ロマンティックが止まらない




 内臓を内側からきつく締め上げられるような情動に揺さぶられた響也は。
 長い指で頬の窪を押さえ、侵入角度を深めた。体重をかけないように覆い被さり、だが成歩堂の両脚を割り込ませた膝で開かせ、こちらも眠っている柔らかい部分を擦っていく。
 はっきり言って『三年寝太郎』を彷彿とさせる程、寝汚い成歩堂でも。
 人体は無意識下に、口以外でも呼吸できるとはいえ。
 口腔内の空気も唾液も、叶う事ならば舌も奪い取らんばかりの勢いで口付けられては、そして過敏な箇所を絶妙なタッチで刺激されては寝続けられない。
「〜〜〜?!」
 ぱちっと開かれた瞼の下から現れた黒瞳は、急激な覚醒に対する混乱を色濃く浮かべていたものの、2・3度の瞬きの後は再度ゆるやかに閉じられ、強張った肩からも力が抜けていった。
「…ん……」
 成歩堂が起きた事に気付いた響也のキスも、趣を変える。
 一方的に果肉を味わうものから、さながらダンスでも踊るように互いの舌を絡ませ、逃げては追い、逃げては誘う戯れを繰り返す。
 それはそのまま微睡みに落ちそうな位に心地よかったが、如何せん何分も接吻されていては、どうしたって息が続かなくなってしまう。
 トン、と響也の右肩が叩かれ、眉根を軽く寄せた成歩堂の様子からも限界を悟って響也は渋々ながら唇を離した。
 離れるにつれ、二人の唇を繋いでいた銀色の糸が切れてしまったのを惜しむように、もう一度音をたてたキスを最後に贈る。
「お早う、成歩堂さん。もう夜中近いけどさ」
 ニッコリ、ファンに見せるものよりも数段爽やかで嬉しそうな笑顔を披露する。
 元々パーツの一つ一つが整っているのに加えて、そんな魅力的な表情をされたら誰だって見惚れてしまうだろう。
 成歩堂とて例外ではなかったが、それでも口をついたのは響也への苦情だった。
「――もっと普通に、起こしてくれないかな? 酸素不足で、永遠の眠りについちゃいそうだよ…」
 しかし今の響也にとっては、それすらも睦言に脳内変換されるらしい。
 ニコニコと、満面の笑みは威力を失わない。
「眠り姫を起こすのは、キスって決まってるじゃないか」
「うわ…。響也くんは王子様でいいかもしれないけど、こんなおじさんに、『姫』はないんじゃないの」
 しつこく残っていた眠気も今の一言で霧散したのか、口調こそダレてはいるが鋭さは健在の突っ込みがなされる。
「照れてる成歩堂さんも、可愛いね」
「だから、さ…」
 全く堪えない響也を幾分呆れたように、困惑したように、成歩堂は見上げていたが。
 濡れて艶めく唇を拭いもせず。
 半眼モードでない時ははっとする程純粋な光を湛える双眸の淵を、ほんのり桜色に染め。
 文句を言いながら、右手は響也の袖口を掴んだままなのだ。
 成歩堂が度々言葉にのせるように、年上でも、男でも、ニート紛いの生活をしていても。
 響也にしてみれば『可愛い』以外の何ものでも有り得ない。
 ガツンと『萌え』た響也は己の心に促されるまま、また成歩堂の唇を奪った。
 それだけに飽きたらず、ぶかぶかのパジャマ――響也のものだ――の裾から手を忍ばせた。
「―っ…ぁ……」
 7年前より目に見えて細くなった腰から脇腹を撫で上げれば、こもった喘ぎが直接響也の唇へ囁かれ。
「ん…ぅ…っ…」
 わざと先刻のキスだけで存在を主張し始めている突起の周辺で数回円を描くと、響也の金髪に差し入れられた指に力が入り。
「成歩堂さん…」
 煽ったつもりで実は容易く煽られている、興奮を兆した下半身をもどかしげに成歩堂のそこへと重ね合わせた。