初めての法廷で。
王泥喜は真実をどこまでも追い続ける事の大変さと大切さ。辛くとも、見抜いた真実を白日の下へ晒す事の重要さを知る事ができた。
そしてそれとは別に王泥喜の心を揺り動かしたのは、『形』はともかく、憧れの成歩堂と法廷に立てた事。
成歩堂は王泥喜の初法廷が混乱したのを気にしている節があるが。『成歩堂が出る裁判は荒れる』伝説を実体験できたのも王泥喜にとっては喜びなのだから、どちらにせよかけがいのない『記念』である。
「これから沢山の裁判をこなしていきますけど、いきたいですけど、成歩堂さんと一緒に立てた法廷は特別なんです!」
決まった、と王泥喜は思った。数秒間だけ。
「いやいや、オドロキくんてばホントに僕の事が好きなんだね」
「はい、大好きです! え?いや、違・・違わないですけど、でも・・っ」
絶妙のタイミングでの突っ込みリピートに、王泥喜もうっかり同じ台詞をリピートしたが、今回は途中で己の返答の青さに気付いて、少し薄まりかけていた赤みが再度戻る。
今更ながら、先程もこのパターンで真実を吐露してしまった事に思い至る。しばらくアワアワオタオタしていた王泥喜だったが。
一度息を吐ききり。
肺一杯に新たな空気を取り入れると、成歩堂の目を真っ直ぐに見詰めて宣言した。
「ええ。成歩堂さんが大好きですから! 一緒に法廷に立てた記事は全て記念に保管していきますよ。この先、ずっと」
現場を押さえた訳ではないものの、成歩堂が司法試験に向けて準備していると信じて。憧れを、一度だけの成就では終わらせたくなくて。
正直膝が震える程に大口を叩いている事は自覚していたが、ともかく王泥喜は言い切った。
「・・・うん。でもソレ、極秘資料じゃなかったの?」
王泥喜の勢いに、成歩堂はまず突っ込みを入れ。それから、珍しく気怠さのない笑顔を見せた。
「ご期待に添えるよう、頑張るから。景気づけに、お帰りのキスでもしてもらおうかな?」
「!?」
これまた珍しすぎて、前回事務所でのキスの許可が下りたのはいつだったのか朧気な記憶を回想したが。
すぐ、そんな場合じゃないと目眩が起こる程に頭を振り、イソイソという擬音がピッタリくる動作で躙り寄り。いつもグレープジュースの香りと味のする唇へ、思いの丈を込めて口付けた。
そこから差程月日のたたない内に、王泥喜の願いはまた一つ叶い。
青スーツ、弁護士バッチ付き、無精髭抜き、の不死鳥さながら蘇った成歩堂龍一弁護士が証言台ではなく弁護側、王泥喜の隣に立ったのだが。
王泥喜が思い描いていた『二人でビシビシと矛盾を見つけ出して、華麗に鮮やかに格好良く難解な審理に勝利する』スタイルとはだいぶ異なり。
「オレ、大丈夫じゃないかもしれません! どうしましょう、成歩堂さんっ!?」
「ん〜? おや、ツノが萎れているね。とりあえず、水でも掛けてあげようか?」
「ツノじゃなくて、前髪です!ああ、寝ないで下さーいっ?!」
「オドロキくん。成歩堂なんでも事務所のモットーは、『ピンチの時ほど、ふてぶてしく笑え』。そして『補佐弁護人は寝るに限る』、なんだよ?」
「そんな追記は、なかった筈です!」
「これこれ、成歩堂弁護士。裁きの場で居眠りはしないように」
「異議あり! 裁判長、これは『居眠り』ではなく『熟考』のポーズですっ!」
「異議あり! 何でそこだけ、以前並の迫力なんですか?! もっと別の所に発揮して下さいっ。しかも『ポーズ』って、やっぱり寝る気満々じゃないですか!!」
「あっはっはっ。後は頼んだよ、オドロキくん」
霧人の事もあり、王泥喜を一人前の弁護士に育てようと誓ったらしい成歩堂の教育方針は、放任主義+スパルタ。
『新人・王泥喜法介弁護士。崖っぷち弁護と荒れる法廷を継承!』とのコメントが添えられた、おデコがテカテカの王泥喜が写った記事は、成歩堂関連以外は、戦時中の禁書みたいにベタで塗られた上でスクラップブックに綴じられた。
ちなみに、それでも王泥喜が勝訴できた理由は。
『ここから逆転できたら、その雄姿に惚れ直すと思うよ』という成歩堂の一言に、王泥喜が最後の力を振り絞ったからであり。
妙な奮起の仕方で乗り切った王泥喜へ、『まだ一人前には程遠いね・・』と成歩堂が内心でダメ出ししたとか。