大切にされているのは嬉しいし、温かい気持ちが湧いてくる。障害の多い関係でも頑張って続けていこうと、前向きになれる。
でも。
一方的な、守ってもらうばかりの間柄は嫌だ。
成歩堂だって男だから、恭介を守りたい。せめて、心だけでも。
「・・・悪かった。バンビーナが正しい」
聡い恭介は、短い言葉ととんでもない行動だけでも成歩堂の想いを理解したらしく、眦を和らげて成歩堂の肩を抱いた。
それへ笑い返した―――のが、最後の記憶。
成歩堂が一気呑みしたのは、テキーラの中でも極めつけにアルコール度数が高く、鬼殺しならぬ熊殺しと言われるもの。猛者達の呑み比べ勝負に使われる位強い酒を、発泡酒で良い心持ちになれる成歩堂がショットグラスとはいえ思い切り呷ればひっくり返るのも当然。
倒れた成歩堂は、恭介の家に運ばれたらしい。ズキズキ痛む頭と、重い四肢と、ムカつく胸の三拍子を抱えて目覚めた成歩堂の視界に映ったのは、最近見覚えた天井だったから。
「お、気が付いたか」
「・・・・・恭介、さん・・」
ギシリとベッドが撓み、テンガロンハットを脱いだ恭介が覗き込んでくる。それに対して、成歩堂は呻くような微かな音量で答えた。
「あの酒は、バンビーナには少し早かったみたいだな。心配するな、すぐ治る」
酷い二日酔いにカカル事は予測できていたのか、恭介はトンガリを優しく撫でるとベッドヘッドから緑色の小瓶を取り上げた。
「テキサスのカウボーイに伝わる、効能バッチリの秘薬だ。―――すごく、不味いが」
「へ? んっ!? ッッ〜〜*!$#?!!!」
第一印象は『毒薬』『劇薬』をイメージさせるそのビンをまじまじと見ていた為に不穏な単語を聞き逃してしまった成歩堂が、数秒後、意味不明な叫びを上げる。
尤も、薬を口移しした恭介の唇が深く重なっているので、驚愕や抗議や悲鳴や煩悶やその他諸々は殆ど封じ込められ。限界まで見開かれた双眸とジタバタ痙攣する身体が、衝撃の凄まじさを代弁していた。
「・・・む・・っ、ん・・ぅ・・」
脳天を貫く味覚は、喉を滑り落ちても強烈に口腔内を支配していたが。口直しのつもりなのか気を逸らす目的なのか、やたらと長くて濃厚なキスの間に段々薄れ始め。それと共に頭痛や吐き気もすうっと消えていき、残ったのは酸欠の息苦しさだけだった。
「・・ふ、ァ・・・」
最後に今一度隅々まで舌を這わせて渋みではなく甘みを与え、ゆったり口唇を離した恭介は顔中に口付けながら成歩堂の容態をチェックし。顔色もビリジアンを脱した事を見て取ると、改めて成歩堂の上へ覆い被さった。
「・・・え?」
堅くて、重くて、それから熱い肢体にのし掛かられた成歩堂は。延々続いたベーゼで飛んで行ってしまった思考が戻ってくるまで時間がかかり。
「ぇえっ!?」
戻ってきた時には、シャツのボタンは全開。スラックスのジッパーも全開。恭介の片手は胸に。もう片方は下半身を弄っているという退っ引きならない事態に陥っていた。
「ち、ちょっと待って下さいっ」
「却下、だ」
焦って胸板へ両手を突っ撥ねるも、どれだけ力の差があるのかビクともしない。それ所か首筋から顎先をねっとり舐め上げられ、成歩堂の方がビクつく始末。
「なぁ、バンビーナ」
成歩堂の抵抗と反応にますます劣情の雰囲気を深め、隈無く手を這わせつつ囁きかける恭介。
「本当に、俺が間違ってた」
「へ・・? っ、あ・・ッ」
ともすればあちこちで生じる悦楽に引き摺られそうになる成歩堂が、懸命に恭介を見遣れば。
「荒れた魂を癒すのはテキサススピリッツじゃなくて、恋人の柔肌だな」
この上なく晴れ晴れとした表情で、嬉しそうに楽しそうに宣い。
次の日、成歩堂は二日酔い以外の理由により、ベッドの住人と化した。