Isomer




「無理だって!」
 その言葉を聞いた御剣は素早く携帯を取り出し、糸鋸刑事の番号を呼び出した。
『はい、糸鋸ッス!』
 一コールで出たのは誉めてやってもよかったが。
「糸鋸刑事、すぐ戻ってきたまえ!」
『ハッ!御剣検事! 即刻帰還するッス! するッスけど・・どうやら自分、迷ったみたいッス!』
 ビキリ、と御剣の蟀谷に青筋が浮かぶ。
「馬鹿者、減給だっ! すぐさまNBC対応班を現場に寄越せっ!」
 激昂はしても冷静さは失わない御剣は矢継ぎ早に指示を出して携帯を放り投げた。援護が来るにしても、最低十分はかかるだろう。悠長に待っている時間はないに違いない。
 御剣の嫌な予感を裏付けるように、成歩堂に異変が起こる。
「いやいやいや、溶かされてるんですけど!?」
 特徴的な青のスーツが謎の生命体に吸収されて透明になっていくかの映像だったが、実際は何らかの作用で衣類が分解されていた。それを目撃した御剣の背に、ゾッと悪寒が走る。
 証拠など一つもなくとも、閃いたのだ。
 事件の真犯人は、コレだ、と。
 被害者はこの物体に取り込まれ、溶かされ、僅かに肉が残るだけの憐れな姿になったとしか考えられなかった。それが想像ではなく真実なら、猶予など一欠片もない。成歩堂を、次の犠牲者にする訳にはいかない。
 扉を諦めて窓を破壊する事にした御剣は、頑丈なスチール椅子を擦り上げ、渾身の力で叩き付けた。
「ム・・強化ガラスか」
 しかし、ガラスは僅かに罅が入っただけで割れなかった。
 この強度では、鋭利な物で穿ってからでないと到底歯が立ちそうにない。流石の御剣も切迫に駆り立てられ、足音も荒く室内を物色する。
「ひゃぁっっ!? み、御剣ぃっ!」
 悲鳴が流れ、戦慄を覚えながら部屋を振り返った御剣は、再度、硬直した。
 御剣の予感とは異なり、成歩堂の皮膚は醜く爛れてはいなかった。
 が、上半身の前面と腰回りの布が完全になくなっており。剥き出しになった胸の突起と、雄身と、それから口唇が棒状になった半透明の塊に嬲られていたのだ。
「成歩堂っ! そんなモノに触らせるな!」
 妬心に支配されている場合でも、妬心の対象でもないと頭では理解していたが、心は別で。走り寄って素手でガラスを殴る。
「おま、好きで触らせてるとでも思うのかよ!?」
 あんまりな言い様に、口を塞がれていた成歩堂は勢いよく首を振って蹂躙から逃れ、御剣を詰った。
 四肢はビクともしない力で拘束されているのに、肌を這い回るモノは回りにジュンサイの滑りを纏った、非常に柔らかい水風船のようで。服がボロボロになった時は、成歩堂も写真と同じ肉になるのかと血の気が引いたが、今の状況がマシだとはとても思えない。
「っく!」
 ズルズル、と分身に絡み付いた軟体が螺旋状に蠢き、息を呑む。
 気持ち悪い。
 気持ち悪いけれど―――自分以外のものから刺激を与えられる事に慣れた身体は、成歩堂の意志とは関係なく反応してしまう。
 背中一面に密着した半固形が、マッサージ器のようにボコボコとうねっては皮膚を圧し。胸を突く少し細めの棒は器用に一部を硬化させ、飾りを左右に転がしては吸引する、なんて事もやってのける。耳には紙縒並に細く伸びた枝葉が流し込まれ、ベチャベチャと粘着質な音をたてては成歩堂の背筋にゾクゾクとした疼きを走らせた。
「や、め・・ろ・・っ」
 血流が沸き立つのを感じた成歩堂は、弓なりに反って少しでも未知の生物から離れようとした。が、忽ち引き戻されて露出している所は言わずもがな、布と肌の間を水気をたっぷり含んだ膜のような突起のようなものが入り込み、ウゾウゾと動いて産毛と皮膚を濡らし、擦る。
 それは目の一番細かい鑢で、触れるか触れないかの位置で延々と研磨されるかの痒さを齎し、成歩堂は思わず熱い吐息を零していた。
 知的生命体は成歩堂の変化を理解したのか、ざわつきが一層活発的になる。
「ゃ、ぁ・・ん・・ぅ・・」
 首から顎、口元へ伸びてきた水の蔦を避ければ、反対側から登ってきたヤツがするりと口腔内へ侵入を果たし。噛み付こうと歯が合わさる直前にもう一本が忍び込んで、それぞれ上下の歯列を抑える。
「ふ、ぁ・・っっ」
 最後に入ってきたのは、厚みも形も舌そっくりで、長さだけが異様に突出しているヌメリで。ねちゃりと、やはり舌と酷似した音と動作で成歩堂の肉片を絡み取った。
「ん、ん・・っく・・ふ」
 中央の溝をなぞられ、裏側に潜り込まれ、鼻にかかった甘ったるい声が漏れてしまう。意識とは、裏腹に。
 成歩堂の身体に触れるのは、御剣だけなのに。
 御剣だからこそ、男でありながら浅ましく喘ぐ姿も見せられ、同じ男の身体を受け入れられるのに。
「〜〜っ・・」
 ほろり、とつい零してしまった雫も頬を這う異物に取られ、成歩堂は新たな雫を流した。
 そんな一途な成歩堂に対し、御剣は無意識に喉を鳴らし、淫猥な光景に目を奪われていた。
 固さを帯びた液体は半透明であるが故に、ぷくりと膨れた突起が潰され、捏ねられ、左右に転がされる様も。三p程開いた口の中で、甘い味のする舌が蠢くのも。そして、陽炎にも似た影が動く度、勃ち上がった欲望が鈴口から蜜液を流すのも。
 全てが、御剣の前で詳らかにされていた。まるで淫らで幻想的な映像が、水鏡に浮かび上がっているような錯誤に陥る。それは未だ嘗て見た事のない、録画でもしない限り御剣には見る事のできない成歩堂の媚態だった。
「んん〜〜っ!」
 汗と、多分水淫の液体で濡らされて少し湿った黒髪がブンブンと振られた。新たな水縄が巻き付いたのか、日に焼けない白い太腿の真ん中辺りが凹み、段々と上へ持ち上げられていく。成歩堂は更に紅潮して四肢を藻掻かせ、何とか逆らおうとしているようだが、傍目からは成歩堂が自ら両足をM字に開いているとしか映らない。
「・・ん、むっ・・っ・・」
 成歩堂の抵抗虚しく、最奥の、慎ましやかだが一度御剣を咥え込むと貪欲に放そうとしない秘孔が晒される。まさか、とは思うが、これまでの行動を鑑みれば粘着質な塊が最終的に目指すのはそこしかないのだろう。
「・・く、ぅっ・・」
 ぐち、と透明な指が両側から窄まりを拓く。鮮やかな真紅の肉襞が、無惨に捲られた縁の下から現れる。
 火傷してしまいそうに熱く、拒みながらも深く御剣の滾りを迎え入れて蠱惑的に収縮する、御剣だけが知っている肉洞。何度貫いても満足する事のないその場所が惜しげもなく暴かれ、そんな状況ではないのにどうしても魅入ってしまう。
 が、激しく咳き込んで太い舌紛いを追い出す事に成功した成歩堂が、
「み、御剣っ! やだ、って!!」
 悲痛に叫び、御剣はようやく妙な呪縛から解き放たれ、我に返った。どうやらアメーバみたいな外見のそれは、服以外溶かすつもりがなく最悪の事態は避けられたものの、安堵できる筈もない。明らかに、成歩堂は陵辱されかけているのだから。