振る舞いも性格も狼っぽいというか、大型犬っぽい狼だが。
「えええぇー・・!!?」
まさか、狼の耳と尻尾が生えるなんて想像だにしていなかった。
10月半ばに、新しく事件を任され。ハロウィンには帰国できそうもないと聞いた時。半年近く会っていなかったから、勿論残念な気持ちはあったものの。ちょっとだけ胸を撫で下ろしたのも事実。
何せ、ハロウィンは消去したい思い出しかない。1年目の花魁(コピー本参照)に引き続き、去年は緋色の長襦袢(『夢ならいいのに』参照)とハロウィン関係ありませんよね!?とツッコミ必至のコスプレから逃れられなかった。
今年は、帯を解くのにくるくる回されたり紐で卑猥な格好に縛られたり、中途半端に着物を四肢に纏わりつかせたまま延々嬲られたりしなくてすむと思うと、嬉し涙が滲む。
幾ら遠距離恋愛で、タイムリーには会えない職種に就いていても。それを免罪符にして時期外れのコスプレイを仕掛けられては、成歩堂の身が持たない。というか、これ以上黒歴史が増えるのは極力避けたい。
狼と何度も交渉を繰り返した結果、イベントの有効期限は時差やら長距離移動を考慮して前後3日との約束を締結し。故に、不謹慎ながら犯人逮捕は文化の日以降を切望してチャーリーにお供えをする日々が続いていた。
猶予期間が無事過ぎれば、コスプレの危険を回避した成歩堂は、またしても現金にも無傷での事件解決を心底願うようになり。11月半ば近くに、解決したとの短いメールを受け取った時には、街中にもかかわらず喜びの声を上げてしまった。
ところが。
インターフォンが鳴るや否や慌ただしく玄関へ駆けつけると。
「よう、龍一」
「お、お疲れさまです・・」
珍しく、キャップを被り。定番の革ジャンではなくロングコートを羽織る狼が扉の向こうに立っていた。雰囲気がいつもと妙に異なり、ドキリと鼓動を跳ね上がらせた一秒後。
「えええぇー・・!!?」
取り去ったキャップの下から現れたモノに、成歩堂は大きく目を見開いた。
犬のそれより、一回り大きい灰色の耳は真っ直ぐ上へ立ち。時折ピクリと動いたり、何か物音を捕らえたのか向きを変えたりする。
尻尾も同じ灰色で、長いし太いしフサフサだ。ヒップハングのジーパンをもっとずり下げるようにして履いているのも大変そうだし、厚手で重い革のロングコートでなければその存在を隠しきれないだろう。
「一体、どういう訳で・・?」
衝撃からようやく立ち直ってとりあえず狼を室内へ迎えた成歩堂は、作り物では不可能な動きをする耳と尻尾をまじまじ観察し、現実だと認識し狼へ尋ねた。
「黒魔術をかけられちまったんだ」
「く、黒魔術!?」
「ああ、実はな―――」
耳と尻尾以外は至って普段通りの狼が、つらつらと話し始めた所によると。
今回の容疑者はカルト教団を隠れ蓑にした一味で、その中に黒魔術師がいたらしい。犯人達を追い詰め、次々確保していった時、最後の悪足掻きか隙を作ろうと思ったのか黒魔術師は人を獣に変える呪いを放ち、人質を庇った狼にジャストミートしたのである。
「世の中には色んな奴がいるよな。面白いぜ」
「いやいや、面白がってる場合じゃありませんって! それ、治るんですか?」
21世紀に突入し。IT全盛期でどんどん近未来化していても、狼の言う通り世の中には解明されていない不可思議な事は山程ある。身近に霊能力者がいる成歩堂はオカルトチックな事に耐性があり、驚きはしても超常現象を受け入れられる。
しかし、オカルトに理解がない人の方が大多数なのだ。犬耳と尻尾を生やした捜査官なんて、前代未聞。『外』に知られたら、スキャンダルの的。最悪、仕事を続けられない可能性だって出てくるだろう。
興味深げに新しく生えた耳を掻いている狼へ、成歩堂はのんびりしている場合ではないと真剣な表情で詰め寄った。