執務室にて




 以前の執務室と比べて、格段に広くなっていて。
 調度品一つをとっても、ランクが上がっており。
 一度座ったら立ち上がれそうにない位の、ソファのふかふかさといったら! ウチの煎餅布団より余程良い夢見られるんじゃないか?、と真剣に思う。何かあったら絶対ここに止まらせて貰おう、とも。
「局長って、メチャメチャ偉いんだな・・」
 ソファへしがみつくように懐きつつ、成歩堂は漏らした。検事局長室を隅から隅まで探索し、ようやく落ち着いたのは30分後。
 来た当初、御剣が手ずから用意してくれた紅茶はすっかり冷めていた。ゴクゴクと味わう事なく一気飲みする成歩堂に、書類を捌いていた御剣は深い溜息を吐く。
「それだけの責任を負っているという事だ」
「真面目にやってるのは、オマエ位じゃないか?」
 次の書類を取り上げつつ、何でもない事のように御剣は告げたが。どちらが真実に近いかと言えば、成歩堂のツッコミに軍配が上がる筈。権力を追い求める者は多くても、付随する責務を果たす者は極少数。
 けれど、御剣は。眉間に皺を刻みながら、当たり前のごとく職務を熟していくのだろう。
 どんな立場でも。
 どんな部屋に在っても。
 弛まなく、抜かりなく。
「確かに実の伴っていない者が多いな。それも、懸案事項の一つになっている」
「仕事が山積みじゃないか、局長サン」
 既に大きな目標に向かって歩み始めた御剣を、敢えて軽い口調でからかう。御剣が―――御剣と成歩堂が相手にするモノは巨大だから、長丁場を覚悟する必要があり。気を張り詰めてばかりでは、道半ばで力尽きるかもしれない。
 幸い、というか。奇妙な星の巡り合わせというか。本心を綺麗に覆い隠し、何年も何年も揺らがず信念を持ち続ける事に関しては成歩堂の方が長けている。心の奥深い所で凝り、倦み積もっていく闇をそっと受け流す術も。
 初めて訪れた局長室には、肌をピリピリ刺すような空気がそこかしこに漂っており。部屋のスケールだとかインテリアに何らかの印象を覚えるより前に、『ああ、マズいな』と感じたのだ。
 超がつく程、真面目で。一度心を決めると、ダークサイドへ堕ちるのも躊躇しない位、頑なで。休息が必要な事は知っていても己なら乗り越えられると、ちょっと自惚れている。また大抵は、乗り越えてしまう。
 局長室を物色する傍らちょくちょく様子を伺ったけれど、すっと御剣の気は張り詰めっぱなしで。マズい、からダメだ、にレベルアップした。
「御剣、紅茶のお代わり淹れてくれよ。美味しいお菓子があるから、食べよう」
「私の記憶が確かなら。それは、貴様が差し入れに持ってきたものではないか?」
「あっはっはっ、まぁいいじゃないか。みぬきセレクトだからオススメだぞー」
「・・・全く、仕方のない奴だ」
 だから、半ば強引に机から剥がし。糖分と水分と休憩を取らせる事にした。
 まだまだ仕事をしたい御剣は当然渋ったが、我が儘を通す形で押せば―――最後には、折れる。仕事が関わっていない部分では、御剣も恋人に激甘。そして利用できるモノはトコトン利用する辺りは、ニットの手管。