Nonalcoholicで愛して




「貴様は、神乃木氏に触らせすぎだ」
「はぁ?」
 ハイサワーをちびちび呑んでいた成歩堂は、急に何を言い出したのかと視線を向ける。
「あの男は危険だ。安易に近付くものではない」
「―――――」
 そして、御剣の真意に気付いた途端。成歩堂の目も、据わった。
 これは、嫉妬だ。
 御剣はゴドーの実力を認める一方でどこか警戒心を持っているようだったが、その一因が成歩堂にあったとは。確かにゴドーはやたらスキンシップが多く、『恋人』としては見過ごせないのかもしれない。
 だが、しかし。
 ちょっと筋違いだろ、と成歩堂は思うのだ。
 恋人らしい事を一切しないくせに、独占欲や妬心だけは人並みにあり堂々と主張してくるのは。しかも、アルコールの勢いを借りて。
「オマエ、そんな事を言える立場なのか? この半年の行動、思い返してみろよ」
「グッ――!」
 成歩堂の指摘は、思い当たる所が多々あったらしい。御剣が仰け反り、潰れた声を出した。
「彼氏面したいなら、指1本握れないヘタレを卒業しやがれ!」
 ―――実は、成歩堂も結構酔っていた。御剣が(成歩堂の為に)用意していた焼酎は、普段成歩堂が飲み慣れているものより度数も値段も数倍高く。ペースは変わらなくとも、アルコールはかなり浸透済み。
 そうでなければ。
 誘っているように聞こえる発言なんて、する訳がない。
「成歩堂・・・」
 己の言葉が齎した影響に気付かないまま、成歩堂は愚痴モードへ移行していく。
「大体、オマエはなぁ。いっつも偉そうにして、嫌味ばっかり言ってくるのに――」
「触れて、いいのか」
「あん? うわっ!?」
 思いの外溜まっていた文句を吐き出そうとして、突然遮られ。ムッとして顔を上げたら―――至近距離に、御剣のドアップが。
 反射的に後退った分だけ、再度御剣が間を詰めてくる。
「私がどれ程餓えているかなぞ、成歩堂には想像もつかぬ筈だ。あの日以来、夜な夜な成歩堂の表情、声、匂い、味、熱が夢に現れて酷く劣情す――」
「いやいやいや、ストップ!!」
 心なしか息を荒げて言い募る御剣の口を、慌てて塞ぐ。成歩堂の酔いは、すっかり覚めていた。御剣の『スイッチ』が入ってしまった事に気付いて。
 酒の量が半年前と違って少なかったから二の舞にはならないと考えていたのだが、成歩堂の挑発的な言葉と半年間の禁欲が加わって、ヘタレモードから誑しモードへ移行したらしい。
「ぎゃっ!」
 どうやってこのピンチを切り抜けようかと必死で思考を巡らせているにもかかわらず、被せていた手をベロリと舐められた成歩堂は色気も素っ気もない悲鳴を上げた。その、力が抜けた一瞬を逃さず、御剣が素早くのし掛かってくる。
「私も男だ。折角の誘い、喜んで応じよう」
「異議あり! 誤解だから!! ヘタレのままでいいからっ!」
 そこから先は、ほぼ半年前のリピート。




「ふ、ぁッ・・っ・・」
 成人男性2人の体重をかけられても、高級なベッドは大して軋まないけれど。筋肉がみっしりついた御剣に覆い被されると、ただでさえ息が上がっている成歩堂には辛い。
「・・は・・・ぅ・・・」
 しかし抗議どころか指1本動かすのも億劫で、濡れて熱く、荒い呼気と鼓動が感じられる肢体がぴったり重なるのを、受け入れざるを得なかった。
「成歩堂・・・」
「っ!」
 甘い声音に、甘い口付け。それらを耳裏へ施され、ほんの微かな触れ合いだったけれど、達した直後で過敏になっている成歩堂はビクリと身を竦ませる。
「ウ、ム――」
 呻いたのは、御剣の方。吐いた息は、未だ熱を孕んでいて・・・別の所が、新たな熱を帯びる。
「ちょっ、御剣!? もう無理だから! 何回目だと思ってるんだっ」
 成歩堂の胎内に留まったままの楔が秒毎に漲っていくのをそれこそ直接的に知覚し、最後の気力を振り絞って抗議した。
 が。
「半年分には、程遠い。離せるものか」
「ぁァッ!!」
 グチュン、と赤面ものの淫らな音と共に肉棒を最奥まで打ち込まれ、最早まともな言葉も出せなくなる。半年分なんて物理的にも体力的にも不可能だから―――というツッコみも勿論、無理。
 



 数日後を引く位、貪られた成歩堂は。
 御剣がヘタレを脱却して『次回』を望んだ時は。素面を絶対条件にしようと、堅く誓った。