「恭介さん・・」
微かに上擦る声が、張り詰めた雰囲気と―――何らかの決意を伝える。
「ええと・・この間は、いい年してガキっぽい反応しちゃってすみません。緊張しすぎて、すごく失礼な事をしました」
成歩堂の話は、謝罪から始まった。
ぽかん、と間抜けに口を開けた恭介を、誰が笑えよう。いや、ゴドー辺りは呼吸困難に陥る程笑うに違いない。悪友には絶対話さないから、どうでもいいが。
引かれた、と思っていた。最悪、恭介との付き合いを考え直しているかもしれないと後ろ向きになった。
まさか成歩堂が、成歩堂の方が後悔しているなんて。
「バカみたいだと自分でも思うんですが、恭介さんが近くにいるとどうしても動揺するんです」
怖がっていたのではなく、緊張からくる過剰反応だったなんて。
まじまじと凝視すれば、見る見る内に頬や目尻に朱が昇ってくる。指が白くなるまで丸まった手に、力の入った手とは逆にへにょんと垂れ下がった眉に口付けたい衝動がムクムク沸いてくる。
成歩堂が、ちゃんと恋愛的に恭介を意識してくれたと判明したからには、恭介の殊勝な遠慮は用済みだ。恭介は、全身に広がる悦びと共に、狩りモードへ移行していった。
だが、成歩堂の『ターン』はまだ続きがあった。
「で、でも、落ち着くように努力しますし! 恭介さんが嫌じゃなければ・・・キ・・・とか色々、したいです!」
ソファに腰掛けているのに。眩暈を起こしてふらつく恭介。
何だ、この逮捕して誰の目もつかない所に投獄したい位、犯罪級の可愛さは。
プルプルっぷりは。
健気さは。
微妙な、潔さは。
「っ!」
感動すらしていた恭介に、トドメの攻撃。
おそらく頬を狙ったと思われるが、勢いがつきすぎたのと目を瞑っていた為に、成歩堂の唇は顎髭へぶつかった。
「うう・・」
ばっと離れた成歩堂も感触で失敗した事を悟ったのか、他に赤くなる部分が残っていない位、紅潮して居たたまれなさそうに呻く。成歩堂の性格からして先の行動が精一杯で、リトライは出来ないだろう。
しかし、二度、成歩堂が勇気を振り絞る必要はない。顎への口付けでも成歩堂からのアプローチは後ろ足でのキックに等しく。頭が、魂が、激しく揺さぶられた。
「・・・マグナムを脳天に喰らったみたいだぜ」
「ええ? それって即死なんじゃ・・うわっ!」
とんでもない比喩に一転青ざめた成歩堂を抱き寄せ、頬を両手で包み、舌を思い切り差し込んだディープキスで真意を表す。
即ち、何もかも吹っ飛んだ、と。
「ふ・・ぅ・・っ」
突然の事で無防備なまま在った花弁の根本から恭介のソレを絡ませ、蜜液と共にじゅっと吸う。驚いたのと少々の痛みで大きく揺れる肢体は腕で絡み取って抵抗できなくさせ、まずは花弁を集中的に舐る。
「・・っ、んッ・・」
強く嬲られる刺激が痛みからジンとする痺れに変わった頃、肉片での探求は歯列や口蓋や頬の内側まで念入りに行われた。
流石にファーストキスではない筈なのに、鼻で呼吸することすら忘れている成歩堂の為、時折接吻の角度をチェンジして唇を解放するが、勿論息継ぎの短い間だけ。制止の言葉は、綴られる前に悉く成歩堂と恭介の口腔へ消えた。
「ん、ん・・ッ・・」
それ自体が意志と欲を持っているかのごとく縦横無尽に、淫らに、隅々まで暴れ回る舌と。成歩堂と解け合わんばかりに、きつく、柔らかく重なる唇。
恭介から成歩堂に贈られた、初めてのキスは。
成歩堂の羞恥や照れや躊躇いなども吹っ飛ばす、強烈なものだった。
「ん〜〜・・む、ぅ、ふ・・!」
途中から瞼を閉じ、ぐったりと恭介に凭れかかっていた成歩堂だが。力強い手が双丘を鷲掴みにしただけでなく、指が食い込む程揉みしだき。いつしか、シャツのボタンは全開で。今まさにベルトが外されかかっている事を知ってぱっと目を見開き、何事かを訴えてきた。
潤んだ黒瞳が、焦りと危機感を浮かべている。進行のスピードが幾ら何でも速すぎると言いたいに違いない。
しかし、もう、手遅れ。
文字通り、拍車を掛けたのは成歩堂。躊躇という柵を跳び越えてしまったら、最早抑制の手綱は効力を失う。
たとえ、嫌われたって怖がられたって。
この腕から解放するのは絶対、無理。
ならば、持てるもの全てで成歩堂を籠絡して、虜にして、同じだけ惚れさせて、マイナス要素を払拭するしか方法はない。
『バンビーナを、捕まえるぜ』
恭介は言葉で告げる代わりに、己の口腔内で味わっていた成歩堂の舌を、やんわり噛んだ。