『ネギま』と俺   (18)決戦の麻帆良学園

 

 

 

 予定されていた『火星ロボ軍団vs学園防衛魔法騎士団』という全体イベントは中止となった。

 田中さん部隊の妨害もあって、イベントの内容やルールを周知徹底できなかったのだ。これでは、イベントとして競い合わせるのはむずかしい。

 やむなく、全体イベントの趣旨が変更され、実行委員会による特撮映画撮影として発表された。

 戦闘で活躍した人間ほど、映画での登場場面を増やすと伝えており、撃破数におけるボーナスも約束している。

 学園側は参加者を充分に煽り立てた上で、ロボ軍団を迎え撃った。

 この頃に、学園警備システムのメインコンピュータがハッキングを受けた。

 多くの専門家を雇ったり、新種の電子防壁を構築したりと、それなりに事前準備を行ったらしいが、千雨の欠けた穴は埋めきれなかった。

 茶々丸の電子攻撃を防ぎきれず、学園結界は陥落してしまう。

 戦端が開かれたのは、やはり麻帆良湖岸となった。

 始めから進軍の予想ルートだった事もあり、麻帆良湖には多くの人員をあらかじめ配置していた。

 が、田中さん部隊はそれを側面から強襲する。

 超もこちらの対応を読んでいて、陣形を乱す事から始めたのだ。混乱状態に陥った一般人部隊へ敵の第一陣が殺到した。

 イベント告知に対しても超側から妨害が入ったため、参加者の大量動員が見込めなくなっている。

 ここで思い返して欲しい。『ネギま』でカモも説明していたが、大規模魔法を阻止するには拠点をどれか一つ守りきればいい。

 つまり、6箇所全てを守る必要はないのだ。

 そこで、学園側は世界樹を囲む6箇所全てを防衛するのは諦め、全戦力を世界樹前広場に集中させることを選択する。単純計算で戦力は6倍となる。

『ネギま』内において、ネギと高畑先生がそれぞれ鬼神を中破しているが、結果として一体も倒せていない。それを考えると、戦力を分散させる意義はほとんどないと言えるだろう。

 敵も戦力を集中させて来たため、戦いは当初から総力戦の様相を呈していた。

 

 

 

 どこかの偉いお坊さんも言っている。

「撃たれまい、撃たれまいとするから余計に撃たれる。そうではなく、撃たれて結構、 いや、もう一歩進んで撃ってもらおう」と。ちょっと漢字は違っているが。

 時間跳躍弾に対する対処方法は、この教えに念頭に置いたものだ。

 つまり、敵から射撃されるの待たずに、敵の所有している時間跳躍弾を強制的に炸裂させる。

 直接破壊するのとあまり変わらない気もするが、これならば攻撃力の弱い魔法の射手(サギタ・マギカ)でも対応が可能となる。

 いまさらかもしれないが、古菲は格闘技能だけで量産型茶々丸や田中さんを倒しているのだから、遠距離攻撃が可能な魔法使いはもっと楽に戦えるはずだ。攻撃力だけで判断した場合、旧世界における武道の達人よりも魔法使いの方が強いらしいし。

 こちらの戦略目標は、鬼神の1体を撃破するか、魔法陣の作動を阻むことである。

 超達の現在地を把握できていない学園側にできることは、こちらへ接近する鬼神の撃破のみ……のはずだった。

 

 

 

「明石教授。学園の外から飛行船が接近しています」

 ナツメグの報告を受けて、明石教授が眉を顰める。

「上空の通過申請は出ていないはずだ。飛行船に確認を取るように」

「はい」

 指示を与えたものの、明石教授の表情は険しさを増している。

「もしかして?」

「その可能性が高いだろうね」

 確認する俺に、明石教授が肯いた。

 敷地内にある飛行船は全て学園側で抑えてある。

 このタイミングで、学園の外から飛行船が偶然通りかかるなどあり得ない。

 その推測を裏付けるようにナツメグが告げる。

「飛行船からの応答はありません。こちらの制止を無視して学園上空に侵入してきます。まっすぐに世界樹を目指していています」

「航空部を確認に向かわせて。大至急だ。飛行船上部に魔法陣を確認できたら、その船がこちらの最終目標となる」

「はい!」

「まさか、飛行船を抑えられることまで想定して、学園の外にまで手配していたとはね。決して安くはないだろうに」

 超が俺から情報を入手したのは昨日である。

 この短期間で準備できるはずもないから、不測の事態に備えて事前に手配していたということだろうか? どこまで計算高いのか呆れてしまう。

 飛行船の調査結果が判明すれば、戦いは終結に向かってなだれ込む。俺はそう考えていたのだが……。

「駄目です。接近を試みた飛行機の全てが交信途絶! 詳細は不明です!」

 ナツメグの上げた悲鳴に、室内の全員が明石教授に視線を向ける。

「それだけ重要な存在というわけだ。飛行能力を持つ術者を確認に向かわせよう。反撃の可能性があることも指摘しておくように」

「わかりました」

 

 

 

 相応の犠牲を払って、ようやく飛行船の映像がこちらでも入手できた。

 管制室にどよめきが走る。

 飛行船の上部に陣取って、狙撃を行っているのは龍宮真名。

 飛行船の下部にて、滞空しながら警戒に当たるのは超鈴音。

 敵は飛行船を守るために、最高戦力を配置していた。

「全魔法使いに通達。超鈴音と龍宮真名は飛行船に搭乗して世界樹を目指して進行中。飛行船の占拠とふたりの拘束を最優先事項とする!」

 多くの魔法使いが飛行船へ向かい、同数の犠牲が生まれた。

 ラカンの戦力表では魔法先生を高評価していたけど、あんまり頼りにならないな。……なんて、失礼なことを考える俺。

 派手に生じる球形の時間移動結界が飛行船の周囲で咲き乱れる。

「超を倒すのはもちろんですけど、儀式そのものはハカセが行うと思います。難しいと思うけど、魔法の阻止を優先してください」

『ネギま』では超打倒に固執して、一手遅れるかたちとなっている。同じ轍を踏むわけにはいかない。

「今のところ、飛行船の上には龍宮君しかいないようだ。まだ飛行船の中に待機しているんだろう」

「ハカセがいない?」

「超鈴音が魔法を使えるのなら、彼女が詠唱を行うかもしれないしね」

 明石教授の言葉を耳にしながら、俺は奇妙な引っかかりを覚えた。

 超にだって可能だとは思うが、儀式には時間がかかるはずだし、その間、戦力が低下するのは痛手のはずだ。

 ハカセを危険にさらすとはいえ、開始が遅れれば遅れるだけ、学園側の戦力が飛行船へ集中するのは目に見えている。

 状況が悪くなるとわかっていて、なぜ準備を進めないのだろう?

 学園側が戦力を集めるのを待ってる?

 それは、なぜ……?

「もしかして、囮……とか?」

「そんな、バカなっ!?」

 俺は『ネギま』を読んだ時に、飛行船の上に魔法陣を敷くという大胆な発想に驚かされた。しかし、それにこだわりすぎてないだろうか?

 俺たちは『ネギま』の情報を知っているから、飛行船に魔法陣を仕掛けることも、ハカセが詠唱することも知っている。

 しかし、俺たちが知っている事実も、超は知っているのだ。

「飛行船を使う最大の利点は、心理的な盲点を突くことだと思います。地表にあると思い込んでいる魔法陣が、空の上にあるなんて誰も思いません。だけど、儀式を行うのが、飛行船である必要はないんです。こちらが飛行船を警戒しているのを利用して、注意を引きつける囮にしたんだと思います」

 なまじ未来の知識があったからこそ、俺たちは似たような状況で推移すると思い込んでいた。

 超は逆の方向性で、心理的な陥穽を突いてきたのだ。

 あえて、未来知識から逸脱させずに、肝心な所を押さえる。

 それは、俺達がやってきた方法と同じではないか。

「地上部隊に連絡するんだ! 飛行船が囮の可能性を告げて、結界内に他にも魔法陣がないか確認するよう指示してくれ!」

 明石教授の指示がすぐさま各所へ伝達される。

 上空では無意味の可能性が高い戦いが繰り広げられ、地上では魔法陣を探すために魔法使い達が走り回っていた。

「総合運動公園で発光現象が確認されました!」

「事前の確認では、異常がなかったはずだろう?」

 ナツメグの報告に明石教授が疑問を呈する。

 もともと、広い運動場が並んでいたるため、一番最初に確認を済ませているのだ。

「光っているのはまほらドームです!」

「それだ! 探索に回っていた人間を全てドームに向かわせてくれ!」

「魔法陣は屋外でなければ使えなかったんじゃ?」

 俺の疑問に、明石教授は端的に答えた。

「まほらドーム球場は屋根が開くんだ」

「ナ、ナンダッテーっ!?」

 

 

 

 これで決着がついたと思うのは早計だった。

 俺は当事者ではなくモニターを眺めているだけなので、以下はダイジェストとなる。

 飛行船上にいたはずの超と龍宮は、学園側の動きを見て魔法陣の場所を知られたとすぐに察知した。

 上空のふたりはドームへ先回りして、こちらを迎え撃つ。

 龍宮は転移魔法符を持っており、超は疑似時間停止が可能だ。ふたりの前には距離などなんの障害にもならなかった。

 ドームを守るために集結した量産型茶々丸や田中さん達は、魔法先生が排除していく。

 龍宮の魔弾を免れたのが、ここへ来て大きな影響を及ぼした。

 中でも撃破数が一番多いのはガンドルフィーニ先生だった。銃器を扱える彼は敵の機関銃を奪って活用したのだ。

 龍宮の抑えに回ったのは、同じくプロフェッショナルの高畑先生だ。銃という間合いのハンデを覆すあたり、さすがはAAAクラスと言うべきか。

 超と対峙したのは、影分身を使える楓と小太郎。数にものをいわせて攻め寄るも、超の時間跳躍弾によって多くの影分身が消えていく。小太郎の姿はもはやなく、楓も3人にまで数を減らされた。楓が集中砲火を浴びた瞬間、超の背後に出現した小太郎が航時機の破壊に成功する。

 転移魔法を使えるのは、フェイトやエヴァンジェリンのようなラスボス級だけだと思っていたのに、実は小太郎にも使えたらしい。なんだか、疑似時間停止の攻略法っていくらでもありそうに思えてくる。

 残るハカセが魔法使いに抗えるはずもなく、麻帆良大戦(?)は学園側の勝利に終わった。

『皆が平和でありますように』という一日限定魔法の発動はなかったようだが、大した違いではないだろう。

 ……そうそう、忘れていた。

 ネギは鬼神を撃破したらしいので、大活躍したと言ってもいいのではないだろうか?

 

 

  つづく

 

 

 

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