『シロネギまほら』(63)ネギま部、内憂外患

 

 

 

 かつて、ナギやラカンの属していた『紅き翼アラルブラ』は、大戦の影で暗躍していた『完全なる世界コズモエンテレケイア』の存在を知ったがために、罠にはめられ、敵対していた帝国どころか、味方だった連合にまで追われることとなった。

 しかし、『紅き翼』は理解者達を増やし、『完全なる世界』の本拠地たる、オスティアの『墓守り人の宮殿』へと攻め込むと、ついには敵の首魁を撃破する。

 終戦を祝う最中、敵の行った儀式によって、王都でもあった旧オスティアは墜落し、今や住む者も無いまま廃棄された状態だ。

 ラカンに聞かされた過去話と、フェイトから読み取った情報から、ネギま部は旧オスティア探索へ向かった。

 残っているはずのゲートを求めて。

 そして、茶々丸が検出した不鮮明なバッジの反応を辿るために……。

 

 

 

 フェイト達の襲撃を受けた夜のことだ。

「士郎さん、ちょっといい?」

 意味ありげにハルナが声をかける。

 連れ込まれた部屋には、ネギま部の頭脳派や武闘派がそろっていた。具体的には、ハルナ、千雨、朝倉、茶々丸、楓、刹那だ。当人には悪いが、古菲は除外されていた。

「アスナさんの調子が悪かったと聞いたのですが……?」

 不安そうに問いかける刹那。

「ああ。だけど、問題があったのは神楽坂じゃなくて、『ハマノツルギ』の方だな」

「と言うと?」

「今日の『ハマノツルギ』は歪な状態だった。俺が無理矢理投影したような構造で、あれじゃあ魔法を無効化できなくて当然だな」

「……もしかすると、士郎殿の見立て通りかも知れんでござるよ」

 と楓が告げる。

「ん? どういう意味だ?」

「アリアドネーのユエが本物だってことは話したよね」

 ハルナの言葉に士郎が頷いた。

 無理矢理さらってくるのも問題があるので、良案が浮かぶか拳闘大会が終了までは現状維持の予定だった。

「『白き翼アラアルバ』のバッジを所有しているのは全部で14名です」

 茶々丸が順番に名前を挙げていく。

 ネギを筆頭に、茶々丸自身、千雨、小太郎、朝倉で5名。

 その後に合流したのが、このか、刹那の2名。

 別行動していたのは、士郎、ハルナ、裕奈、古菲、楓、アスナの6名。

 アーニャを除いた13名が、オスティアに集まっている計算となる。

 まき絵と、奴隷だった、亜子、アキラ、夏美はもとから所持していない。

「アーニャさんの所在を捕捉しようとして、定期的にバッジの反応を確認しているのですが、現在のオスティアに、バッジの反応は13しかありません。バッジを所有していない人間がいます」

「……誰なんだ?」

「アスナさんです」

「神楽坂のことだから落としたとか」

 アスナ本人は士郎の言葉に怒りそうなものだが、居合わせた面々もその方向性で反論はしなかった。

「いえ、持っていました。バッジをスキャンしてみましたが、物理的な破損が確認できていません。衛宮さんの言葉を借りるなら、『歪』と言えるでしょう」

「どういうことだ……?」

「衛宮さんの投影同様、再現できない物を無理に複製した結果とは考えられませんか?」

 深刻な表情で刹那が疑念を口にする。

「神楽坂が『ハマノツルギ』やバッジの偽物を準備するはずもないし……、つまり、持ち主も偽物ってことか?」

「私のゴーレムみたいなものなら、入れ替わりという事も可能でしょ?」

 ハルナに続き、千雨が推論を続けた。

「あのフェイトがあっさり退いたのも不自然だろ? 替え玉のアスナを気遣ったと考えれば、納得できるんじゃねーか?」

 

 

 

 旧オスティアでの探索は、ゲートの位置確認、バッジの所有者の存在把握、敵アジトの発見という、多大な成果をあげた。

 予定よりも早く終了したため、帰還したのはちょうど拳闘大会決勝当日だ。

 ネギ達の集中を乱さないよう、詳しい報告は後回しに決まった。

 一方で、士郎達を驚かせたのは、決勝相手の名前である。

 

 

 

 会場の通路で、二人の男が言葉を交わしていた。

「ネギや小太郎が大会へ参加した目的は、賞金を手に入れて3人の生徒を解放するためだって、ラカンさんも知ってるはずです」

「そのぐらいかかってねぇと、あいつは本気で戦わねぇだろう?」

 ラカンの目的はネギを鍛えること。大局的に見れば、ネギの成長は『完全なる世界』との戦いを優位にする。その点だけを見れば、決しては間違った判断とも言えない。

「言ってることは理解できます。でも、それは本気で稽古に臨めば済むことで、生徒を人質に取るようなマネは必要ありません。生徒の解放を優先してください」

「『言ってること』はわかるぜ。だが、わかった上でやってるんだから、言うだけ無駄ってもんだ」

「言ってもだめなら、……力ずくになります」

「俺を相手にか?」

「誰が相手だとしても、です」

「おとなしいヤツだと見てたんだが、こいつは意外だったな。ずいぶんと過激じゃねぇか」

 言葉上では呆れながらも、ラカンの口元には野太い笑みが浮かんでいる。彼はこういう状況やこういう相手が嫌いではないからだ。

「俺に勝てるつもりか?」

「それは無理だと思ってます」

「ネギや嬢ちゃんたちのために捨て石になろうってわけか?」

「望むところです」

「お前じゃ、捨て石にすらなれねぇと思うがな」

「構いません」

 士郎は無駄とか無意味という言葉で諦める人間ではない。

「それじゃあ、ウォーミングアップとしゃれこむかね」

 ラカンは喜色をたたえて士郎に応じる。

「――来れアデアット

 士郎の体を赤い外套が覆った。

「では、三分間だけつきあってもらいますよ、ラカンさん」

 

 

 

「んー、あいつら、もう闘技場へ向かったのか?」

 ネギ達の控え室にのっそりと現れたのは、対戦相手であるラカンだった。

「何しに来たのよ」

 機嫌の悪さを隠すことなく応じるアスナ。

 ラカンの横やりでネギ達の優勝が遠のいたのだから、当然の対応と言えた。

「あー、こいつとちょっとやり合ってな」

 左肩に担いでいた人物を下ろすと、皆が驚愕の声を上げた。

『衛宮さんっ!?』

 士郎の体が大きなソファーに横たえられた。

「おっ、おいっ! 殺したんじゃねーだろーな、おっさん」

「死んじゃいねーよ」

 千雨の問いに、軽い調子で応じる。

「ちょっと、こいつにケンカをふっかけられてな。3分って言いだしたくせに、結局、こいつがそこまで保たなかったんだよ」

「おっさんの強さは話しといたんだけどな……。チートすぎて信じられなかったにしても、強いってことはわかんだろ。衛宮さんじゃ勝負になんねーっつーの」

 心底呆れたように千雨が漏らす。

「あん?」

 じろりと見下ろされ、千雨が困惑する。

「……なんだよ」

「そういうことにしとくか……」

「ん……、どういう意味だよ?」

「俺は忙しいんでな。話はぼーずとの戦いが終わってからだ」

「なんだ、今の言い回しは……? まさか……、な」

 思い浮かんだ推測を自分で否定する。

「私が看病してるから、みんなは応援に行ってこいよ」

 こう告げたのは千雨だった。

「え、そやけど……」

 このかに限らず、士郎を心配する気持ちはもちろんある。その一方で、ネギの戦いにも興味があるし、応援もしたいのだろう。

「衛宮さんには話もあるしな。私はお前等ほど先生の応援に熱心じゃないんでね」

「またまた〜」

 含みを持たせたハルナの指摘に、千雨はフンと鼻を鳴らして横を向く。

 騒がしい一同が応援に出向くと、気絶した士郎のそばで、千雨がそわそわと貧乏揺すりをしていた。

 空間映像でも試合場は確認できるが、やはり本心では気になっているからだ。

 幸いにも、士郎は決勝戦が始まる直前には目を覚ました。

「そんなことが……。って言うか、何を無茶なことやってんだーっ!」

 おとなしく話を聞いていた千雨が、あらためて士郎へ怒鳴りつける。

「あのおっさんの強さはチートなんだよ。人外なんだよ。あんなのと戦うなんて正気の沙汰じゃねーっつーの!」

「そうだなぁ。やり合ってみて実感したよ」

 今更ながら士郎が告げる。

「それでも、俺はネギま部の顧問代行だしな。みんなを無事に返す責任があるんだ」

 もちろん、責任など無くとも士郎の行動は変わらなかっただろう。それを考慮すれば、ただの口実とも言える。

 

 

 

つづく

 

 

 
あとがき:士郎の闇討ち行動は、賛否が分かれることでしょう。しかし、士郎であれば、表面上のルールや自分への悪評などにこだわらず、知人の救出を優先すると考えました。
 ……ぶっちゃけてしまうと、当初からラカンは賞金を譲るだろうと考えていたんですが、誰もが馬鹿正直に賞金は得られない前提で行動していたため、『シロネギ』でも原作準拠となりました(笑)。 
 バッジ総数についても矛盾点のはずが、原作ではあまり触れませんでしたね。