『シロネギまほら』(72)偉大なる魔法使い

 

 

 

 『グレート・パル様号(仮)』が、火のアーウェルンクス『クゥァルトゥム』と、水のアーウェルンクス『セクストゥム』の強襲を受けて、救出したはずのアスナをまたしても奪われてしまった。

 撃墜される間際、半魔獣と化したネギが覚醒し、『クゥァルトゥム』を撃破。

 ネギを乗せた『グレート・パル様号(仮)』は、アスナを奪還すべく、敵中枢部へ乗り込むのだった。

 

 

 

 逆光の中、甲板に立つ小柄な人影を、フェイトは楽しげに見上げていた。

 自分が存在する意義。自分に喜びをもたらすもの。

 フェイトにとってそれらは全て一つに集約される。

「待ちくたびれたよ。ネギ・スプリングフィールド」

 ネギとフェイトが全力でぶつかり合う。

 強力な魔法の応酬にとどまらず、『魔法世界』の将来すら左右する一戦だが、これは、理解し合おうともがく子供達のコミュニケーションでもあった。

 事実、『完全なる世界』の逆流によって、お互いの持つ記憶がそれぞれに流れ込む。

 お互いの拳で我に返ったふたりが、至近距離で見つめ合った。

「『魔法世界』を救うためにも、僕は君と友達にならなければならないと思った。……でも、今は違う」

 ネギは『テルティウム』が、『フェイト』となった重要な思い出を覗いた。

 戦いで傷を負ったフェイトは、一人の女性に助けられる。コーヒーを煎れるのが上手な女性だ。彼女は別な事件に巻き込まれて、命を落とす。直接手を下したのはフェイトの仲間の一人であり、フェイトは自らの手でその相手を始末していた。

 フェイトの過去を垣間見て、ネギはまた一つ彼のことを知った。

「僕はもっと君の事を知りたいと思う。僕は僕の意志で、僕自身の望みとして、君と友達に『なりたい』んだ」

 ネギの差し出した右手を、ためらいながらフェイトが握り返す。

 和解したふたりを、水の立方体が出現して飲み込んでしまった。

「こおれ」

 空気をかすかにきしませて、ふたりを閉じこめた水が凍り付く。

 乱入したのは、先ほどアスナを拉致した『セクストゥム』だ。彼女にしてみれば、裏切る寸前のフェイトを拘束するのは当然の行動である。

 

 

 

 最大の邪魔者を無力化し、アスナと『造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー』を『使用』する儀式が始まった。

 宮殿直上の空間が歪み始め、その向こうには、廃ゲートの接続先である麻帆良学園が上下逆さまに映っていた。単なる映像などではなく、物理的――正確には魔法的に接続しているのだ。

 学園側でも、視点を逆さまにして状況を理解しているだろう。

 ネギとフェイトが力を振り絞り、ようやく氷の牢獄を脱するも、彼らの前には再び生を受けた歴代の使徒達が立ちはだかった。

 その一方で、こちらにも心強い味方が到着する。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが。

 近衛近右衛門が。

 近衛詠春が。

 アルビレオ・イマが。

 タカミチ・T・高畑が。

 クルト・ゲーデルが。

 さらには、気合いで蘇ったというジャック・ラカンまでもが。

 いくつもの因縁を抱え、壮絶な戦いが開始された。

 

 

 

 戦いを尻目に、少女達は友達を助けるために、自ら動き出してた。

 刹那や真名が戦闘を終えて駆けつけ、学園にいたザジがあやか達一般人組を連れてくる。

 彼女らの目的は、『儀式』の中心たるアスナを眠りから目覚めさせる事。

 アスナさえ起きれば、彼女たちの、ネギ達の勝利なのだ。

 一心に祈る、3−Aのクラスメイト達。

「させるわけにはいかないな。君たちには消えてもらおう」

 ラカンの記憶を見知った者がいれば、その青年が初代アーウェルンクスだと気づいただろう。

 少女達の護衛についていたのは、高音やアリアドネー騎士団。優秀な彼女たちでもさすがに相手が悪かった。

 英雄達は『人形』軍団と拮抗した戦いの渦中であり、こちらへ回せる戦力は残っていない。

 アーウェルンクスの周囲に、フェイトが得意とする黒杭が無数に出現し、少女達に向けて放たれた。

「――全投影連続層写ソードバレルフルオープン!」

 豪雨となって降り注いだ剣軍が、その全てを撃ち落としていた。

「あの子達は俺が守る」

 赤い外套を羽織った頼もしい背中が、少女達を背負う。

 フェイトは石化を解除することによって、彼女たちへ救いの手を差し伸べたのだ。

 士郎の握る黄金の剣が、次第に輝きを増していく。

 敵の行った儀式によって、いまや、火星全体からこの地へ魔力が流れ込もうとしている。それこそ、『魔法世界』が枯渇する程に。

 士郎が纏う『ヒイロノコロモ』の特性は、周囲の魔力を我が物として使用できる事。

 ならば、士郎が扱える魔力もまた、『魔法世界』そのものに匹敵する。

 高々と剣を掲げた士郎が、その尊き真名を解放する。

「――約束された勝利の剣エクスカリバー

 神造兵器とも言われる黄金の剣は、一国をまるごと覆えるほどの魔力の流入にも耐え、その全てを力へと変換していく。

 本来の持ち主である騎士王ですら、ここまでの魔力を籠めて振った事はないだろう。

 それは、騎士王が、あるいは贋作者の向かうべき道標。

 ただまっすぐに進む黄金の道が、あらゆる障害を、汚れを打ち祓う。

 崩壊したアーウェルンクスは、粒子ひとつ残さず、すり潰されて消滅した。

 

 

 

『紅き翼』の戦いも決着がつこうとしていた。

「――終わりなく白き九天アペラントス・レウコス・ウラノス

 エヴァの発動させた雷氷の蔓は、どこまでも人形を追いかける。

 敵対していた使徒達を撃破し、唯一残った敵が創造主だった。

 力の差を見せつけた創造主相手に、覚醒したアスナとネギが力を合わせて、撃退に成功する。

 創造主の正体がナギだと判明するも、多くの謎は解かれることなく、彼の逃走を許してしまう。

 黄昏の姫御子たるアスナが、『ハマノツルギ』と『造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー』を用いて、何段階か進んでいた儀式を全て反転させる。

 剥き出しとなった火星表面に魔力を均すとともに、『完全なる世界』に封じた人々が次々と解放されていった。

 

 

 

『魔法世界』そのものを揺るがす危機を救い、ネギ・スプリングフィールドは救世主として讃えられた。

 決してネギ一人だけで全てを解決したわけではないが、対外的に表へ出るのはネギだけだ。少女達に重い責任を負わせるつもりもないし、今後のためにも、ネギは各組織の責任者と顔合わせをしておきたかったからだ。

 事件解決に貢献してくれた人々には、さまざまな形で報酬や恩赦が渡されており、士郎達が関わった賞金稼ぎ『バラクーダ団』もおこぼれに預かっている。『グレート・パル様号(仮)』もめでたくお役ご免であった。

 そして、士郎には知識面での報酬が渡される。ある研究者との対面だ。

 異世界について研究している彼は、実際に並行世界から来た魔法使いとも情報を交換しているという。

 その相手の名は、『宝石翁』とも呼ばれるキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、その人であった。

 

 

 

つづく

 

 

  あとがき: 『ネギま』最終回のはずが、ここではダイジェスト対象(笑)。 原作と代わり映えしない流れなので、詳細に描写してもつまらないし、読んでもつまらないでしょう。 次回はさっさと二学期の話へ突入します。