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(2)決戦! メリダ島基地

 先日の〈サキエル〉に続き、新たなASの襲来が確認された。

 海上を漂ってくるのは、八面体の形状──二つのピラミッドを上下逆さまにしてくっつけたような形のASだった。

 Plan2005〈ラミエル〉である。

 

 

 

 監視センターのモニタ上に、その姿が映し出されている。

「〈ラミエル〉? ……てっきり、次の襲撃は〈シャムシエル〉だと思っていましたけれど」

「開発時に問題でもあったのでしょう」

 テッサのつぶやきに、マデューカスが応える。

〈アマルガム〉の開発計画を情報部で入手できたため、エンジェルシリーズの機体名と設計概要は〈ミスリル〉側でも把握していた。

 先の〈サキエル〉がPlan2003だったため、今回の機体は二つ先の機種となる。

「よし。ウルズ7に迎撃させる。中佐、出撃指示を出してくれ」

 指示を出したのはカリーニン大佐である。前回、新しく戦隊長に命じられ、階級までもマデューカス中佐を追い抜くことになった。

「はっ。了解しました」

 マデューカスの指示が飛び、すでに〈アーバレスト〉に搭乗していた宗介が、地上へのエレベータで上昇していく。

 そのとき、一人の管制官が驚きの声を上げた。

「目標内部に、高エネルギー反応!」

「なに!?」

「円周部を加速、収束していきます」

 皆の視線が集まるモニタ上では、〈ラミエル〉の中心部が青白く輝き始める。

「ダメです! よけてっ!」

 テッサの悲鳴。

 地上に〈アーバレスト〉が出現したと同時に、一条の閃光が疾った。

 宗介が確かにラムダ・ドライバを起動させたずだった。

 しかし──。

 陽電子が〈アーバレスト〉の装甲を破壊する。

「サガラさん!」

「戻せ。今すぐだ!」

 マデューカスも急いで命じる。

〈アーバレスト〉は一戦も交えずに、エレベーターに載ったまま地下へ収納された。

 

 

 

 展開した虚弦斥力場は、攻撃を遮断こそできなかったものの威力を減衰させることはできたようだ。〈アーバレスト〉自体の損害は軽微なもので済んだ。

 しかし、コクピットが激しく振動したことで、頭部を打って意識を失っていた宗介は医務室に担ぎ込まれた。

 ラムダ・ドライバに対抗する唯一の人間が倒れたのだ──。

 基地内は騒然となった。

 

 

 

 医務室の中にいても、そういう空気は伝わるものだ。

 いても立ってもいられず、宗介は止めようとする医務官のゴールドベリ大尉を押しのけて、格納庫へ向かう。

 通路を進む宗介は、クルツとヤンに出会った。

 暗い表情を浮かべていたクルツだったが、宗介を見て笑みを浮かべる。

「おっ、もういいのかよ?」

 精密検査を受けたと聞いて、彼も心配していたのだ。

「ああ。問題ない。不要だと言ったのだが……」

「仕方ないよ。ソースケはうちの切り札だからね」

 ヤンがそう口にした。

「ヤツにはメリダ島に上陸されちまったし、ソースケにはまだまだ頑張ってもらわねぇとな」

 クルツの言葉に、宗介が頷いた。

「わかっている。ベッドで寝ているだけでは、なんの役にもたたん。すぐにでも格納庫へ……」

 いきなりだった。

 突然、クルツが宗介を殴り飛ばしたのだ。

 殴られた宗介も、殴ったクルツ自身も、その行動に驚いていた。

「す……、すまねぇ……」

 クルツは、宗介から視線をそらしつつ、それでも謝罪を口にする。

 そのまま、宗介の顔も見ずに、立ち去っていった。

「……どういうことだ?」

 宗介の疑問に答えたのはヤンである。

「実は……、クルツの大切な女性が入院しているらしいんだ」

「入院?」

「うん。つい先日、容態が悪化して集中治療室に担ぎ込まれたって聞いたよ。ソースケの言葉で、彼女を思い出したのかも知れない」

「そうか……」

 ヤンとしても宗介の発言が悪意あってのこととは思っていない。なにより、彼はその事実すら知らなかったのだから、それを揶揄するはずもないはずだ。

 それでも、クルツはカッとなったのだろう。

「君が悪いわけじゃない。気にしない方がいいよ」

 そう言い残してヤンも去っていった。

 宗介は悄然としたまま、その場に取り残された。

 ヤンはその話を聞かされていたというのに、自分は聞かされていない。殴られたことよりも、その事実が哀しかった。

 

 

 

 直上に到達した〈ラミエル〉は、シールドで地中を掘り進み、メリダ島基地への攻撃を進めている。

 

 

 

 SRTの面々が状況説明室に集められた。

 テッサとマオが画面の両側に立っている。クルーゾー中尉が不在中なので、マオが代理の実戦指揮官であり、テッサは技術面でのサポートである。

「陽電子砲で、虚弦斥力場を貫通する可能性は以前から検討されていました。実際、この基地内にも陽電子砲の試作器が保管してあります。ですが、どうしても対処できない問題点があるため、実戦での運用は困難と判断してしました」

 マオの操作で、大型液晶に砲身長い狙撃砲が表示される。

「今回、〈ラミエル〉への対抗手段として、その試作型ポジトロン・ライフル(陽電子砲)で応戦します」

「その問題は解決できたんですか?」

 挙手したヤンが質問する。

「いいえ。解決はできませんが、メリダ島での使用ならば可能なんです」

『?』

 皆が不思議そうに首を捻る。

「虚弦斥力場を貫通するには莫大な電力が必要となるんです。携行するバッテリーの容量ではとても足りません」

「では、どういう方法で供給するつもりでしょう?」

「有線で、メリダ島の発電設備と直結します」

「具体的にいって、どのぐらいの電力が必要なんですか?」

 続けて発したヤンの質問に、マオがコホンと咳払いしてから答える。

「メリダ島の発電量、全てよ」

 

 

 

 作戦決行時間に備えて、西太平洋戦隊は大わらわとなった。

 電力のほとんどをポジトロンライフルに奪われる以上、地下施設は使用できなくなる。

〈アーバレスト〉が作戦に失敗した事態に備え、皆がTDD−1に乗艦し、いつでも脱出できるようにしておく必要があるのだ。

 作戦担当者は、攻撃担当の一名と、防御担当の一名のみ。

 ポジトロン・ライフルを使用するのは、狙撃の名手であるクルツ。そして、鏡面仕上げの特殊な盾と、ラムダ・ドライバによる障壁で、防御を担当するのが宗介となる。

 わずか二機のASが、〈ラミエル〉を狙える位置に姿を現した。

 M9をうつぶせにさせて、クルツはモニタ上にターゲットを確認する。

 狙撃兵に一番大切なものは、素質ではない。

 なによりも忍耐力。その瞬間を待ち続ける事、心を平静に保つこと──。

 クルツが普段軽い態度をとるのは、本人の性格もあるが、本業以外で精神的重圧を感じないようにするためでもあるのだ。

 

 

 

 00:00:00――。

 作戦開始時刻がきた。

 

 

 

『クルツ。メリダ島のエネルギー、アンタに預けるわよ』

 TDD−1のマオから通信が入る。

『任しときな。姐さん』

 クルツの言葉に気負いはいない。

 いつもと同じように、任務の一つにすぎない。

 クルツは己の心を、冷たく、硬く、研ぎ澄ませていく。

 

 

 

 島内に設置された計器類の情報は、すべてTDD−1で解析している。

 モニタをにらんでいた管制官の一人が、前回と同じ状況を察知した。

「〈ラミエル〉に高エネルギー反応!」

「相良さん……」

 テッサが心配そうにモニタを見つめる。

 

 

 

 クルツの心に動揺はない。

 敵が光り出そうと、焦る必要はない。

 防御を任せているのは、自分の相棒だ。

 自分のすべき事は、この引き金をひくことだけ。

 モニタ上のターゲットアイコンがゆらゆらと動き、その一瞬、全てが重なって表示される。

 狙撃可能──。

 羽根をつまむように、静かに引き金をひく。

 ポジトロンライフルが光の砲弾を吐き出す。

 文字通り、光の速度で進むその軌跡が、クルツのイメージ通りに走った。

 光の矢が〈ラミエル〉を貫通する。

 打ち抜かれた〈ラミエル〉は、自身が生成したエネルギーにより、大爆発を起こした。

 後には欠片も残さず、存在していたことを証明するものは大きなクレーターのみであった。

 ただの一撃だけで、勝敗は決したのだ。

 

 

 

 相応の緊張を感じていた宗介もクルツも、コクピット内で止めていた呼吸を再開する。

「……クルツ」

『なんだよ?』

「お前が言いたくないことなら、言わなくていい。俺にできることは、聞かずにいることぐらいしかないからな」

『お、おい……。俺は、ただ……、お前といる時ぐらいは、辛いことを忘れていたかっただけなんだよ』

「…………」

『だから、これまで通りでいいんだよ。お前が無関心なのは、いつものことじゃねぇか』

「クルツがそう言うなら、そうしよう」

『ああ、それで頼む』

「了解した」

 

 

 

 作戦の成功で、基地内は明るい活気に満ちている。TDD−1艦内に避難してた隊員達が、持ち出していた機材を基地内に戻しているため、あちこちに喧騒が耐えない。

 通路を歩いていた宗介が偶然、テッサと顔を合わせた。

 彼女は視線をそらして、宗介の顔を見ようとしない。

 以前、宗介がかなめを選んだことが尾を引いているのだ。

「なぜ、自分の顔を見ようとしないのでしょうか?」

 宗介としては、以前の様にテッサとつきあって行きたいのだ。

「でも……、どんな顔をして、サガラさんと会えばいいのか、わからなくて……」

 宗介は知らないことだが、彼女に恋愛経験は乏しい。まあ、宗介ほどではないのだが……。

「……自分たちは、今でも友人のはずです。もしも、その……テッサが今も、そう思ってくれているなら、笑っていてもらえませんか?」

 それが、宗介の精一杯の言葉だった。

 驚いて宗介を見返したテッサは、一度視線を伏せたものの、もう一度正面から宗介を見つめる。

 その瞳に、涙を浮かべながら、それでもテッサはにっこりと笑顔を浮かべて見せた――。

 

 

 

 ――つづく。
 この次もサ〜ビス、サ〜ビスぅ♪

 

 

 

 あとがき。

 原作のテッサは、『踊るVMC』以降はほとんど失恋のショックを引きずりませんでした。

 どうして、この話がこういう締めになったかというと、構想したのが『老兵たちのフーガ』以前だったからです。

 あまりに掲載が遅くなったために、原作との齟齬が顕著になったという。

 ……笑えませんね。

 それと、たったの一発で勝敗が決まったのは物足りないかも知れませんが、戦いというのは本来そういうものだと思います。それに、『エヴァ』をそのままなぞるのもどうかと思ったもので……。








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