挫く、刻む、造り替える




「んんっ!」
 布の裂ける音に続いて、ボタンが弾け飛ぶ。日に焼けない白い肌が露わになったが、ゼニトラの目に宿ったのはやっと裸体を目の当たりに出来た喜悦ではなく、苛立ちだった。皮膚に刻まれた、数多の朱い花弁。服で隠れる部分には、隈無く散らされている。
「ようけ、可愛がってもろうとるみたいやんけ。こないな所まで、吸われおって・・」
「〜〜っ〜〜ん、く・・〜」
 憤りのまま下半身の衣類を残らず剥いだゼニトラは、閉じようとする力を易々と捩り伏せて股関節が軋む位に脚を開かせた。付け根近い内腿にも、荒く波打つ腹部にも、最奥をひっそり守る双丘にも、所有印はある。成歩堂の身体に、相手が溺れている事の証拠。
 痕の一つに爪を立てられ眉を顰めた成歩堂は、たった一人だけにしか晒した事のない素肌に蔑みの言葉と視線を受けながら細部まで観察される屈辱に顔を背けた。
 そして屈辱だけでなく、男の愛撫や達する事を知っていても初々しい羞じらいが未だ残っているのが、また興をそそり。ゼニトラは即、見え隠れする小さな窄まりに怒張を突っ込みたくてならなかった。
 だがその前に一つ、贈り物をしなければ。成歩堂がゼニトラのものになる儀式にふさわしい、特別なプレゼントを。
「これはなぁ・・」
 ゼニトラは成歩堂の左足に腰を下ろし、筋肉質で重い右足を腹の上に乗せた。これで成歩堂は起き上がる事はできない。それから残った成歩堂の右足を大きく開かせ、鼠蹊部を作業服の幾つもあるポケットから出した脱脂綿で拭う。
「元は女の仕込みに使うヤツやが、アンタ用に特別に調合させたんや」
「〜〜っ〜!」
 別のポケットから出てきたアンプルと注射器に成歩堂は激しく頭を振り、また可動部分を全て藻掻かせた。どんな調合かは分からなくとも、それが成歩堂にとってよくないものである事は察しが付く。
「メチャ、ええ気分になるでぇ」
 全力の足掻きすら、ゼニトラには瑞々しい肉体の心地よい躍動でしかなくて。唇を邪悪に歪めながらアンプルの液体を吸い込ませた注射を、鼠蹊部へと慣れた手付きで突き刺した。
「っ!」
 細い針故に、痛みは殆どない。しかし、ショックが大きくて成歩堂の目が限界まで見開かれる。
 だが差程たたない内に、瞳はきつく瞑られた。段々と肌がピンク色に染まっていく。速効性の催淫剤は心臓が鼓動を打つ度に身体全体へ運ばれ、痒みを伴った熱が成歩堂の神経を侵している筈。
「どや? キくやろ?」
 体勢を入れ替えて成歩堂の両脚の間に座り込んだゼニトラは、フルフルと勃ち上がりつつある、まだ色素の薄い欲望を太い指で弾いた。
「ん、ぐ・・っ!」
 若鮎のように身体が跳ね、その拍子に目尻から透明な雫がシーツへと吸い込まれていったが、急所を攻撃された痛みからではない事をゼニトラは知っている。その証拠に成歩堂の分身は萎えもせず、逆に硬度を増して先端に別の透明な雫を宿らせた。
「ワレ、反応がヨすぎるなぁ・・。元々エロいんとちゃうか?」
 吸収率の高い薬を選んだが、効能は合法ドラッグと大して違いはない。にも関わらず、無骨な手で摩擦しただけでその手がびしょ濡れになる位の体液を鈴口から吐き出す。
 感度も、申し分なかった。屈辱と嫌悪に眉を潜めながら、時折次々と沸き起こる官能を抑えきれず、和えかな艶をふっ・・と浮かび上がらせるのが、一層ゼニトラの雄を硬くする。
 布地に阻まれて窮屈になってきた分身を取り出し、同時に首裏を掴んで持ち上げ見せつける。
「ワレをこれから可愛がるモンに、面通しや」
「っう゛・・ぁ・・」
 大きさといい色といい形といい、淫蕩の限りを尽くした事が分かる醜悪さに成歩堂は顔を背けようとしたが、ゼニトラの手は万力に等しく。せめてもと瞼を閉じる。
「そないに嫌わんでもええやろ? 一度コイツの味を知ったら、他のモンじゃ満足できなくなるさかい」
 まぁ、二度と他のモンは咥え込めんけどな、と低く続けられた言葉に、成歩堂の肩が細かく震え出した。
 成歩堂が陥る絶望すらゼニトラは高揚を見出し、しゃぶらせた訳でもないのに完勃ち同然の肉棒を、成歩堂のそれに添わせ。二本纏めて包み、裏筋を強く摩擦した。
「ぃぁ、っっ!」
 ガムテープで塞がれていても、成歩堂が悲鳴を上げたのははっきりと伝わった。次から次へと涙が溢れ、だが痛々しく開いた縦目からもトプトプと先走りが流れてゼニトラの動きを助けてしまう。
「分かるやろ? このゴツゴツで、ワレのエエ所をエゲツのう抉ってやるでぇ」
 滑らかな皮膚と、硬い剛直。それとは別の突起のような盛り上がりが、括れや、先端や、裏側の感じやすい部分に当たる都度成歩堂は呻きを噴き零していたが、ゼニトラに示唆されて、ようやく正体を理解したようだった。頭が激しく振られ、肢体が甲斐なくのたうつ。
 指で触られるだけでも射精に行き着いてしまう箇所を、ゼニトラが言うように硬質な真珠で攪拌されたらどうなってしまうか、成歩堂の思考は凍り付いた。
「なぁに、初めは痛いかもしれへんがすぐにようなる。たっぷり善がり狂わしたるさかい、期待しとれ」
 あまりにも太く、しかも真珠を埋め込んでいる所為で、場数を踏んでいない者にとっては苦痛が先立つのだ。女でも受け入れるのは苦労するのだから、男の成歩堂にすんなりと挿入できる訳がない。
 しかし、成歩堂の身体はすでに男を迎える事を知っているし。薬も使った。最初の衝撃さえやり過ごせば、成歩堂が真珠の威力に翻弄されて堕ちるのも時間の問題だとゼニトラは読んでいた。
 わざと異物が過敏な分身の弱みを通るように調節し、一度目の屈服を確実に促していく。先走りの量と四肢の痙攣からして、待ち望んだ時はもうすぐだ。
 ゼニトラは、唇を捲り上げて哄笑した。
「大人しゅうなったら、その小生意気な口にも頬張らせたる」
 『申し訳ありませんが、貴方のお気持ちは受け入れられません』と、同業者でも滅多に見合おうとしないゼニトラの双眸を、最初から最後まで見据えたまま言い放ったその唇に。
 何度も思い描いた場面が実現した時、成歩堂はまだ完全には折れないで、悔しそうに怒張を咥えながらゼニトラを睨め上げるだろうか。
 それとも上の粘膜も真珠で圧迫され、感じ入った喘ぎを肉茎に塗すだろうか。
 どちらでも構わないから、早く見たいという欲求が膨れ上がったゼニトラは。尖った爪を蜜口に捻り込んで、成歩堂を強制的に吐精させた。




 総計すれば、三ヶ月どころではない。
 性に合わない我慢なぞを強いられたのだ。狙った獲物に逃げられるという失態までしでかした。
 ゼニトラの憤りと欲望が収まるまでには、とてもではないが数ヶ月では足りない。飽きるまで、成歩堂を一瞬たりとも解放する考えは毛先程も存在しなかった。