成歩堂サーチ




「直斗ちゃん。キミは北と南、どっちで泳ぎたいのかなぁ?」
 一般人には理解しかねるインテリアの局長室を訪れた直斗を出迎えたのは、巌徒のとってもニコヤカな笑顔と、すぐには理解できない、どちらかというと理解したくない台詞だった。
「北なら利尻島、南なら波照間島。駐在所の隅っこに、分室を作ってあげるよ?ボクは優しい上司だカラね」
「・・・・・」
 直斗の知識の中では、『優しい』という単語はこんな場合には使用しない。今にも一身上の都合(個人的感情)で、部下を分室すらないような離島に飛ばそうと目論む上司を形容するのには。
 しかも、目も唇も表情全体もきちんと『笑み』の形をしているけれど、そこから感じられるのが冷気しかない、とくれば。相応しいのは『優しい』ではなく『恐い』であろう。
 いつでも変わらないように見えて、様々な事を物語る笑顔を直斗は見分けられるから(逆に言えば、見分けられない者は淘汰されていつしか消えていってしまう)、危機を察知して頭をフル回転させた。仕事している時には見せない・やらない、真剣さで。

 ☆こっそり成歩堂を誘って、ディナーと洒落込んだ → 『ふぅん。そんなに暇なんだ』と案件を比喩でなく山積みにされ、優秀で有能で明晰な直斗が、2週間というもの検事局に泊まり込んだ。

 ☆成歩堂が探していた資料を先んじて手に入れ、素っ惚けて情報をリークし、成歩堂を執務室に呼んで何時間か二人っきりで楽しんだ。(お茶を) → 『日本はもっとペーパーレスにする必要があるよねぇ?』と、提出した書類は悉く行方不明。何故か警察局以外へ出した申請も全て却下になり、検事局長から大目玉を食った。

 ☆兄の恭介とゴドーと3人で、『バンビーナ』と『コネコちゃん』と『ベイビー』のどれで呼んで欲しいのか、成歩堂を取り囲んだ状態で熱い議論を交わした → 3人揃って、巴と響華と冥の前に並べさせられ、彼女達に懇々と説教された → あれは、かなり堪えた(汗)

「いやぁ、体脂肪率9%の格好いい胸に手をあてても、異動の理由が思い当たらないんですけど?」
 最近やらかした、可愛らしいお茶目はそれ位だし、不本意だがきっちり報復も受けた。
 滲み出て直斗の足元にまとわりつく瘴気は、赤ん坊なら痙攣を起こしかねないものだったが、日々鍛えられている直斗にとっては挨拶がわりのレベルで。女の子にやたらと受けの良い、爽やかな笑顔で真っ向から対峙する。
「最近、コンプライアンス遵守が煩くてね〜。セクハラはダメだよ?」
「セクハラ? 成歩堂くんにそんな事したら(したいけど)、今頃俺は懲戒免職の上、留置所行きでしょうに」
 『したいけど』と思った瞬間に、巌徒がビーム紛いの眼光を発したので、慌てて般若心経を諳んじる。日進月歩レベルアップしている直斗だが、同じく巖徒もどんどん人間離れしてきているから、一瞬たりとも気が抜けない。
「あれェ? 直斗ちゃんともあろう者が、そんな軽薄な嘘をつくの? 証拠は、あがってるんだよ」
「ぇええ? 俺は、軽薄とは一番かけ離れた所にいるんだけどなぁ」
「近すぎて見えないモノって、あるよねー。鉄の檻の中で、見つめ直してみるとイイんじゃない」
 取り調べた容疑者を片っ端から精神崩壊寸前にまで追いやる時のオーラが、出現している。直斗は他に何かやらかしたっけ?と記憶を総浚えしたが、やっぱり思いつかない。
 仕事に関してなら、あれやこれやそれもこれも心当たりはあるけれど、警察局長自ら糾弾するからには成歩堂絡みに違いない。(普通は反対だが)
 素で『何だ?』と考え込んでいる直斗に、数枚の写真が突き付けられる。
 それを一瞥した途端、直斗は光速で突っ込み返した。
「無罪っしょ!? 不可抗力だし、疚しいコトは(これに限って)ないし、当の成歩堂くんには感謝すらされたんですよ?!」
「ナルホドちゃんは、優しい仔だからねぇ・・。直斗ちゃんのヨコシマに目を瞑ってあげてるんだろうけど、ボクは見過ごさないカラ」
「ヨコシマな気持ちなんてゼンゼンなかったデスよーゼンイですヨー」
 またしても()内を読み取られ、流石の直斗も言い訳が棒読みになってしまう。
 『その瞬間』は、純粋な衝動だけだった。それは胸を張って断言できる。
 しかし『その後』に、別の衝動を覚えなかったかというと、それは胸を張って否定する。

 巌徒が証拠物件として提示した、数点の写真。
 防犯ビデオの映像をプリントアウトしたそれは、画素が荒かったものの。
 直斗が成歩堂を背中から抱きしめている様子が、バッチリクッキリ写し出されていたのである。