魔法をかけて




 間に合ったら参加すると言っていた御剣の衣装がなかった為、魔女っ子の衣装を押し付けようとしたものの。
「局長さんは、普段からコスプレしてるのと変わりないからそのままでいいかなって」
「みぬき。とても素晴らしい意見だけど、御剣には内緒にしておこうね?」
 ダメ出しに等しいみぬきの言葉に、御剣へ同情してしまった成歩堂はそれ以上ツッコミを繰り出せないまま終わった。
【回想、終わり】

「それに、大元の原因はゴドーさんじゃないですか。あんなモノを見せるから・・」
 みぬきには言うつもりのない愚痴も、ゴドーには遠慮なくぶつける。気の置けない仲という事もあるが、みぬきが成歩堂を女装させようなんて思い付いたのは、ゴドーが隠し持っていた写真に端を発する。
 『そんなもの、僕にだって着られます!』
 若気の至りというか。売り言葉に買い言葉というか。かつて、法廷でうっかり言ってしまった台詞をゴドーは聞き逃さず。ウェイトレスの衣装を無理矢理、成歩堂に着せたのだ。
 その写真をゴドーが事もあろうにみぬきへ見せたから、もう大変。幸いにも『パパの変態!』と罵られはしなかったけれど。どういう訳か、『みぬきも、見てみたい〜。パパ、もう一度着て!」と熱烈に強請られてしまった。
 それ以降、ちょくちょく際疾い攻防が続き。今回、みぬきが粘り勝ちしたという次第で。
「コネコちゃんは、使い魔の黒猫になりたかったのかィ?」
 大概、騒動の黒幕であるゴドーを睨んでみても。ゴドーは口角に悪辣な笑みを浮かべるばかり。
「いやいやいや、もっと御免です!」
 ゴドーとのそのようなアレで、猫を模してはいても別次元の格好をさせられた黒歴史が脳裏を過ぎり。あんな破廉恥なコスプレをしたら今度こそみぬきの謗りは免れられないと、成歩堂が激しく頭を振る。
「なら、魔女のチャームで精々サービスしてやんな」
「サービスにもなりませんよ」
 閨での役割はどうあれ成歩堂には女装趣味はない為、観賞に耐えうる出来とは程遠く、提供できるのは笑い位ではなかろうか。成歩堂は、そう信じ込んでいた。
 一方、成歩堂のコスプレが一部の邪魔極まりない輩にとっては最高級のお菓子にも匹敵すると知っているゴドーは、敢えて誤解を正さず。加えて、厄介な事態に転がらないようにしっかり釘を刺しておいた。
「クッ・・お触りは厳禁って事、忘れるなよ」
「はい?」
「魔女っ子まるほどうに悪戯できるのは、俺だけだろう?」
「魔女っ子じゃありません・・」
 ゴドーの言いたい事を、全て理解した訳ではなかったが。最も重要な点は、しっかり伝わり。成歩堂はもそもそ身体を起こすと、軽くゴドーへキスを贈った。
 そして、一日早いハロウィンを二人きりで楽しむ事にした。




「まる。今夜は、魔女っ子よりインキュバスを演じないかィ?」
「却下ぁっ!」