『ネギま』と俺 (10)平和な学園祭
麻帆良祭において、一番の懸念事項となるのは超鈴音の動向だ。
そのため、文化祭が始まる前日の時点で、彼女はすでに学園側が拘束していた。
直接的な罪状は、告白阻止に備えた集会を覗き見ていた事。ある意味、別件逮捕である。
取り押さえたのはガンドルフィーニ先生と二人の魔法生徒だ。その場面に遭遇したネギは、超を庇おうとするもすげなく拒否された。
ガンドルフィーニ先生は、学園長から厳しく対処するように命じられていたからだ。
『ネギま』での経緯を思い返すと、ネギは超の目的も知らずに温情をかけ、その後の監督責任を果たしていない。
彼がどれほど訴えようと、その後の展開を知っている学園長が、甘い処分で済ますはずがなかった。
少し話は変わるが、ここに至るまでの超達や学園側について。
『ネギま』では超と魔法協会の関係が不明確だったので、学園長に尋ねてみた。
超は中学一年のころから天才ぶりを発揮しており、ハカセと共に大学部のスカウトを受けて研究を行っていたらしい。
彼女達が研究していたのは未知のエネルギーだった。その正体が、後になってマナだと判明して学園側は驚愕する。
魔法による記憶消去とは万能にはほど遠く、特定の事柄に限定したなら、数週間前までしか効果が期待できない。時間が経てば経つほど、インターネットの様に他の記憶と結びついていくからだ。
偶然に発見されただけなら、その瞬間の記憶を消去すれば対処できる。しかし、発覚の時点でそれなりに研究も進んでいたため、記憶を失う直前からやり直したら、同じ結論へ辿り着いてしまう。
魔力に関する研究を放置するわけにはいかず、学園側はあえて情報の提供を行い、彼等の研究を安全な方向へ誘導しようと考えたのだ。
魔法は秘匿されてきたし、科学者もオカルト全般に懐疑的だ。そのような事情から、科学による魔法の解析はほとんどなされていない。
そのような事情も重なって、学園側もこの研究に興味を抱くようになる。
今にして思えば、全ては超が学園側へ接触するためのカモフラージュだったのだろう。
魔法協会とのパイプを確保し、超は目的を果たすべく着々と準備を進めてきた。
俺からの『ネギま』情報により、裏面の事情を知った学園長も、遅ればせながら対応を開始する。
超が油断のならない相手なのは、疑いようのない事実だ。
強硬手段に訴えて、超や施設を取り押さえる事も可能ではあったが、協会内部の説得が難しい。
さらには、超を警戒させてしまうと、どのような手段に訴えるか見当もつかない。現に超は、魔法協会を一度出し抜いて計画を成功させている。行動の自由を許す事が、どれほど危険かわかろうというものだ。
学園長は超の行動を監視し、資材の入手や施設の使用に制限を設けて、勢力を押さえようと動いてきた。
もちろん、対ゴーレム用の魔法具も事前に手配済みだ。
龍宮については、逆に学園側で雇おうとしたのだが、これは失敗に終わった。
告白阻止の仕事は引き受けたらしいが、学祭中の『外敵』の排除では情報が曖昧すぎると、断られてしまった。
龍宮が超の目的に賛同した事を考えると、強引に契約を結んでもキャンセルされるのがオチだろう。
ハカセと茶々丸も分断は難しい。しかし、この二人は指揮官としての適性に欠けると思われた。
ハカセは超に匹敵するほどの天才だったが、彼女は研究者としての面が大きい。
茶々丸も有能ではあったが、それは手足としての有能さであって、指揮統率には向いていない。
それらを考え合わせると、超鈴音こそが彼女等の弱点とも言えた。
彼女無しでは、計画を指揮統率するのも難しく、事が起きても鎮圧しやすくなるはずだ。
指揮官代理を務めるのはハカセと思われるが、計画を押し通す行動力も、状況にあわせて作戦を修正する器用さも、魔法先生と互角に戦える実力も、彼女には欠けている……ように思えた。
俺は学園祭実行委員で作成した100ページを越えるパンフレットを手に、いろんな教室を渡り歩いていた。
学園長に頼んで、3−Aのクラス名簿も入手済みだ。残念ながら、ネギの所有している物とは違うので、高畑先生の個人的な書き込みは存在しない。
記載されている所属クラブ名を頼りに、俺は3−Aメンバーの催し物をハシゴしているのだ。
しかし、しかしである。
顔写真と一致する人間が見あたらない。彼女等がクラブ側に参加する時刻を知らなかったため、当人達が不在の時間帯にばかり当たるのだ。
3−Aのお化け屋敷も覗いたのだが、暗がりのため顔の確認もおぼつかなかった。
なんて、ついてないんだっ!
俺がこんなのんきな事をしているのは、やはり、逃避行動なのだと思う。
決断を下す事を避けて、目先の楽しみに逃げ込んでいるだけだ。
「ここに残るのもいいかなって、考えてるんですよ」
クウネルにもそう告げてあったが、彼の返答はこうだ。
「それでも、準備だけはしておく」と。
俺の気が変わった時に、準備が間に合わないという事態を避けたいのだという。
「後で恨まれたくないですしね」とまで言っていた。
つまり、最終的に間に合わなかったとしても、それをクウネルの責任として転嫁させないつもりのようだ。
クウネルは厳しい。
あくまでも自分の意志で決めろと言っているのだ。
クウネルを非難するのは間違っているが、それでも恨みたくなってくる。
一言、無理だと言ってくれれば、俺は楽なのだ。「魔法使いのくせにそんな事もできないのか」と愚痴をこぼしながら、悩む必要もなく暮らしていけばいい。
だが、クウネルはそれを許さなかった。
そのため、俺は今も悩みから解放されずにいる。
夕方になると、まほら武道会の予選会場を訪れてみた。
学園側の意向としては、開催を中止したかったが、これはうまくいかなかった。
良くも悪くも学園の生徒達は行動力があるため、学園側の介入を拒んだのだ。これまで生徒の自主性を重んじてきた経緯もあり、学園側も黙認せざるをえなかった。
大会の優勝賞金は1千万円で予選参加資格なし。
多数の申し込みがあったものの、残念ながら『ネギま』ほど参加者の質には恵まれなかった。
学園長の厳命により学園側からの参加者が皆無だったのだ。これには魔法生徒となっている小太郎も含まれる。ネギが参加しないため、エヴァンジェリンも不参加だ。
ネギの不参加にはクウネルも不服そうだったが、超の開催目的が『魔法を実演させる事』である以上、参加するデメリットが大きすぎる。
クウネル本人はと言えば、『面白そう』という理由だけで参加を決定。学園長になんと言われようが、蛙の面に小便だった。さすがはクウネル。
予選を通過したのは、他に古菲・楓・龍宮・田中さんという面々だ。
明日の本選は、『ネギま』に比べて非常にもの足りない大会となりそうだ。
超が拘束されているため、主催者代行として挨拶を行ったのはハカセだった。
言ってはなんだが、超に比べると存在感が薄いと思う。簡潔に淡泊に説明するので、観衆の興奮を煽るような事もなかった。
文化祭一日目は平和のうちに終了した。
問題が起こったのはその翌日である。
あるフレーズを使って説明してみよう。
あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
『俺は自室で眠っていたと思ったら、超に拉致されていた』
な……、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何が起きたのかわからなかった。