『ネギま』と俺   (14)学園長からのお話

 

 

 

 関東魔法協会に所属している魔法先生が、大ホールへと集められていた。

 学園祭の最終日にかけて、起こりうる事態を説明するのが目的だ。

 部外者である俺は、別室のモニターで集会の様子を眺めていた。

 

 

 

『全世界に対する強制認識魔法?』

 学園長が超の目的を告げると、ざわめきがホールを満たす。

 彼等の多くは、超の事をただの問題児だと考えていたはずだ。

 まさか、魔法社会を揺るがす禁忌に挑むとまでは予想していなかっただろう。彼女はテロリストであり、思想犯ともいうべき存在なのだ。

「学園長。その情報はどこから?」

 ガンドルフィーニ先生の質問に、学園長の口調が鈍る。

「問題はそこなんじゃよ。これから、少しばかり面倒な話が続く。君達には、自分自身の常識や発想を変えてもらいたい。そうでなければ、超君とは戦いにすらならんじゃろう」

 その前置きに先生達は怪訝そうな表情を浮かべている。

「高畑君が塔から連れ帰った人間について、皆も聞いておるじゃろう。彼の名は高見匠君といって、ワシにいろいろと助言をしてくれる相談役のような人物なんじゃ」

「……え? 助言を『してくれた』んですか?」

 学園長の言い回しに引っかかったのは明石教授だ。俺と学園長では逆の関係の方が受け入れやすいからだろう。

「うむ。間違っておらんよ。彼は予知夢を見るらしくての。これまでにも何度か助けられておる」

 俺の知る知識は、予知夢として説明するように口裏を合わせる事になった。

 どうも、『創作物の登場人物』と指摘されるのは、信じられない以前に、信じたくないという心理が働くらしいのだ。

 俺にはわかりづらいが、学園長がそう言うのだから事実なのだと思う。

 予知ではなく予知夢としたのは、能動的に新しい知識を得られないからだ。

「エヴァンジェリン暴走事件。リョウメンスクナ復活事件。ヘルマン伯爵侵入事件。いずれも、彼からの情報によって、比較的軽い被害で済んでおる」

 各事件に直接関わった人間はそれほど多くないのだが、事態のあらましは全人員に通達されている。

 相互に話し合っているわけではないのに、それぞれのつぶやきが重なって、ざわめきが納まらない。

「学園祭における超君の行動についても同様じゃ。事前に知っておったから、盗聴という罪で拘束に踏み切ったんじゃ。まさか、脱走されるとは思わんかったがのう」

「超鈴音が怪しいのは認めますが、予知夢を根拠とするのは問題じゃありませんか?」

 相手が学園長でなければ、ガンドルフィーニ先生はもっと強く糾弾していた事だろう。

 彼は頭が固く規則にうるさい。だからこそ、超にも一定の権利を認め、学園長の判断にも正当性を要求する。

「高見君の予知夢について、疑いを持つのは時間の無駄じゃよ。むしろ、前提条件と言える。予知夢の話を信じられんようでは、これから先の話にもついてこれんからのう」

 学園長は彼の反論を強引に押し切ってしまった。

「まず、超君の正体についてじゃ。彼女は何百年も先の未来から、タイムマシンでやってきた未来人なんじゃよ。本人はネギ君の子孫だと言うておる」

 魔法先生達は当惑に言葉を詰まらせるが、すぐにざわめきが再発する。

「学園長。未来人というのは無茶すぎませんかねぇ? 確証でもあるんですか?」

 弐集院先生に学園長が答えた。

「ワシもタイムマシンなどとは信じたくない。しかし、高見君が言うのだから、事実として認めるしかないんじゃよ。ネギ君の子孫というのは超君の自称じゃから、嘘という可能性もあるがの」

「学園長がその件を明かしたのは何故ですか? それを僕達に知らせようと判断した理由は?」

 核心を突いた高畑先生の質問に、学園長は満足げに頷いた。

 この会合を持った目的が、そこにあるからだ。

「この件が、超君の戦い方に関連するからじゃよ。敵のロボ軍団が使用する弾丸は、標的を強制的に時間移動させるものなんじゃ。銃弾が命中すると、結界が発生して3時間先へ転移させられる。つまり、3時間という時間を奪われてしまうんじゃよ」

「魔法障壁では防げないんですか?」

「魔法障壁ごとじゃよ。体に当たらんでも、武器で弾いただけで、周囲の空間を丸ごと包み込んでしまう。これでは通常の対処は役に立たん」

 情報ソースに疑いがあっても、その銃弾は非常に厄介な代物だと皆にも理解できたようだ。

「その上、どのような技術によるものか、龍宮君は跳弾による狙撃も可能としておる。物陰に隠れただけでは防げんのじゃ。障壁で受け止めるのではなく、受け流す事を前提に対処してもらいたい」

 龍宮が弾丸を使い分けているようにも見えないので、跳弾程度の衝撃では発動しないとしか考えられない。それならば、弾道を反らす事も可能だろう。

 もちろん、かわすのが一番安全に思えるが。

「さらに超君本人は戦闘中にもタイムマシンを使いこなすんじゃ。攻撃を受ける瞬間や、取り押さえられた瞬間に、別な時間へ移動し、再び元の時間へ戻ってくる。それも、相手の死角を狙っての。実際に対戦しなければ実感できんと思うが、仕掛けられた側にとっては瞬間移動にしか見えんようじゃ」

 超は自分のアドバンテージを良く理解している。自分達だけが使いこなせる時間移動を、攻撃の主軸に据えているのだ。

「高見君の予知夢の中では、学園祭の戦いには二つの結末が存在しておる。一つ目はワシ等の完敗じゃ。なんの情報もないまま超君のロボ軍団に占拠されてしまい、目的の達成を許してしもうた。迎撃しようにも衆目の前では魔法が使えんしのう」

「二つの未来が見えているのに、予知なのですか?」

 シスターが疑問を口にする。

「そこへネギ君が絡んでくるんじゃ。超君はネギ君の存在を危険視しておったらしい。忙しいネギ君を助けるという口実で、超君はタイムマシンを預けておったんじゃよ。しかし、最終日を前にタイムマシンの仕掛けが作動して、彼を一週間後へ跳ばしてしまった。ネギ君が気づいた時には、全てが終わった後だったんじゃ。魔法が公開された世界から、ネギ君はタイムマシンを使用して、再び過去へ戻り超君に挑むんじゃよ」

「ネギ君の阻止はうまくいったんですか?」

 これは瀬流彦先生だ。

「うむ。ネギ君は超君との戦いを、全体イベントに仕立て上げたんじゃ。対ゴーレム用の魔法道具を一般生徒達へ配り、追加戦力や陽動として動いてもらう。その一方で、ワシ等が魔法を使用しても、イベントの演出として誤魔化せるというわけじゃ」

 学園長の説明を受けて、魔法先生達が感心する。

「そうなると、学園長が極秘で企画してた最終イベントというのは……?」

 グラヒゲ先生の質問に学園長が頷く。

「そうじゃ。ネギ君のアイデアを元に、ロボットを迎撃するつもりだったんじゃよ。超君に対策される危険性もあったので、寸前まで隠し通すつもりでおったんじゃ」

 告知こそしていないが、ポスターも印刷済みだし、対ゴーレム魔法道具も大量に入手済みだった。

「確かに有効だと思われますが? 何か問題でも?」

 刀子先生の疑問に、学園長がため息を漏らしながら答えた。

「そこで、話は高見君に戻って来るんじゃよ。高見君については極力隠してきたというのに、よりにもよって超君にその存在を知られてしまった。高見君の持つ情報が超君に漏れてしまったんじゃ」

『ああっ!?』

 一斉に驚きの声があがる。

 どんなに有効な策であっても、事前に知られてしまっては対処が可能だ。

 これまで、超の計画を察知していた事による優位性が失われ、主導権を奪われてしまった。

 防衛が主体となる学園側は、超の行動にあわせての対応を迫られる事になる。

「高見君の話を超君が信じなかったなら、むしろ、ありがたいくらいなんじゃがのう」

 学園長がそうあってほしいとこぼす。これはもちろん、そうならないと確信しているからこその嘆きだ。

「敵となるのは、超鈴音、葉加瀬聡美、絡繰茶々丸、龍宮真名の四名じゃ。2500体ものロボ軍団が押し寄せるよりも先に、彼女等の身柄を拘束しておきたい。魔法の発動は明日の夜に限定されておる。明日の夕方までは、特殊弾を使用されても実害は少ないじゃろう。指導している魔法生徒達も動員して、なんとしても見つけ出して欲しい!」

『はいっ!』

 

 

 

 事の真相を知らせたのは、学園長への信頼が厚く、意思疎通もしやすい魔法先生だけに限定している。

 魔法生徒に知らせても混乱を招くだけなので、実務的な指示だけを行う予定だ。

 それが学園長の判断だった。

 その一方で、真相を知らせるべき人間も存在した。

 モニターに向けられていた幾つもの視線が、改めて俺に向けられる。

 ネギ、アスナ、このか、刹那、古菲、楓、小太郎の7名がこの部屋にいた。ついでに、オコジョも1匹。

 彼等の総力は『ネギま』より劣っていると予想されるが、それでもこの戦力は貴重なのだ。

 部外者として遊ばせておくほど、学園側に余裕もない。

 俺は彼等から質問攻めにあう。

 

 

  つづく

 

 

 

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