Splashy love




 成歩堂の格好は、パンクがモチーフなのだろう。サングラスをかけている事もあって、元々童顔の成歩堂はそれ程違和感なくファン達に紛れ込めたに違いない。
 こんな格好をした経緯は、仮装ならぬ変装をしたら、パパでもコンサートに行けるよ!と愛娘が提案し、何故か真宵が便乗して二人がかりで成歩堂をコーディネイトしたのだ。
 いい年したオヤジが若作りして!と笑いは取れても、欲情させる要素は全くない筈。
 しかし現に響也の双眸にはケダモノめいた光が宿っていて、困惑と危機感に成歩堂の顔は引き攣った。
 そう、成歩堂は知る由もないけれど。
 響也は、チラリズムに萌える質だった。 
 手足ともしっかり覆われているのに、所々素肌が見え隠れし。動き如何で、白く滑らかな腹部がお目見えする。響也にとっては、完全に明かされない部分が、暴いてくれと誘っているようにしか思えない。
「とてもじゃないけど、待てないから。こうして触れられるのも、すごく久しぶりなんだよ・・?」
「うーん、とりあえず落ち着こうか。・・っ、き、響也くん・・っ」
 再びきつく抱擁され、不穏な流れに抗おうと平静を装って話しかけた成歩堂の身体が、大きく揺れる。腿に空いた穴から響也の指が忍び込んできて、脚の付け根を摩り始めたのだ。
 響也の隠れた性癖を知らない成歩堂だから、まさか響也が『後ろ側の付け根に穴を開けて、そこから少しずつ指やら舌やら手やらその他諸々を差し入れて成歩堂を乱したい』と妄想しているなんて、考えもしない。
 だが、妖しい雰囲気は察知できる。このままでは違う扉が開いてしまうかも、と。
「ここでは、ダメだよ・・っ。分かるだろう?」
 蠢く指に上擦った声を漏らしそうになるのを懸命に堪え、成歩堂は目を見て訴えた。鍵は掛けてあるとはいえ、周りは響也と成歩堂の関係を知らない者ばかり。
 万が一が起こるのを避けたいと気遣うのは、ただ、響也の為。
「じゃ、ボクの家に来てくれるね?」
 成歩堂に心底惚れている響也が、どうして成歩堂の思いやりを無碍にできようか。
 響也は深い溜息をつき、渋々ながら愛撫を中断した。とはいえ、逃がさないよう先手を打つ。
「・・・まぁ、いいよ」
 二人きりの密室から出て、メンバーやスタッフという現実に触れたら、妙に艶めかしい空気が薄れる可能性に賭けて頷く。
「やった☆ さ、早く早く」
 成歩堂の返答を聞くなり、響也はギターだけを取り上げて解錠した。スキップしかねない足取りに忍び笑いつつ、サングラスをかけた成歩堂が後に続く。
「お疲れ様です!」
「ステージ、最高でしたよっ」
「みんな、ノってましたね〜」
「ありがとう! また、よろしくv」
 通路を、長いスライドを存分に活かして歩く響也や次々と声がかかるものの、その隣にいる成歩堂に対しては当たり障りのない一瞥が向けられるだけ。流石に同じ芸能人と誤解される事はないだろうが、格好からして関係者には見えるかもしれない。
 パチン、と響也が上機嫌で指を鳴らす。
「いいね」
「・・何が?」
「この格好なら成歩堂さんが一緒に歩いてくれるんだな、と思ったら嬉しくて嬉しくて、歌い出しそうだよ」
 サングラス越しに寄越された視線は、間にある障害物など物ともせずに楽しくて愛しくて堪らない想いを乗せていた。
「業界人スタイルを片っ端から揃えて、プレゼントしてもいい?」
「却下」
 素気なく響也の申し出を退けたけれど、それこそ歌い踊り出しそうに浮かれていながら、声は周りに聞こえない音量してくれ。アイドルの響也と表立って接触しないようにしているのは成歩堂の方なのに、責めるどころか一緒に居られる方法をいつでも前向きに考えてくれる響也に。
「みぬきと真宵ちゃんが買ってくれたから、コレで充分」
 少しの罪悪感と、多大な感謝を抱く。




 ―――それも、響也の車に乗って二人きりになるまでの、短い間。
「き、響也くん! 運転に集中してくれないかな!?」
「あははー、成歩堂さんを乗せているのにボクが事故ると思うのかい? 有り得ないよ!」
「いやいや、運転が上手いのは分かってるけど、そういう事を言ってるんじゃなくて―――」
「ああ、早く家に着きたいんだね。もう少しだから、我慢して」
「異議あり!」
 服の破れ目という破れ目から手を突っ込んでこようとする響也に、成歩堂は必死でツッコんだが、加速した響也の欲望にブレーキというものは存在しなかった。