先手必勝:2






「ん……ぅ…っ!」
 引き込まれた舌をきつめに噛まれ、同時に成歩堂自身へ痛みを感じる一歩手前の匙加減で圧力がかけられて反射的に萎縮した身体は、一秒後、ふっと全ての強張りを解いた。
 弛緩具合から抵抗を諦めたのが伝わったのか、御剣の拘束がほんの少しだけ和らぐ。
「は、ぁ………今週末は、お前ん家に行こうと思ってたのに…」
 御剣の頬を両手で包んでゆっくり接吻を終わらせ、成歩堂は拗ねたような、やや咎めるような口調で呟いた。
 素直に陥落しないのが青い弁護士の常だけれど。
 双眸はすっかり潤み、兆した劣情をありありと浮かべて御剣を見上げ。掠れた声に、甘えた響きを含ませて。
 意地っ張りな所も嫌いではないし、ましてや恥じらいを匂わせつつも淫らに堕ちてくる恋人に溺れているといってもいい御剣は、これ以上拒絶したらお仕置きに前戯なしで突っ込んでやろうとの非道で鬼畜な考えを一先ず保留したようだった。
「そんな先まで、待っていられるか。酷くされたくないのなら、私を焦らすのも大概にしろ」
 言葉による警告が、その証拠。御剣がメーターを振り切った時は、警告もなしで無言のまま、成歩堂を無体に引き裂くのだから。
「痛いのは、やだって…」
 成歩堂の諦念を嗅ぎ取った途端、完全臨戦態勢になった昂ぶりをますます擦り付けられ、成歩堂は恐れ半分期待半分といった眼差しを投げ掛ける。
「それに…アレ、…ないよ…な?」
「そのようなアレで、私が止められると思うのか? 引き下がると思ったら大間違いだぞ、弁護人」
 未だに成歩堂が固有名詞を口に出せないのすら御剣の倒錯的な嗜虐を煽ったのか、ギラつく目付きにあった強さで喉元に噛み付いた。
「つぅっ…! だから、痛いのはやめろって言ってるだろ…」
 特徴的な眉を顰めた成歩堂は、二重の意味で苦言を呈した。
 前に執務室で御剣が暴走した際、何の準備もなかったし後始末も御剣の家に移動するまでできなかったという酷い目にあった成歩堂は、一ヶ月のハンストで執務室においては極力最後までしないとの謝罪を引き出していたのだが。
 『極力』は『絶対』ではなく、御剣も今回その抜け道を適用するつもりなのだろう。
 成歩堂は寄せた眉を、今度は困ったように下げ。
 右手を、二人の身体の隙間から下へ差し伸べた。
「な、成歩堂…っ?!」
 成歩堂の手が止まったのは、スラックスを押し上げている御剣の雄身で。そのまま形をなぞるかのごとく小刻みに蠢く。
「アレなしじゃ、キツイんだよ」
 自ら潤う構造になっていない身体は、潤滑剤などで濡らしてもらわなければ負担が大きい。けれど、今の御剣では前戯を求めたって聞き届けてくれる筈もない。
 成歩堂の思い掛けない行動に御剣が虚を突かれている間に体勢を入れ替えて、というよりソファから滑り降りて毛足の長い絨毯に跪く。
 ベルトを抜き取り。
 ボタンとジッパーを外して。
 紅い布を寛げ、下着の奥から戸惑いの残る手付きで熱く滾った御剣自身を取り出す。
「随分と積極的ではないか」
「背に腹は代えられないから、さ…」
 最初は驚いたものの、強要せずに成歩堂が自ら口淫するなんて事は初めてだったので、御剣が忽ち上機嫌になって成歩堂を揶揄してくる。上から見下ろされた成歩堂は、反対に不機嫌な表情をしたが。
 目の縁を朱くし。現れたモノの大きさと張りに唾を飲み込んだり唇を湿らせたりと、羞恥と昂揚が渾然と入り混じった色も滲ませている。
「…ぅ…っ…」
 最初から亀頭部分を暖かい粘膜に包まれ、御剣は背中全体を背もたれへ押し付けた。強烈な刺激に、からかいの言葉が続かない。
「…ん……っ、く…」
 成歩堂は喉奥深くまで咥えてみたが、とても根本に届かないから酷くスローペースで唇を離し、厭らしく光る銀色の糸を引きつつ改めて筋を浮き立たせた幹へと舌を這わした。
 広い面積を万遍なく濡らすにはコツがいるのだが、乾かす事なく充分な湿り気を与え、根本を両手で握ってリズミカルに擦り始める。それから再び膨張した肉棒を、口内へ迎え入れた。
「ふ…っ…んっ…ん…」
 わざと手のストロークとはばらばらに顔を上下させ、中では舌を忙しなく、時には粘着質に絡み付かせる。
 いつの間にか頭を鷲掴みにした御剣の指が、成歩堂の奉仕に併せて髪を掻き乱す。肩幅以上に広げられた太腿も脹ら脛にも必要以上の力が入っている事が、伝わる。
「やけに興が乗っているな、弁護人…っ」
「…ぁ……ふ…」
 誉めているつもりなのか、髪の毛を弄っていた手がゆるゆると動き。
 ディープスロート中の成歩堂は、御剣の何とも巫山戯た物言いに返事こそしなかったが。
 いっそ力任せに歯を立てて、しばらくの間使用不可能にしてやろうかという、物騒な衝動に駆られた。
 先刻、成歩堂は告げたではないか。
 『背に腹は代えられない』と。
                                          


…あれ? 黒ナルが最後にしか登場していない…