「えっ!?」
「えーっ!?」
しのぶと知潮の驚いた顔を見て、やはり破天荒すぎる事を言ってしまったと唇を噛み締める静矢。
初めて教材のDVDを鑑賞した時から、強い憧れを抱いて。成歩堂の資料を片っ端から集めて。現実として満点を取った事などなかったのに、成歩堂に関しては驚異的な記憶力を発揮して。
一度たりとも迷わず、弁護士コースを選択し。成歩堂のスタイルを目標に掲げ。学園祭に成歩堂が来訪すると知った時は、弓を折ってしまいかねない程に喜び。
そして先日実際に会ってみれば、成歩堂はあらゆる意味で静矢の世界を一転させた。
己の愚かさをようやく自覚した上で、今度は胸を張って進んでいけるよう努力すると誓ったまでは、美談にすらなる出来事だったのだが。
気が付くと、成歩堂の顔・声・仕草などを思い出し。その都度、胸がきゅうっと締め付けられ。身体は熱を帯び。訳もなく、成歩堂の名を叫びたくなってしまう。成歩堂に会いたくなる。敬慕と崇拝と感謝とが募って膨れ上がって、身体の中に収まりきれなくなったのかとも考えたものの。
ある夜、夢に成歩堂が出てきて。成人していなければ見てはいけない目眩く展開になり。朝、飛び起きた静矢は成歩堂へ向ける想いの正体を悟ったのである。
「年上だし、立派な弁護士だし、それに比べて僕はまだ高校も卒業できていないし、それ以前に正式な入学もしていないし・・釣り合わないのは分かっているんだが、好きなんだ」
ここに成歩堂がいたら、『まず第一に男同士だよね!?』とツッコんだだろうが、生憎この場にツッコミは不在だった。
幾ら静矢達の友情が厚くても、流石に軽蔑されるかもしれないと恐る恐るしのぶと知潮を窺えば―――。
「え?」
「えー?」
「今更、だよね」
「改まって言う必要ないじゃん。ば・か・だ・なv」
「―――は?」
静矢が覚悟していたのとは明後日の反応が、返ってきた。
どうやら、静矢の気持ちは静矢以外の者にとってバレバレだったらしい。最初に二人が驚いたのは、言わずもがなの事を静矢が真面目に言った為で。
「零くんが気にしなきゃいけないのは、そんな小さな事じゃないと思うよ」
「ち、小さい・・」
「周りはーっ、ライバルだらけだぞーっ」
「ラ、ライバル・・」
マイナーで険しい道だとか。世界の半分は女性だとか。恋に現を抜かす前に勉強しろだとか。静矢の大切な親友は、口にして当然の事は一切なし。
ちょっと個性的で、けれど誇れるものを持たない静矢が唯一、いやただ二つだけ全世界に自慢できるもの。
「ありがとう。しのぶと知潮がいてくれて、本当によかった」
「うんうん。まずは、成歩堂さんに覚えてもらう事から始めたらいいんじゃないかな。卒業までには、何とかなるよ」
「チャームポイントは、若さと一途さでv ほら、おバカなペット程可愛いって言うじゃ・な・いv」
「こ、心強いよ・・」
静矢は引き攣りつつも、新たな力を得て一歩を踏み出す事にした。
まずは、成歩堂へ手紙でも書いてみようと思い立ち。出だしが『かしこ』だったか『前略』だったか、熱心に考える静矢の恋が叶うかどうかについては。
『少年よ、大志をいだけ』という言葉しかない。