「まるほどう。アンタ、寝台列車に乗った事はあるのかィ?」
ゴドーの一言が騒動の発端になるのは、最早お約束で。散々口には出して言えない目にあった為、最近は成歩堂も『うっかり』を減らすように心掛けている。
だが夕食後、たまたまTVで放映していた、列車を利用しての旅行番組を見ながらの発言だったので、警戒もせず答えてしまった。
「いいえ。長距離列車は、新幹線どまりですねー」
インドア派弁護士らしい答えに。ゴドーはゴーグルの中でニヤリと眼を眇め。
「ふぅん」
しかし相槌は軽く、あくまでただの何気ない会話を装った。
というより。
「ならコネコちゃんは、夢の超特急に乗せちゃうぜ!」
「は? え? ちょっ、ゴドーさん、どいて・・っ! 乗るなーっっ!」
ガバリと成歩堂にのし掛かり、それまでの会話の記憶を、コネコでは到底止められない暴走列車で弾き飛ばしてしまったのである。
金曜の夜。
ゴドーは夕食に、上野駅近くのダイニングバーをチョイスした。ゴドーオススメの店はあちこちに点在しているから、立地条件に不審は抱く要素はなかった。
成歩堂の酒量を完璧に把握しているゴドーによって、微酔いより数段進んだ状態に持ち込まれ。店を出た後も、いつもならタクシーに乗るのに駅の改札へ導かれた時も、『電車で帰るんだなぁ』とぼんやり思っただけだった。
「ん? あれ? ここって・・」
ようやく成歩堂が違和感を覚えたのは、乗り込んだ車内が、慣れ親しんだ山手線と似ても似つかないと認知した時。
「ほら、通行の邪魔だろう? まるほどう、早く歩きな」
「え? でも、ゴドーさん・・」
振り返って尋ねようにも、ゴドーの背後に人がいるのを見てしまえば促されるまま先へ進むしか術がない。
「そこだ。階段を降りろ」
「いやいや、ですから・・」
扉の番号を確かめたゴドーが、それこそコネコを抓むように襟足に手を添え、軌道を変える。成歩堂の戸惑いも頓着しないままコンパートメントの扉を開けて中へ押し込んだ。
「寝台、車?」
2台設置されたベッドや、簡易洗面台などがある部屋の造りを見、備品に書かれたロゴを読みとった成歩堂が、正解に辿り着く。が、ロジックを導き出しても、今回ばかりは事態の打開には結びつかなかった。
「カシ、オペア・・って、北海道行きじゃないですか? は、早く出ましょうよ!」
そうは見えないけれど、ゴドーも酔っぱらっていて電車を間違えたのかと、酔いが少し醒める。しかし、そんなヘマをゴドーはしない。
「出なくていいんだぜ、コネコちゃん。今夜はここにお泊まりさ」
「ぅぇえっ!?」
成歩堂がキョロキョロしている間に施錠し、持っていた小振りのボストンバックを荷物台へ置いたゴドーは。
ゴーグルを、細い銀縁の眼鏡に取り替え。成歩堂の上着を剥いてきちんとハンガーに掛けると、カーテンを閉めながら徐に成歩堂を既にメイキング済みのベッドへ放り投げた。
「んんっ!?」
驚いた成歩堂が抗議するより早く、戸惑いも疑問も異議も全て吹っ飛んでしまうレベルMaxのディープキスを仕掛ける。アルコールで理性が鈍っている事もあって、成歩堂はいともあっさりエロ親父の手中に堕ちた。
「ん、ぅ・・っ」
項をしっかり押さえているのとは別の手でスラックスからシャツを引き出し、熱を帯びた肌を満遍なく撫で、幾つもある性感帯を辿り官能の焔を灯していく。
ガタン、ゴトン、と独特の音と揺れがベッドを通して伝わり、列車がホームを離れた事を教えたが、花弁をゴドーに貪られている成歩堂は全く気付いていない。
「・・く・・ふ・・ァ・」
技巧に長けた指が胸の突起を転がせば、僅かに残っていた抗いも儚く溶ける。おずおずと肩口を握る成歩堂の指を感じて、ゴドーは口付けながらもニッと嗤った。押さえる必要のなくなった手を下腹部へ移動させ、緩く勃ち上がり始めたコネコを弄ぶ。
「寝台列車の醍醐味、まるに教えちゃうぜ!」
ほんの一瞬だけ唇を離し、そう囁くと本格的に愛撫を施し始めた。
けれど、何故か服を脱がせる事はしなかった。シャツのボタンは一つも外さず胸の所までたくし上げ、スラックスもファスナーを下げただけ。
ただ、そんな制限があってもゴドーの動きはまったく影響されず、楽々と後孔までも指を伸ばして成歩堂の身体を高めていった。
トントン―――
「おっと。車掌さんのお出ましだな」
「・・ゴ、ドー・・さ・・」
「イイ子にして、ちょいと待っててくれないかィ」
「は・・ぃ・・」
検札に車掌が訪れた時も、ベッドは入り口からは死角に位置しており、しかもちゃんとゴドーが毛布をかけてくれた事もあって羞恥に我に返る事なく、それどころか火照った身体を持て余して頻りにモゾモゾと動いていた。
愛撫の濃さから言うと、もう丸裸にされている頃なのに、ネクタイ以外はフル装備だ。この状態では過敏になった皮膚を悪戯に刺激するだけで、いっそ脱いでしまおうかとも考える。だが、そこまでは大胆にもなれず焦れていた所、ゴドーが戻ってきた。
「待たせたな、コネコちゃん。さ、行くぜ」
「は? え? ・・ヒ、ぁ・・っ」
今夜は疑問符ばかりだ、と頭の片隅で思いながらゴドーに起こされた成歩堂は、すっかり硬くなった雄芯をスラックスの中へ戻され、呻いた。ジッパーは閉まったが、布に擦れて正直痛い。
「少しだけ、我慢できるかィ?」
襟元へ顔を埋める成歩堂の背をゆったり撫でながら、しかしゴドーは成歩堂を立ち上がらせる。車掌と遣り取りし、戻ってくる僅かの間に用意したのか何か入っている袋を片手に持ち、もう片方でヨロヨロしている成歩堂を支え、部屋を出る。
扉にはキーパッドがあり、そこへ暗証番号を打ち込む事によって施錠できるようになっている。
「いつものにしちゃうぜ!」
「・・・バカですね」
ゴドーが使う暗証番号は、全部『7676』。覚えやすい上に忘れないだろうと使う度ゴドーはニヤつき、成歩堂は赤くなって突っ込む。
シャツと、スラックス。少し皺が寄っているが、外―――通路に出てもおかしくはない。熟れたリンゴのように真っ赤になっているが、夜も更けた寝台列車では、酔っぱらいの割合は高い。
服を着たままだったのは外へ出る予定があったからだと判明し、その予定も程なく明らかになった。
「シャワー室・・?」
「今時の寝台列車には、こんな設備もあるんだぜ。俺のコネコちゃんは、綺麗好きだからな。ニャンニャンする前に洗ってやらないと毛を逆立てるだろ?」
「は、恥ずかしい言い回しをしないで下さい! しかもコネコじゃないし!」
「しーっ、公共の場所だぜ。車掌さんに怒られる前に、入りな」
喚かせたのはゴドーなのに、しれっと咎めて素早くシャワー室へと引っ張り込む。
反論しかける都度、キスで唇を封じてゴドーは手際よく成歩堂と自分の衣類を剥がし、備え付けの棚へ放った。成歩堂がやっと突っ込めた時には、脱衣所からシャワールームへと移動した後で。
「あの・・どう見ても、定員オーバーなんですが・・」
「まると離れるなんてコト、却下しちゃうぜ!」
「いやいやいや、そういう問題では・・」
入り口の説明に定員一名と記載されていたが、一人が限界という造りな訳ではない。ゴドーと成歩堂、長身の二人が入っても、狭いながら動きはとれた。
しかし成歩堂の指摘通り、入れるからいいという問題とは違う。