いバラまで持っている。 「眼鏡の嬢ちゃん。計算通りふたりっきりになれたんじゃよー。このうえは満足するまで、イチャイチャせねばなるまい」 ファーザーの変な主張。 「…………」 恭子がしげしげと、ファーザーを見る。 「ごめんなさい」 頭を下げて、恭子は走り去ってしまった。
「うっ、うっ、うっ……。一人で取り残されては、寂しすぎるんじゃよー!」 その場に、両手をついて、ファーザーが泣き崩れる。 嘆くファーザーの肩に、誰かの手が優しくのせられた。 「お嬢ちゃん!?」 嬉しそうに振り向いくが、そこにいたのは……。 「大丈夫か? おー?」 えらくごつい顔をしたパンチパーマのおっさんだった。 「ぎゃわーっ!」 「ワシがおるから、元気だせやコラ!」 「よりにもよって、ヤクザさんですかー!? ヤクザさんには、好かれても、嫌われても、迷惑なことこのうえねー! わしの不幸は止まるところをしらんのかーっ!?」 「ワシと義兄弟の杯をかわせやコラ!」 「ゲェー!? まさか、兄弟契約ー!? 姉妹契約よりも、タチが悪いんじゃよー!」
いろいろあったらしく、ボコボコにされたファーザーが部屋に戻ってきた。 宗介は一瞥するが、何も言葉を発しようとしない。 「何か言うことはないのか、貴様ーっ!?」 「ふむ……。千鳥の件は誤解だったらしいぞ。安心しろ」 言葉通り、本人は嬉しそうに見える。 「そんな真相に、安心も、不安もないんじゃよー。わしはそのころ、ヤクザさんに殴られておったというのにっ!」 「どうせ、すぐに治る。気にするな」 「渡る世間には極道さんばかりなんじゃよー。敵も味方も、G、G、G。種の運命なんて意味がわからんわー! だいたい、男同士で好きとか最初に言い出した奴が許せん! 謝罪と賠償を要求するーっ!」 「ふむ……」 ファーザーの言葉を吟味した宗介が、優しく告げる。 「安心しろ、俺は貴様を嫌っているぞ」 「全然慰めになっておらんのじゃよー!」
――つづく。
あとがき。 もうすこし、ナンパネタをしてから掲載したかったのですが、タイミング的に掲載に踏み切りました。 |
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