直ナル

相談しよう・2




 肝心な部分は濁したが、それが偽らざる感想。ゴドーとの会話でも、しょっちゅう武勇伝が語られていたし。
「俺もビックリだよ! その子にだけしか反応しないんだけど、一人でも男を好きになったらホモなのかな?」
「え? う、うーん、どうですかねぇ・・」
「まぁ、別にホモでもいいんだけど」
 いいんかい!、と成歩堂は心の中でツッコんだ。直斗の口調から判断すると、己の性癖に戸惑っているのとは異なるらしい。流石、愉快犯だ。
「ただ、相手がノンケ―――ノーマルでさぁ。自信がないんだ」
「確かに、ハードルが高いかと」
 同性に好意を抱く者同士なら、基本は男女の交際と変わらないものの。片方が異性愛者なら、最初にして最大の難関が立ち塞がる。
「そうだ! ノンケの成歩堂くん。もし俺に告白されたら、どう思う?」
「うぇっ!?」
 難しいよな、と他人事ながら哀しさを覚えて俯いた成歩堂の顔を、直斗が突然覗き込んだ。瞳をキラキラと輝かせて答えを待たれ、対処に苦慮する。
「人それぞれですし、僕の意見は参考にならないような・・」
「大丈夫! 共通点ありまくりだから、是非聞かせてほしい」
「はぁ、なら・・・」
 直斗がやけにベタベタしてきたのは、直斗の想い人に似ていたからなのかと納得して協力する事にした成歩堂だが―――勿論、勘違いである。
「ありがと! 成歩堂くんの優しい所も好きだな」
「いや、え、あの・・」
 更に距離を詰めた直斗が甘く囁き、ソフィスケートされた動きで成歩堂の手を握る。お芝居だと承知の上でも、視線の熱さだとか声音の柔らかさとか恋人繋ぎに絡められた指に、成歩堂はうっかりドキドキした。
「どう? 気持ち悪い? 触ってほしくない?」
「気持ち悪いなんて、思いません」
「どうして? 成歩堂くんはノンケなのに」
「直斗さんに、好意を持っているからでしょうね」
 ホモだろうがノンケだろうが、直斗という人が好きだから、拒絶反応は起こらない。そう告げれば、嬉しそうに直斗は笑った。
「どうやら、門前払いは避けられそうだね。俺って、日頃の行いがイイから〜」
「・・・・・」
 寧ろ悪い、とのツッコミは飲み込んだ。
 成歩堂が微妙な表情をしているのをあっさりスルーした直斗は、次の質問に移る。
「そうそう、成歩堂くんって一人っ子でしょ。ご両親とかに反対されそう?」
「随分と具体的な・・・直斗さんの方はどうなんですか?」
 当たり前だが今まで考えた事もなかったから即答できず、時間稼ぎに質問し返してみる。が、ここで詰まる直斗ではない。
「俺は次男だから、孫は兄貴に任せるよ。というか、親にはOKもらったし」
「・・・ご寛大なご両親ですね・・」
 付き合ってもいないのに、親の許可を得るのはどうなのか。外堀から埋めていくやり方は、直斗らしいけれど。
「成歩堂くんのご両親は、早く結婚しろとか言ってくる?」
「うちは放任主義ですから、何も言われませんね。一風変わってもいますし、同性の恋人ができても勘当まではされないと思いますが。・・・いやいや、僕のケースは参考にならないですって!」
 上手く直斗に乗せられて答えていたが、成歩堂の家族がどうだろうと直斗の問題には関係ない。慌てて打ち消そうとして、未だ手をしっかり繋がれていた為、仕方なくブンブンと頭を振った。
「それが、なるんだよ。俺、突き進んでもイイみたい」
「直斗、さん・・?」
 だが、直斗が話を軌道修正する事はなかった。
 嬉しそうに楽しそうに爽やかに笑い。
 爆弾を、投下した。 
「成歩堂くん、好きだよ。一生添い遂げる事を前提に、付き合って下さい」
「・・・・・は?」
 いつの間にか両手を強く握られ、直斗との距離はあと数pでくっついてしまう位の近さ。
 おちゃらけた態度を綺麗さっぱり拭った、この上なく真摯な瞳で見詰められた成歩堂は。
 ようやく、直斗の想い人が誰なのかを知った。
「激ニブな所も、ツボなんだ」
 真面目な口調のまま、ぺろっと宣った直斗のウィンクは、やけに格好よくて。
 再度うっかり鼓動が高鳴ったのは、イケメンオーラにやられただけだと思い込みたい。