ペットボトルのキャップを外す気配がして。
ぐったりとした項に力強い手が当てられ、上向いた成歩堂へ水分がもたらされる。
成歩堂は水を与えられて初めて、自分がどんなに潤いを欲していたか知った。物足りなくて、水の供給源であるゴドーの口腔を探るが、もうそこには残っていない。
「ゴドー、さん……もっ…と…」
首へ手を廻し、まさしくコネコがミルクを舐めるような仕草でゴドーの唇をなぞる。
「おねだり上手なコネコちゃん、嫌いじゃないぜ」
からかわれているのは分かったが、今は恥ずかしさより、喉の渇きが優先事項だ。
ゴドーがペットボトルからわざわざ己の口を経由させるものだから、一回に精々二口分の水しかもらえず、必然的に成歩堂は何度も何度も口移しを請う羽目になった。
「…ん……?」
逆上せが落ち着き、給水ではなく口付けの甘さをより感じるようになってようやく。
成歩堂は、現状を認識し始めた。
上掛けを剥いだ布団の、タオルを敷いた上に投げ出され。
大きく広げられた両脚の間には、ゴドーの逞しい身体が割り込み。
ここまでなら、いつもの閨と大差なかったのだが。
決定的な違いが二つあり、それが成歩堂の意識を激しく揺さぶって急激に覚醒させた。
覆い被さるゴドーが、こういう場面なら外している筈の眼鏡をかけているのと。
ゴドーの身体が逆光になっている――つまり、室内の照明が点いたままだという事。
「ゴドーさん、消して下さい…っ!」
一度は落ち着いたと思った血流が、たちまち逆巻く。
「見ない、で――」
右手でゴドーの眼鏡を覆い、左手が体を隠そうと上掛けを求めて伸ばされる。
「おっと。オイタはいけねえな、コネコちゃん」
が、両腕ともあっさりゴドーに捕まれ、なんでそんなに手際がいいのかちょっと怖くなってしまうような鮮やかさで浴衣の帯で一括りにされ、その端は重厚な座卓の脚に結ばれてしまう。
「ゴドーさん?」
かつてないゴドーの行動に、成歩堂は抗議の声をあげたが。
「見ていいって言ったのはアンタだぜ、まるほどう。己の発言には、責任もたなきゃな」
「そんな、こと――」
言ってません、と声高に反駁しようとした語尾が、尻窄みになる。
霞み掛かった記憶の底を掻き回せば、浮かんでくる情景。
風呂から引き上げてもらうかわりに、自分は何と言った?
見ていい、と口走らなかったか?
忘れた振りができたら、どんなによかったか。
だが成歩堂はゴドーと違って、しらばっくれるのは不得手だ。
だから――。
ゴドーがカチ、と眼鏡のブリッジを押し上げ。
その手の下で猥雑に舌をちらつかせるのを、戦きながら見上げるしか術がなかった。