「龍一なら、気付いてくれると信じておった。流石、我が伴侶」
「当たっちゃったよ!」
和風美形が蕩けるような微笑を湛えつつ、頷いた。頷いて、しまった。
真宵や春美や綾里関係者が居ないのに何故こんな超常現象が!?と驚き、戦き、世界の出鱈目さに脱力した成歩堂は。己の精神を守る為、敢えて台詞の後半部分をスルーした。
しかし、ギン(確定)はわざわざ拾い上げてきた。
「我が生まれに不服はないが、伴侶を包み込める人間の身体というものは良いな」
「そ、そう・・」
成歩堂の頬を撫で下ろす指にも。腰を少し強めに抱く腕にも。高い位置から見下ろす眼差しにも。ギンが言う所の『伴侶』への愛情がたっっぷりと溢れていて。成歩堂は顔が赤くなるのを感じた。
―――悪戯だと思っていたものが、実は求愛行動で。うっかりそれに応えてしまったらしい成歩堂を、ギンは番だと判断した。
と、飼い主の夕神から聞いていても。人間の言葉を話さない以上、懐かれた位にしか受け取っていなかった。けれど、ギンが同じ表現方法を有した今は、成歩堂の誤りを潔く認める必要がありそうだ。
「龍一よ」
顎を持ち上げる指には、鋭利な爪が光っている。殺傷能力をもった凶器そのものだが、不思議と怖くはなかった。ギンの触れ方が、あまりにも優しかったから。
不思議現象の真っ直中にも関わらず、ほのぼのとした思いが湧きかけた―――時。
「いざ、契りを交わして。真の伴侶となろうぞ」
「いやいやいや、何を仰っているのやら!?」
ギンが爆弾発言を炸裂させた為、困惑も芽生えた安寧も吹き飛んでしまう。『契り』が何を意味するかなんて、蒲魚ぶる気はない。それ所か、今すぐ逃げなければならないとの切迫感を覚え、必死でギンから離れようと藻掻いた。
「照れる其方は、本当に初々しいな。堪えきれなくなってしまうではないか」
「ギ、ギン! うわ、どこ触って・・っ」
けれどギンは、鳥だけに見事なまで発達した胸板へ成歩堂を抱き竦め、成歩堂の抵抗など全く意に介さず。甘やかな声でうっとりと、最後通牒を齎した。
「まずは、龍一似の子を所望する」
「!!!」
まさしく夢としか思えない一夜が過ぎ。
心身共に多大なダメージを引き摺ったまま、成歩堂は何とか事務所へ行き。昼過ぎ、ふらりと現れた夕神へ恐る恐る尋ねた。
「ユガミ検事。・・・ギン、はどうしたんですか?」
いつもだったら定位置の肩に止まっている筈のギンが居らず、昨日の今日だったが気になってしまう。
「ああ。ギンはどっかから持ってきた卵を温めてるンだが・・おめえさん、何か知らねェか?」
「―――僕は何も聞きませんでした」
『一体何が産まれるんだぁっっ!?』と、口元まで激しいツッコミが出かかったが。身に覚えの有りすぎる成歩堂は墓穴を掘りたくなくて、無理矢理魂の叫びを飲み込んだ。
数日後。
殻を割って、中から出てきたのは―――。