「エロ親父っていうより、変態っぽいですよ?」
「何ぃっ!?」
ちょっとした意趣返しで口にした台詞は、しかし予想外のダメージを与えたらしい。
ガバッと半身を起こしたゴドーのゴーグルから、ブスブスと白煙が立ち上る。
成歩堂にしてみれば、『エロ親父』と『変態』の差は、『スケベ』と『いやらしい』位だとの認識だったが。
ゴドーの衝撃を見るだに、『おあずけ』と『1ヶ月禁欲』位に、越えられない何かがあるらしい。
しょんぼり肩を落とし、しおらしい声で
「――こんなオレは、嫌かい…?」
と聞いてくる。
「ゴ、ゴドーさん?」
未だかつて見た事のない姿に、成歩堂も重い身体をおして起き上がった。
「アンタより7も年上の、ジジイだし」
『僕が年の事を言うと、すぐ珈琲を奢るくせに』
「ごついゴーグルなしじゃあ、まともに歩く事すらできねぇ」
『ゴーグルの事、気にしてたんだ……』
「ポンコツの身体になっちまったから、小手先のテクニックしか使えねぇ。コネコちゃんには、さぞかし物足りない思いをさせてるんだろうな」
『充分、満足してます!っていうか、アレで小手先?!健康体のゴドーさんは、どんだけ絶倫だったんだ?!(汗)』
突っ込みたくてウズウズしたが、雰囲気的に控えた方が良さそうだったので、心の中だけで呟く成歩堂。
いつも自信たっぷりで、成歩堂を好きなだけ良いように振り回し、大人の余裕を見せつけるゴドーだから、そんな風に考えているとは一度も想像した事がなかった。
だが、愛しい人が自分にだけ弱い部分を、素を晒してくれるのは嬉しいと思いこそすれ、嫌になる筈がない。
だから、成歩堂は素直に自分の気持ちを伝えた。
「僕は、どんなゴドーさんでも好きですよ。嫌いになんて、なりません」
身体ごとそっぽを向いているゴドーの背中を、そっと抱き締める。
廻された成歩堂の手を強く握り、ゴドーはやや力ない声のまま、尋ねた。
「こんなオレでも、構わないのかい?」
「不満はありませんって」
「このままのオレで、いいのかい?」
俯いて、いかにも不安そうに確認してくるゴドーを『可愛い』とすら思い始めた成歩堂であったが。
ゴドーは『イイ』性格をしていても、決して『可愛い』性格ではなかった。
そんな根本的な事をうっかり失念した成歩堂は、ほわほわした気分のまま、頷いてしまった。
「勿論です――あぁっ?! ち、ちょっと待ったぁ!」
「却下」
途中でゴドーの仕掛けた罠に気付いたが、時既に遅し。
1秒後にはシーツの上へ転がされ、してやったりの笑みを浮かべたゴドーにがっちりホールドされていた。
「コネコちゃんもイヤイヤ言いながら、満更でもなかったって事かい。なら、これからも頑張っちゃうぜ!」
「あっ、都合の良いように…んっ…と、取らないで…っく……!」
伸ばされるエロい腕から逃れようとジタバタするが、疲れ切って、しかも絶頂の余韻を色濃く引き摺っている身体では抵抗なんてできる訳がない。
「ゴド…さ、の…バカ…ぁ…」
精一杯の非難をしてみても。
双眸は早くも潤み、肌はしっとりと露を帯び、緋色の布をもがく度するすると身体に滑らせているのでは、『誘ってんのかい?コネコちゃん』位に逆効果だ。
成歩堂だけが意識しない、壮絶な媚態を目の当たりにしたゴドーの動きが、一瞬止まる。
珍しく『待った』を聞き入れてくれるのかと、一縷の望みを抱いておずおずと見上げた成歩堂だったが。
成歩堂にとって残念な事に。
それはゴドーのスイッチが入って、本気モードへ移行する際の、短すぎるインターバルだったらしい。
「脱ぎな、まるほどう」
「え……?」
艶を増した声で命令され、そんな場合でないと承知していながら背筋を甘い痺れが這い上ってくるのを止められない。
そして、ゴドーの要求も止まらない。
「こんな無粋なモンは、さっさと取り払っちまいな。オレはアンタと、素肌で抱き合いたいんだ」
汗を吸って固くなった腰紐の結び目をもどかしげに解き、肌に擦れて熱を感じる程の勢いで成歩堂の身体から引き剥がす。
「〜〜〜〜〜っ!」
『「最後の一枚を、脱げそうで脱がさないのが風情ってモンだぜ」とほざいたのは、アンタだろ?!』と成歩堂は突っ込みたかった。
それはもう、切実に。
しかしゴドーは俺様宣言をした直後、成歩堂にディープキスしており、異議を申し立てる所か呼吸確保を優先せざるを得ない事態に追い込まれた身では、如何ともできなかった。
翌日、(翌朝、ではない)成歩堂に抗議するだけの気力が残っているかどうかは、エロ親父次第である。