go to シリーズ

電車でGO!:2




「先、浴びて下さいよ。待ってますから」
「クッ・・それじゃあ、何の意味もないのさ!」
 ゴドーを押し退けて出ようとした成歩堂を捕まえ。ゴドーはシャワーのコックを捻った。
 ザァァ、と列車の施設と侮れない水圧でお湯が二人の頭上から降り注ぐ。
「わ、ぷ・・っ!」
 直接顔にあたる水滴を避けようと、成歩堂の気がそれたのを見計らい。
「ん、く・・っ・・」
 ゴドーは口吻を塞ぐと共に、大きな手で成歩堂の分身と己のそれを包み、摩擦し出した。そして残る片手には持ってきたジェルのボトルを傾けてたっぷりと中身を垂らし、円やかな双丘の狭間へ忍ばせる。 
 先程まで嬲られていた窄まりは入り口を越えてしまえば、柔らかく蕩けてゴドーの指を嬉しそうに迎えた。絡みつく肉襞の熱さと蠢きに、ゴドーは頃合いを悟り。
「まーる、コネコちゃん、ナルナル」
 呪文のように囁きつつ成歩堂の上半身を壁に寄りかからせ、右足の膝裏へ腕を廻した。
「だ、から・・ヘンな呼び方・・し、な・・ァ・・」
 困ったような笑い出しそうな顔へわざと派手な音をたてて接吻し、くすくす笑って息を吐いた瞬間を狙い、下から上へとゴドーの楔を捻り込む。
「ッ、ぁ・・く!」
 片足一本という不安定さも相俟って強張る成歩堂の耳へ、ゴドーが再度囁いた。
「まんまる、まるほどう、まるまるなコネコちゃん」
「ぷ、ァ・・んん・・」
 妙な節までつけているのでおかしくて堪らず、緊張を解して成歩堂の内へ入る為の策だと承知していても、笑いが漏れてしまう。
 可愛らしいとさえ言える宥め方とは正反対に、可愛らしさの欠片もないゴドーの肉棒はズグ、ズグ、と無情に侵攻し。
 そしてあろう事か、ゴドーは残る片足の方も腕力に飽かせて持ち上げてしまったのである。
「や、ぁ、ァっっ!」
 成歩堂は、ここが憚りなく声を上げられる家ではない事も忘れて、高く叫んだ。
 己を支えるものが己以外しかないのはひどく心細いし、全体重の負荷がゴドーとの接触部分にかかっているが故に、限界を越えてゴドー自身を呑み込まなくてはならない。
「まーる。お願いだから、喰い千切らないでくれよ? スペアはねぇんだからな」
「くっ・・は、ふ・・」
 少々不安げに懇願するものだから、ふっ、と鋭く息が抜ける。最奥まで到達したままじっとしている事もあって、成歩堂が追いついてくるのを辛抱強く待ってくれているのかと成歩堂は好意的に解釈したが。
 ゴドーの思惑は、それだけに収まらない。
 ガタン!
「ッく!」
 ゴトン、ガタン!
「〜〜ァ、ぅ・・」
 列車がレールの継ぎ目やカーブに差し掛かったりすると大きく揺れ、その振動はダイレクトにゴドーと成歩堂をも揺らし。
 つまり、ゴドーが動かなくとも、成歩堂の肉襞は定期的にも不規則にも蹂躙されるのだ。
 これか!、とゴドーの目論見を悟った成歩堂だが。
 その推察は半分当たりで、半分外れだったりする。
 当たりの部分は、ゴドーが非常に人の悪い笑みを満面に浮かべながら、種明かしした。
「どうだい?コネコちゃん。―――電車で、駅弁。醍醐味だろう?」
 成歩堂は。
 数秒間、意味が分からなかった。
 駅弁なんて、食べてないのに、と。
「ぁ・・ぁ、あ・・」
 それから、ゴドーに取らされている体勢が、所謂駅弁スタイルと称されるものである事に思い至る。
 刹那、ぼわっと全身余す所なく、熱く赤くなる。
「こ、こんの、エロ親父! 何を考えてるんだ! 今すぐ降ろして下さいっっ」
 バシリと厚い胸板を叩くが、そんなコネコパンチが通用する訳もない。それ所か、ジタバタと藻掻く振動がみなゴドーの怒張に伝播して極上の感覚を齎しているらしく、双眸が愉悦に細められる。
 ゴーグルがない所為で、いつもは隠されているゴドーの表情は成歩堂の視界に詳らかになり。
 あまりの淫猥さに、思わず成歩堂は固まった。
「俺の頭ん中は、まるで埋め尽くされてるのさ・・」
 獣の笑みを張り付けた唇が近付いて、ゆるりと成歩堂の戦慄くそれを啄む。
「そしてコネコちゃんの願いは、叶える。それが俺のルールだぜ!」
 成歩堂の体重など感じていないかのように、易々と屹立が抜け出る寸前まで持ち上げ―――一気に『降ろす』。
「〜〜〜〜っァァっ!」
 エロい事をするな、という願いは一度たりとも叶えてくれた例がないじゃないか!?と、真っ白に灼けた脳裏で成歩堂はツッコんだけれど。
 喉から迸ったのは、ヒリついた嬌声だけで。ゴドーを罵りたい気持ちとは裏腹に首へ囓り付き、両脚を逞しい腰に巻き付けた。
 そこから、ゴドーの律動は止まらず。呵責なく秘扉を裂いては、粘膜を爛れるまで擦りたてた。
「・・ぁ、ひ・・っく、ぅ・・ん・・っ・・」
 このまま法悦の灼熱に何もかも灼かれるのかと覚悟した成歩堂に対して、しかしゴドーは今一つ、策を仕掛けていた。
「まる。壁にある、デジタル表示が見えるかィ?」
「・・・っ・・」
 だいぶ霞みがかっていたが、それでも成歩堂は素直に懸命に目を凝らした。ゴドーの言う通り、シャワー室の壁に数字がデジタル表示されている。
「数字は幾つになってる?」
「・・さ、ん・・っ・・」
「ふぅん。あと3分か」
 成歩堂の答えを聞いたゴドーは、再び撹拌を中断する。
「お湯が出るのは、6分間だけでな。3分以内にイかないと、イロんなモノは洗い流せなくなるから注意しろよ?コネコちゃん」
「!?」
 成歩堂の目が、大きく見開かれる。
「ああ、でも安心していいぜ。もしタイムアウトになっても、俺が全部舐め取ってやるから、な」
「〜〜〜っ!」
 甘やかすような、落ち着かせるような声音だったが。それで成歩堂が安心できる筈はない。逆効果だ。
 この先を暗示するかのごとく、ゴドーが長い舌を出して暗示的にねっとりと唇を舐めるものだから。成歩堂は、全身を粟立たせた。
 ゴドーは平然と、いや嬉々として実行するだろう。成歩堂が嫌がっても、頼んでも、隅から隅までその舌と唇を駆使して成歩堂の身体を拭い清めてくれる筈。
 それが想起できるからこそ、実現されたくはなかった。羞恥と行き過ぎた悦楽に、気を失いかねない。
「や・・や、で・・す・・ぅ・・っ」
 あと3分なんて、絶望的だ。ただでさえ、ゴドーは遅漏気味なのに。いや、それは正確ではない。ゴドーは、己の射精をかなりの精度でコントロールできるのだ。
 成歩堂を弄ぶ為なら、3分位軽く我慢してしまえる。
「クッ・・まるの、努力次第さ」
 柔らかな頬を伝わった滴を舌で掬い取って味わい、必死で頭を振る成歩堂をゴドーが諭す。そして、焦りだけを募らせるような速度で腰をグラインドさせ始めたので。
 成歩堂はありとあらゆる罵詈雑言を口内で唱えつつ。
 何とか3分というタイムリミットに間に合わせるべく、辿々しくも自分から下腹部を畝らせたのである。





 そんな成歩堂が。
 料金(正しくはシャワー専用カード)を追加すれば済む話だと。
 もしくは、お湯の出るのが6分間であって、お湯を止めてしまえば少なくとも時間制限はなくなると。
 己の翻弄されっぷりとゴドーの悪辣さに気付いたのは。
 札幌に着き、成歩堂の好物ばかりを食べ、北海道限定の成歩堂が食べたかったお土産を山程買い込んで帰途についた、飛行機の中だった。
 一つロジックが見つかれば。
 帰りは、ファーストクラスの最前列という金にあかせた座席をあっさり確保してしまえるゴドーが。
 シャワールームも完備されたカシオペアスイートではなく、ただのツインを選んだ理由は、単に取れなかったのではなく、取らなかったのだという事も考えつく。
 尤も、今更判明した所で成歩堂には溜息をつくしか術は残されていないのも、全き事実。