直ナル

Trick,Trick,Trick:1




 カタン、と引き出しを締め。外出用の鞄を机へ乗せた成歩堂を視界の端に納めたゴドーは、マグカップを口から離した。
「コネコちゃん、行くのかィ?」
「コネコじゃないですけど、途中で警察局にも寄りたいんでそろそろ出ます」
 視線は手元に注いだまま、成歩堂が声だけを返す。生返事でもツッコミを忘れないのが『らしく』て、ゴドーの笑みを誘う。
 何の因果か今はゴドーの上司で、友人で―――言葉にも態度にもおいそれ出さないが、とても可愛い後輩。ちょっとした諍い(『ちょっとじゃ片付けられませんよねぇっ?!』という成歩堂のツッコミが聞こえた気がしたが、気の所為で片付けるゴドー)を越え、千尋の思いを受け継いで千尋の分も大切に育てていきたいと思っている。
 故に、ゴドーは予防措置を講じる事にした。ゴドーの読みが正しければ、そして十中八九的中すると確信しているが、今日の日付や呼び出した相手を総合的に考察すると、コネコを待ち構えているのは大きく開いた罠。
「ちょいと、待ちな。ケージを出れば、コネコちゃんには一人の要注意人物がいる」
「・・・六人も減ったのならいいじゃないですか」
 ケージとかコネコ関連には先程ツッコんだばかりなので、敢えて違う箇所を指摘してくる成歩堂。味方も多いが敵も多い事を自覚している点は及第点をやってもよかったけれど、まだまだまだまだ、認識が甘い。
 『甘さ』は成歩堂の長所でもあり、今回は間違いなく弱みになる。ヤられると分かっていて見過ごす事など、ゴドーが許す筈はない。
「備えよ常に。―――さぁ、まるほどうの武器だ」
「・・・これが?」
 ドン、と机に置いたモノを見た成歩堂の双眸が、大きく見開かれ。零れ落ちそうだな、とゴドーは喉奥で低く笑った。




 カサカサカサ・・
 ゴソゴワゴソゴワ・・
「び、微妙に煩い(汗)」
 事務所から警察局・検事局への道程は、通い慣れたもの。多少ぼんやりしていても、無事辿り付ける。しかし今日はそれが災いして、僅かではあるが絶え間ない物音と感触が気になって気になって仕方なかった。
「こんなに要らないよな。ゴドーさんてば、どういうつもりだろう」
 愉快犯で、確信犯。成歩堂をからかうのを日課にしているようなゴドーだったが、今回はいつにも増して不可解。果たして、どんな意図があるのか。
 カサカサカサ・・
 ゴソゴワゴソゴワ・・
 歩く度、背広の胸ポケットから。サイドポケットから。スラックスの前・後ろポケットから。鞄のありとあらゆる開口部から。軽く擦れ合う音や、軽いものがぶつかる音が生じている。
 キャパオーバー気味に詰め込まれている為、見た目もモコモコしているし加えて感触もゴロゴロする。成歩堂は胸ポケットから一つ『それ』を取り出し、表示を確かめると口の中へ放り込んだ。途端、口内一杯へ広がる清涼感。これから人に会うけれど、ミントキャンディならそれ程失礼にはならない筈。
「今日は涼しくてよかった」
 のほほんと。のんびりと。親(ゴドー)の心知らずな呟きを漏らす成歩堂は。
 今日がハロウィンという事は分かっていても、この後、己を待ち受けるモノを想像だにしていなかった。
「みんな、この人は弁護士さんの中でもスーパーな成歩堂さんだよ」
「こんにちはー!」
「ちは〜」
「どこがスーパーなの? まゆげ?」
「ホントだ! まゆげ、折れてるっ」
「かみのけも、ツンツン!!」
「ははは・・よろしくー。眉毛も髪型も関係ないからねー」
 直斗との約束通り検事局へ出向いた成歩堂を迎えたのは、小学校低学年と思われる児童のグループ。お揃いのトンガリ帽子を被った子供達は興味津々に成歩堂を取り囲み、やいのやいの囃し立てる。
「可愛い格好してるけど、今日は何の用事で来たのかなー?」
 勢いに押されつつも、この手のノリは真宵で多少耐性がついていた為何とか笑顔で問い掛ければ―――。