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2:吉原に行こう!




「最近のゴドーさん、ちょっとエロ親父すぎませんか…?」
 やっとの事で整いつつある呼吸の下、成歩堂がやや恨みがましい眼差しを隣に横たわる男へ投げ掛けた。
「クッ…オレは男のロマンを追求しているだけだぜ?」
 応えるゴドーはいかにも満ち足りて、情事の後の気怠い色香をバシバシ発散させている。
 7つ年上で。
 毒に侵されて生死の縁を彷徨った身体なのに、この精力絶倫さはどうだ。
 一体、どこから来るのか。
 エロ親父パワーか?
「男のロマンで済む範疇を、超えてます」
 成歩堂の脳裏を過ぎるのは――本当は忘却の河に葬り去りたいのだが――『男のロマン』と称してゴドーにイタされた、ノーマルとは言い難いプレイの数々。
 裸エプロン。
 泡風呂。
 吐麗美庵の制服でのウェイトレス。
 ネコ耳。
 ナース服。
 男体盛りに、わか――(以下、自主規制)
 ちなみに今夜は、朱色の長襦袢を纏ったままでの『吉原ごっこ』。
 赤の見えないゴドーだから、普通の白襦袢だっていい筈なのに、
「朱でない長襦袢なんて、インスタントコーヒーと同じ位邪道なのさ!」
 などと、理不尽な一喝を奢られてしまった。
 そして。
 越後屋ですか、と突っ込みそうになるねちっこい触り方に。
 恥ずかしがる成歩堂を(余分に用意してあった)正絹の紐で四肢を拘束して、悪代官みたいな鬼畜な弄び方をして。
 ゴドーが開けさせ、捲り、腰紐でようやく肌に絡みついている状態にしておきながら。
「そんな婀娜っぽい格好をするとは、まだ物足りなかったのかい?」
 と、成歩堂に気力があれば盛大に異議を唱えていた台詞を平然と吐く。



 ――身体を重ねるようになって、半年を過ぎた辺りから。
 ゴドーの閨は少しずつ、変化してきた。
 初めは晩熟な成歩堂を気遣って、ただただ優しく甘く。
 成歩堂が心からゴドーに委ねるまで辛抱強く待って、導いて、満たして。
 それが、成歩堂の反応を逐一言葉で表現して羞恥を煽るのから始まって。(言葉攻め)
 どうしたいのか、何をして欲しいのか成歩堂から求めるまではリアクションをしなくなったり。(焦らし&放置プレイ)
 その過程で後が残らない程度だが、拘束したり。(ソフトSM)
 妖しげなローションとか筆だの羽根だのを、持ち出してみたり。(小道具プレイ)
 最近のブームはコスプレらしく、いつの間にか家のあちこちに用意されているコスチュームの数々に、成歩堂はとてもではないが入手経路を聞けないでいる。
 当然行為の濃度も深くなる一方で、以前は一度か二度成歩堂が達すれば後は二人でどっぷりと甘い余韻に浸って夜を過ごしていたのに。
 何度極めても許されず、もう精液すら枯れ果てても更に昇り詰めさせられ、ドライエクスタシーなるものを体験させられたり。
 男の身体でありながら、『悦すぎて』失神してしまう回数も増えてきた。
 これらの変異は緩やかなものだったから、成歩堂がゴドーの要求に驚いて拒否するという事はなかったものの。
 狂乱の夜が過ぎてまともな思考が戻れば、成歩堂とて首を捻らざるを得ない。
 男同士でこんな事を思うのもおかしいが、身体だけが目当てなのかと悩む時期もあった。
 ゴドー本位の、ゴドーの性癖に無理矢理付き合わせているだけなのだと、ちらとでも匂ったら成歩堂とて対処の仕方があったかもしれない。
 だが、よくよく動向を観察してみれば、思い込みではなく成歩堂相手だからエロモードに入るとの結論しか導き出せなかった。
 ゴドーがただの好色漢でない証に、日常においてどんなに肉感的な美女と出会おうと、そして男女問わず熱烈なアプローチをかけられてもスルーしてしまう。
 挙げ句、
「オレは、コネコちゃんのフェロモンにしか発情しない体質になっちまったのさ」
 と成歩堂だけに向ける、熱の籠もった眼差しで貞節を誓う。
 また、成歩堂が晩熟で物足りなくなったのとは違うと判断できるのは、エロ親父モードになるのが休前日や連休の時に限られていたから。
 成歩堂が本当に嫌がる事、例えば本格的なSMだとかス○○○だとか、露出プレイなどは仕掛けてこない。
 大切にされているのは、疑いの余地がなかったが。
 柔らかくもない、凹凸の少ない、ゴドーの愛撫に翻弄されるだけで何の技巧(!)も持たない自分に何故ゴドーがこれ程まで萌えるのか、納得いく解答は得られていない。
 ただ。
 理由が分からなくとも、イマイチ据わりが悪い状態でも、心底求められている事は成歩堂にも伝わってくるから。
 実の所、『男のロマン』に付き合うのが嫌、という訳ではないのだ。
 しかしただでさえゴドー優勢の『夜』なのに、そんな素直な気持ちを吐露してしまっては余計ゴドーが図に乗りかねないので、言葉でも態度でも漏らさないように心掛けている。
 また、今夜のエロ度はかなり高かったから(すごく恥ずかしかったのだ!)、牽制のつもりもあって冒頭の会話に(やっと)繋がるのである。