日本海戦隊  >  二次作品
フルメタ・モテモテ王国  -[1] -[2] -[3]


(2)君を守るために


 超国家規模の傭兵部隊〈ミスリル〉が手配した、セーフハウスにて――。

 居候であるファーザーは拳を握りしめると、雄々しく立ち上がった。

「では、トンカツも食ったし、いざ、ナンパ!」

 どうやら、トンカツの摂取に成功したもよう。

「ナンパだと? それはガール・ハントのことか?」

「そうともいう」

「そうか」

「納得したようなので、いざナンパ! リローデッド」

「ナンパは理解したが、同行するとは言っていない」

「なにぃっ!? 街はナオン群れ成す桃源郷を創り上げているというのに。投網を投げれば二・三人はかかりそうなんじゃよ」

「そういう方法は許されていないらしいぞ」

「当たり前なんじゃよー。そんなやり方はナンパとは呼ばんのじゃぜ。あんた、バカ?」

「貴様にいわれると、ことさら不愉快だな。それでは、どういう方法をとるつもりだ?」

「無論、このルックスで」

「無理だ。諦めろ」

 一拍たりとも間をおかずに、宗介は否定してのけた。

 下書きナシでペン入れしたような造形であるファーザーを、魅力的に感じる人間などいるはずがない。

「ははーん。わしの美貌に嫉妬しておるな。貴様がどう否定しようとも、わしともなれば、群れなす女どもを千切っては投げ、千切っては投げ……」

「俺もナンパを多少知っているが、貴様には無理だ。女に好かれる以前に、お前は人として認識してもらえるかどうかが問題だ」

「ふむ。より輝いているスタアという意味ですか?」

「違う」

「まあ、聞くがいい。ムッツリスキー。ナオンどもの正体はモマラレスキーですよ。迷える子羊どもは、飢えたる狼から守ってくれる犬っころに、ジンギスカンにされたがっておるのじゃよ」

「……よくわからん。要約してくれ」

「むう、これほどの作戦をかいつまんで話せるもんじゃろか? つまり、守ってやれば、ナオンはメロメロなんじゃよ。……やればできるもんじゃね」

 ファーザーはご満悦の様子。

 しかし、宗介は相手の態度に注意を払わず、真剣に考え込む。

「……そういうものなのか?」

「おぬしもその気になったようなので、いざ、ナンパ! レボリューションズ」

 

 

 

 街へ繰り出した宗介の隣には、謎の男が立っている。

 上半身には警備員の制服を着ているものの、下半身は例によってパンツ丸出しのままである。

 前回のように無理矢理はかせようと試みたが、どういうわけか防衛本能が過剰に働くようで、このときばかりはファーザーの戦闘能力が上昇してしまう。

 それもすでに宗介は諦めている。

 ファーザーは今回の(ナンパの)作戦の一環として、こう名乗った。

 

 

 

[警備員・コスナー]

 SPとして警護していた大統領が襲撃されましたが、私は非番だったので責任は同僚にあります。

 歌手なんだか、女優なんだか、わからん奴を守り抜き、気分はもうアツアツカップル。新しい仕事についても、心がつながっていそうな演出があるらしい。

 実際に別れてしまっては元も子もないので、ディレクターズ・カット版では、エンディングの変更を希望する。

 

 

 

 ファーザーの説明を聞いて、宗介が首をひねる。

「他人を装うのは仕方がないとして、経歴の偽装……というか、なんというか、貴様の精神状態が一番心配だ。むしろ、お前こそが警戒されるべき存在ではないのか?」

「これじゃから作戦部に、護衛任務は向いていないんじゃよー。アミットくんもたまには正しい」

「……貴様は一体、何者なんだ?」

 そんな宗介の質問も、ファーザーの耳には届かなかったようだ。

「ナオンを発見! ターゲット、ロック・オン!」

 ファーザーがその少女に向けて突貫する。

 

 

 

「お嬢ちゃん、守らせてー!」

 無意味に両手を上げて、迫り来るファーザーに、少女が怯えた。当然である。

「守らせてー。寝室でも浴室でも、振り返ればそこにわしがいる! わしがいる限り、不審人物どころか一般人も近づけねー」

「キャー!」

 たまらずに、少女が叫んだ。

「いい加減にしろ」

 さすがに、宗介が制止に入った。

「護衛を邪魔するとは、寝返る気か、このボケェ!」

「寝返るも何も、貴様のやっていることは、護衛でもなんでないぞ。むしろ、変質者と言える」

「たとえ変質者と言われようと、わしは命に代えても嬢ちゃんを守ってみせるんじゃよー!」

「言っていることは立派だが、まったく、行動が伴っていない」

「くぅ〜。わしとナオンの仲を邪魔するヤツは、馬に蹴られて光善寺参り〜!」

 意味不明の言葉を叫びつつ、ファーザーが殴りかかる。

 リーチの差で、宗介の拳が先にヒットした。クロスカウンターである。

 ファーザーががくりとその場に崩れた。

「あ、ありがとうございました」

 その少女が頬を染めて宗介に礼を告げた。

 もともと、宗介は整った顔をしているうえ、その堂々とした態度、落ち着いた物腰、このような場面ではとても頼もしい存在に見える。

「怪我はないか?」

「は、はい」

 少女が頷いた。

「では、気を付けて帰るがいい。こういう……、いや、こんなヤツが他にいるとも思えないが、変わったヤツなら他にもいるかも知れん」

「あのう、家まで送ってもらえませんか?」

「……いや、そういうわけにもいかなだろう。すまないが、一人で帰ってくれ」

「そうですか……」

 残念そうに頷いた少女が、幾度も宗介を振り返りながら去っていった。

 

 

 

「納得いかないんじゃよーっ!」

 突如としてファーザーが復活した。

「納得も何も、貴様には護衛しようとする意図すら感じられなかったぞ」

「うるせー! 漁夫の利を貴様に独占させるわけにはいかんのじゃよー!」

「根本的に貴様の作戦に問題があるんじゃないのか?」

「責任転嫁ですか? 軍曹ごときが偉くなったもんじゃねぇ」

「…………」

〈ミスリル〉からの命令でなければ、放っておくのだが、残念ながら、そうもいかない。

「そもそも、おぬしにはこの作戦への熱意が足りん。貴様がボーっとしておるから、上手くいかんのじゃよー。軍曹にはナオンへの襲撃を命じる! それを救ったわしが、ナオンと親しくなるんじゃよー」

 

 

 

「アイシャルリターン」

 ファーザーが再び、新たな少女に向けて走り出した。

「嬢ちゃん! 危ないんじゃよー!」

「ひぃっ」

 ファーザーを見るなり、怯えている。

「危険なんじゃよ。あの男に襲われたくなくば、わしと仲良くなる以外に、方法はない。わしの言葉に逆らうと、泣きをみるものと思え」

 ファーザーの必死の説得にも、少女は後ずさりしていく。

「まさか、戦略的撤退ですかー!? 軍曹、いますぐ襲うんじゃよー! 獲物を逃がすわけにはいかーん!」

 つかつかと歩み寄った宗介が、ファーザーの後頭部をぶんなぐった。

 一撃で沈黙する。

「迷惑をかけた。この男のことは忘れてくれ」

「え、え?」

「君に危害を加えるつもりはない。今のうちに帰ったほうがいい」

「ありがとうございました」

 先ほどの少女と同じく、またしても宗介に頭を下げる。

「あの、名前を教えてもらえますか?」

「……? 相良宗介だが?」

「相良さん、ありがとうございました」

 もう一度、礼をして少女が帰っていった。

 

 

 

 その後、ファーザーは6回ほど、挑戦したが、その6人は全て宗介に感謝して去っていったという……。

 

 

 

「不可解なんじゃよー! 陰謀の臭いが充満しておる! おそらくあれじゃ、三島記念財団が裏で糸を引いておるのに違いないんじゃよー」

 宗介を見る。

「軍曹! ちょっと行って、壊滅してきなさい!」

「そんなことができるかっ!」

「……まさか、わしの策に欠点でもあったんじゃろか? 策士策に溺れるとはこの事よ」

「そもそも、策を実行するつもりがあったのか? 一度もお前が女を守った場面を見ていないが」

「むう。配役に無理があったか……。わしはナオンを守るのには向いておらんのじゃろうか?」

「今日聞いた貴様の言葉で、一番正しい意見だ」

「そう思うかね? やはり、わしは、母性本能をくすぐって、守られ役をするべきじゃろか?」

「違うっ!」

 

 

 

 部屋の電話が鳴った。

 取り上げた受話器からは、聞き馴染んだ少女の声が聞こえる。

「……千鳥か? どうかしたのか?」

 宗介の言葉を耳にして、受話器を奪い取ろうとしたファーザーを一撃で沈黙させる。

『そっちこそ、どうしたのよ?』

「なんの話だ?」

『今日、あの人と一緒に、駅前で騒いでたみたいじゃない。一体、町中でなにやってんのよ?』

「ああ……、ナンパだ」

『ナンパ!?』

「うむ。ファーザーがナンパをしたがったので、俺も同行していた」

『ナンパって……。みっともないから、やめたら? あんたには向いていないと思うし』

「向いていないのは承知しているが、少しばかり興味が出てきた。ファーザーにつきあってみるつもりだ」

『ちょ、ちょっと、ソースケ? あんた、ナンパしたいの?』

「ああ。非常に興味がある」

『で、でも……』

「……君は、俺にナンパをされては困る理由でもあるのか?」

『な、ないわよ、そんなの。好きにすればっ!』

 何がまずかったのか、かなめは気分を害して電話を切った。

 

 

 

「ほほう、ムッツリスキー。ナオンに目覚めたようじゃな。われら親子の行く手には、輝けるナオンとの蜜あふるる地・神聖モテモテ王国が待っておるんじゃよ」

「それは別な息子を見つけて勝手にいくがいい。そんな王国には全く興味がない」

 口にしたとおり、宗介が興味を持ったのは、女ではない。宗介が興味を持ったのは、あくまでもナンパそのものなのだ。

 

 

 

 今回、ファーザーの行動そのものには問題あったものの、作戦の根本的な部分では間違っていなかったようだ。

 ファーザーの襲撃(?)から守ったやった少女達は、自分に好意的だったような気がする。

 ファーザーが口にした通り、女性は守ってくれた相手に行為を持つのだろう。

 もしかすると、かなめが示してくれる好意というのも、ただの護衛役に対する態度に過ぎないのではないだろうか?

 宗介はその答えを知りたいと望んでいた。

 ファーザーにつきあうことで、自分とかなめの関係を正確に知ることができるかもしれない……。

 

 

 

 ――つづく。

 

 

 

 あとがき。

 さあ、”いざナンパ”となりました。

 基本的には、二人のナンパ話で進めていきたいと思っています。








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