「正直、お手上げです。何かリクエスト、ありませんか?」
考え始めて、三日。成歩堂はかもめ眉をへたらせ、ゴドーに尋ねた。
「クッ・・・お強請りモードのコネコちゃん、嫌いじゃないぜ!」
「もう今回限りは、コネコでいいですから。コイヌでも小童でも構いませんから。相談に乗って下さい」
いつもならお約束の『コネコじゃありません!』ツッコミを入れる場面だが、今は敢えてスルーする。ゴドーのからかいだって、甘んじてドーンと受けよう。それ位、成歩堂は成歩堂なりに真剣なのだ。
―――ゴドーと成歩堂なら、どちらが気が利くか? 成歩堂自身でさえ、ゴドーと答える。悔しいような情けないような気分になっても。
成歩堂だって、ゴドーといい加減に対峙している訳ではない。確かに蘊蓄コースへ突入すると遠い目をしてしまうけれど、未だにゴドーブレンドの区別は危ういけれど、付き合い始めに比べたら成長している(と思う)。
しかし、ゴドーと違って。何気ない会話の中や、ふと巡らせた視線や、小さな癖から『サイン』を読み取る事が苦手だった。
事件や裁判関係なら勘働きは悪くないのに、日常生活で全く発揮されないのは謎。ゴドーは四六時中鋭いアンテナを張り巡らして取り零す事がないのだから、能力の差か。経験値と努力が足りないのか。
秘かに、後者である事を願っている。
成歩堂の成長枠についての問題はひとまず置いておき、『サイン』が見付けられなくて何が困るかというと。
「プレゼント、どうしても思い付かないんですよ〜」
馬鹿馬鹿しくても、意外に重要な悩みである。
ゴドーはイベント好きで、平均すれば二ヶ月に一回のペースで成歩堂へ贈り物を寄越す。曲がり形にも恋愛関係にあるから、金額的にはかなりランクが落ちるけれど成歩堂も返礼は欠かさなかった。ゴドーが欲しいもの。興味があるもの。喜んでくれそうなものを見繕って。
ここで、ゴドーと成歩堂の差がでる。
ゴドーは成歩堂に何も聞かなくても、タイムリーなプレゼントをチョイスする。一方成歩堂は、毎回毎回頭を捻り、悩まし、ぐるぐるしていた。ゴドーをよく観察していても何が必要なのか、欲しいと思っているのかはイマイチ分からず。
特に崖っぷち弁護士には到底手が届かないレベルのモノは、いつの間にか増えていて。その後で、ようやく集めていたのだと気付く始末。そこに成歩堂のセンスが割り込む余地は、ない。というか、割り込む勇気はない。
無論、成歩堂の財政状況を把握しているゴドーから、それらを要求された事はない。嫉妬も起きない位のスマートさだ。
珈琲豆やお酒。ゴドーが気に入りそうな喫茶店やバーを探し出し。慣れない手作り料理にもトライしてみた。東奔西走する成歩堂を、ゴドーは口角をカーブさせて見守り。最後に、深みのある声で『ありがとうな、コネコちゃん』と言うのが常だった。
装飾のない礼が心に響いて、イベント毎に頑張ってきたが―――もう、限界。ネタが、尽きた。
故に恥を忍んで、プレゼントの相談をすれば。
「気持ちがこもってれば、イイんじゃないかィ?」
成歩堂の未熟さを指摘する事なく、大切なのは『モノ』ではないとフォローしてくれる。きっと、道端に咲いている花を渡したとしても、ゴドーは鷹揚に笑って受け取ってくれる筈。
「でも、やっぱりゴドーさんに喜んでほしいんですよ・・」