『シロネギまほら』(70)世界の支配者

 

 

 

 残念ながら、フェイトが挑発に応じることなく、眼前のポヨが激発してネギとの交戦に突入した。

 士郎やネギの脱出により破綻を来した『完全なる世界』からは3−Aの生徒が次々に帰還する。

 そのうちのひとりである龍宮真名は、ポヨを重力地雷で下層階へと叩き落とし、単身で足止めを引受ける。

 真名の信頼に応えるべく、ネギは3班に分かれて行動するよう指示を出した。

 一般人を含む多くのメンバーが1班となり、船の修理を担当する。

 小太郎や夏美達は2班となり、人質の救出に向かう。

 3班となるネギ達は、『造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー』の奪取が目的だ。

 

 

 

 ネギ達の行く手を阻むのは、すでに帰還していたデュナミス達だ。そのうえ、彼の手には、のどかが奪ったはずの『造物主の掟』が再び握られていた。

 魔法世界を自在に操る事のできる『魔法の鍵』。

 この恐るべき力に挑む切り札が、士郎の存在だった。そのために士郎は、艦内で一つだけあらたな魔法を習得している。

「──解放エーミッタム

 本来、キーワード一つで魔術を発動できる士郎に、遅延呪文など必要ない。

 しかし、このかとの仮契約によって、長い詠唱を必要とする唯一の魔術を、士郎は自在に活用できるようになった。

「――無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス

 広間を埋め尽くしたのは、夕暮れに染まる赤い大地。そして、墓標のように地面へ突き立つ無数の剣。

「どれほど特殊な結界であろうと、この『造物主の掟』の前では儚い幻にすぎん……なっ!?」

 余裕を見せたデュナミスの顔が驚愕に彩られた。

「馬鹿な!? なぜ消せない!? 創造主の力なのだぞ!?」

 絶対と信じた力が、この空間では全くの無力。

『魔法世界』を自在に改変できるはずの『造物主の掟』がまるで効果を示さない。

 それもそのはず、固有結界とは自身の心象風景で現実空間を浸食する魔術。『無限の剣製』に塗り替えられたこの空間は、魔法世界とは違った形で成り立っているのだ。

『造物主の掟』にできるのは『魔法世界』を書き替える道具に過ぎず、決して万能の願望器などではない。

 この時、この場において、衛宮士郎こそが世界の創造主だった。

 支配者の意志によって浮かび上がった剣群が、その切っ先を敵に向ける。

 ある者は耐え、ある者はかわしながら、遠距離攻撃を封じるために、それぞれが敵との接近戦に挑む。

 デュナミスは、ネギと。

 京都神鳴流の月詠は、刹那と。

 発火能力者の焔は、楓と。

 獣人族の暦は、古菲と。

 竜族の環は、士郎と。

 実力者同士の闘いに、士郎が外から介入するのは難しい。自身が戦闘中ともなればなおさらだった。

 士郎に限って言えば、竜族との戦闘経験もあるし、以前のゴーレムとの共同戦線によりも、意思統一された剣軍はさらに頼りになった。

 さらに、なんと言っても竜殺しの魔剣グラムの存在は大きい。

 楓と古菲は優勢、刹那はほぼ互角。

 デュナミスは『造物主の掟』を封じられながらも、影を纏った大幹部戦闘形態影となってネギと拮抗していた。大きな代償を支払いながら、デュナミスの攻撃がネギに出血を強いる。

『時の回廊』と呼ばれる時間停滞の結界がネギを捕えたが、雷速を使える彼ならば、数メートルの効果範囲を脱することなど容易いことだ。

 戦況の優位にネギ達は一つ読み間違えていた。デュナミスがここで待ちかまえていたのは、ネギ達を撃退するのが目的ではなかった。

 こうして抗戦を続け、時間を稼ぐのがデュナミスの狙い。

 減少しているネギの生命力が、ある境を越えれば『闇の魔法』の暴走は急激に進行する。

 そして、その時が訪れた。

 獣じみた牙をきしらせたネギの全身から、禍々しい漆黒の魔力があふれだす。

 それまで拮抗していたデュナミスを圧倒する巨大な力。破壊衝動に飲み込まれたネギは、下半身を消し飛ばしたデュナミスにとどめを刺そうとし、邪魔に入った敵の少女達までも軽く蹴散らした。

「そうはさせん、ネギ坊主!」

「やめるアル!」

 楓と古菲が両腕にしがみついて、ようやくネギがその動きを止めた。

 生命力が枯渇し、ネギの全身が石膏を思わせる無機質な塊と成り果てる。

「まずいでざるな。一刻も早くこのか殿に治療してもらわねば」

 いつにない楓の深刻な表情。

 士郎が『無限の剣製』を解くと、周囲の環境は戦闘の跡など欠片もない元の広間に戻っていた。

「待てっ!」

「次こそ邪魔の入らないところで、殺し合いましょうなー、センパイ」

 不利と悟った月詠があっさりと撤退を選択する。

「悪いな、桜咲。今はネギを優先したい」

 士郎の謝罪に、刹那が首を横に振る。

「いえ。仕方ありません」

「無駄だよ。墜としきれなかったのは残念だが、彼はもう使い物にならない。君たちは切り札を失ったのだ」

 上半身しか残っていない状態で、デュナミスが勝ち誇った。

「無駄かどうか決めるのはあんたじゃない。船まで連れ帰ってもらえるか?」

「任せるでござる」

 楓は石像と化したネギを『天狗之隠蓑』へしまい込むと、元来た道を駆け戻る。

「彼女たちは目を覚ます前に無力化しておきましょう」

 気絶している少女達は、刹那が符術をつかって拘束していく。

「不戦の強制契約を受けてもいいから、君たちの悪あがきを観戦させてくれないか?」

「断る」

 デュナミスの申し出を、刹那はあっさりと拒絶する。敵を楽しませるいわれなどないからだ。

「みんなー、無事かー!?

 こっちは一大事だぜ!」

「みなしゃーん」

渡鴉の人見オクルス・コルウィヌス』に乗って、カモとさよがこの場に駆けつける。

「あれ、兄貴はどうしたんで?」

 ネギの不在を尋ねるカモ。

 そして、お互いの状況を伝えあい、互いに驚くハメになる。

 2班の方では、アーニャこそ救出できたものの、アスナがどこかへ連れ去られた後だった。

 1班では、楓がネギを連れ戻って大わらわだ。『渡鴉の人見』を介し、1班の千雨やのどか、2班の夕映に朝倉、3班の士郎や合流したカモが相談し、今後の対応を検討する。

 前提条件として、ネギの治療はかなわず、戦力に組み込めない。

 士郎達と合流した楓は、ネギの替わりにのどかを連れて戻ってきた。彼女に頼みたいのは、デュナミスが持つ施設内の情報を読みとる事だ。

 小太郎達2班の到着を待って、一同は、アスナと『造物主の掟』奪取のために動き出す。

 

 

 

つづく

 

 

  あとがき:個人的には、固有結界の呪文は、『ネギま』の魔法と違って遅延呪文が効かないと考えています。ですが、せっかくのクロスオーバーなので、可能性の一つとして採用しました。