流行のイケメン、とは違う気がする。
これは、別に僻んでいる訳ではなく。
テレビなどでイケメンと表現される顔を見ていると、柔らかいとか優しいとか穏和とかの印象が大勢を占めるのだが。
成歩堂のイメージでは、御剣はシャープさで構成されている。
癖のないストレートの銀糸といい、数々の凶悪犯を震え上がらせてきたという冴え冴えとした目付きといい、完璧をモットーとする性格もまた。物言いも嫌味も辛辣だしな、と苦笑する。
彼女にも、あんな態度なのだろうか?
豹変して彼女にはデレデレだったら、それはそれで笑えるが―――そこで、想像が途切れる。御剣がどんな彼女とどんなデートをしてどんな会話をするのか、全くといっていい程、頭に浮かばなかったのだ。
「そういえば、彼女の話って聞いた事がないなぁ・・」
つらつら記憶を辿ってみても、それらしいものが出てこない。矢張と三人で呑む時は九割方が恋バナになるが、いくら矢張がつっこんでも彼女は疎か、好みのタイプすら喋らなかった気がする。
プライベートを秘密にする質というより、単純に今はいないだけなのだと成歩堂は予想している。
「『仕事と私、どっちが大事?』って聞かれたら『ム・・どうしてその二つが並列になるのかが理解できない』とか平気で言っちゃいそうだもんなぁ、アイツ」
ププ、と吹き出し。独り言にしてはリアクションが大きすぎたのを恥じて、無駄に咳払いする。
ファンクラブができる位にもてるのは知っていたが、嬉しがっている様子も全くない。仕事が第一、の典型だ。
けれど、今後。
イメージすら沸かない御剣の彼女が現れたら。
友達と彼女。これも同列とは言い難いが、少なくとも順位はつけられる。
本来は優しい心を持っているから、友人より恋人を尊重するタイプかもしれない。
特別ができるとは、そういう事だ。思い付いた時、気軽に誘ったり終電がなくなるまで飲み明かしたり、御剣の家に転がり込んだりはできなくなる。
「淋しく、なるだろうなぁ・・」
いろいろあった御剣だから、幸せになって欲しい。その気持ちに偽りはないものの、心のどこかに風が吹く。
まだ、離れていた年月が埋まったと思える位の友達付き合いには足らなくて。
だから、久しぶりに御剣から誘いの電話が掛かってきた時、とても嬉しかった。まだ、このままでいられると安堵した。
しかし、その安堵はすぐに消えた。
「あの女性はよく訪れるのかね?」
「裁判中は結構来てたけど・・何で?」
事務所で偶然会った依頼人の姉の事を、御剣が妙に気にかけて事細かに聞いてくるのだ。こんな事は、初めてだった。確かに綺麗な人ではあった。弟の事を親身に心配し、無事無罪判決を勝ち取った成歩堂にいたく感謝して何度もお礼に訪れる程、優しくて礼儀正しい。
―――ああいう女性が好みなのだろうか、と半分麻痺したような頭で考え、だが言葉だけは奇妙にすらすらと唇から滑る。
もし紹介してくれ、と頼まれ。これが切っ掛けで2人がゴールインしたら成歩堂はキューピッドだ。
「いや・・・他意はない」
御剣は何か聞きたそうな言いたそうな表情をしていたが、結局話を変えてそれ以降彼女の話は出てこなかったけれど。
2人の関係が変化する日はすぐそこまで近付いているという現実を突き付けるには、充分過ぎた。