王泥喜は、万人受けする笑顔と持ち前のバイタリティであっという間に事務所のメンバーと友好を築くと思っていた葵が。
何故か酷く衝撃を受けた様子で成歩堂を凝視したまま固まっている事を、訝しく思った。
「葵? どうしたんだ?」
「ぐ、具合でも悪いのかな・・? とりあえず、座った方がいいね」
傍で見ている王泥喜でさえ不審に感じるのだから、真正面から焦げ付きそうな視線を注がれている当の成歩堂は戸惑い、心配になり、ソファへ誘おうと葵の肩へ触れた。
「ッ!」
途端、葵がビクリと反応し。それから、今までの硬直とは真逆の素早さで肩に乗せられた成歩堂の手を取った。
両手で。
とても高価なものでも捧げ持つかのごとくの、恭しさで。
目を、一層輝かせて。
そして、聞き間違える事がない明瞭な滑舌で言い放った。
「成歩堂さん。一目惚れしました。結婚を前提に付き合って下さい!」
「は?」
「葵ぃっッ!?」
「えええーっ」
「む・・みぬきの許可なく、何て事を!」
忽ち、事務所は大混乱。その中でも一番のパニックに陥った王泥喜は、慌てて葵を揺さぶった。
「じ、冗談でも行き過ぎだぞ! 成歩堂さんにも失礼だろ!?」
たとえ無理があっても葵流のジョークかサプライズだと信じたい王泥喜が問い質すも、
「ホースケ、流石俺の親友。よくぞ、運命の人に巡り会わせてくれた!」
「はぁぁっっ!?」
親指を立てていないのに(現在も成歩堂の手を握ったまま)『GJ!』とのメッセージが伝わってくるにこやかさで、追い打ちをかけられてしまう。
「パパが運命の人・・? 空耳、だよね」
「そうだよ、みぬきちゃん。初対面で、そんな大胆不敵な事をする訳ないって」
大胆不敵を通り越して宇宙からの電波を受信してそうな突飛さに、みぬきと心音も処し倦ねている。王泥喜同様、何かの間違いだと信じたいようだ。
ところが、どっこい。
王泥喜の親友は、王泥喜に似て一直線で。そして王泥喜より数段、男前だった。
「今度の打ち上げには、残念ながら間に合いませんけど。必ず宇宙へ行って、成歩堂さんのいる地球を見ながら成歩堂さんに愛を告げます」
遙か彼方の星空から、愛を叫ぶ程に。