『シロネギまほら』(60)賞金首vs騎士団

 

 

 

「動いている?」

「ハイ。向こうも飛行船で移動しているのでしょう」

 士郎の確認に、茶々丸は最も高いと思われる可能性を口にした。

 ネギ達との合流するより早く、茶々丸が新たなバッジの反応を検出したため、『グレートパルサマ号(仮)』は進路を変更することになった。

「こちらと同様にオスティアへ向かっている様です」

「朝倉達みたいに船のチケットでも入手したのかな?」

 士郎の推測は、茶々丸に否定された。

「その可能性は低いでしょう。反応が不規則なのは、なんらかの事情によっては信号が遮断されているからと推測できます。考えられる原因は、軍関係の施設や生き物の体内などです」

「どっちもイヤな理由だな」

 そして、事の真相には前者が近かったようだ。

 

 

 

 ようやく対象の船を補足し、距離を開けて追跡していると、向こうから接触を図ってきた。

『こちらはアリアドネー所属、巡洋艦『ランドグリーズ』。こちらを追尾する鑑は所属と目的を返答されたし』

『アリアドネー?』

 聞き覚えのない単語に首をかしげたみんなへ、朝倉が説明する。

「強力な武装中立国よ。仲の悪い北の連合と南の帝国の間を取り持っていて、中立って立場から、オスティアの祭典警護を任されてるんだって」

『そちらの艦名が判明した。賞金首兼賞金稼ぎ集団『バラクーダ党』所有『バラクーダ号』だな。こちらから停船を勧告する。応じない場合は実力行使にでるぞ』

「あちゃー。やる気まんまんだね、あちらさん」

 顔をしかめながら、ハルナはどこか楽しそうに見える。

「向こうの主張は的はずれなんだけど、応じたら全員捕まっちゃうよね? やっぱ、応戦するっきゃないか♪」

「だからと言って、下手に交戦して死人でも出したらどうする気だ? ゲート破壊犯の濡れ衣が晴れても、ずっとお尋ね者になるぞ」

 ハルナと違い、士郎はノリや勢いだけで戦いに踏み切るわけにいかなかった。

「それは心配ないみたいよ。魔帆良学園でもそうだったけど、正規兵の装備だと、気絶した場合も墜落防止機能が働くんだって」

 どこから仕入れてくるのか、朝倉が有益な情報を提示する。

「じゃあ、話は簡単だね。敵の心配は無用ってことで、きっちり応戦。朝倉のアーティファクトを敵艦内に潜り込ませて、捕まってる夕映かアーニャちゃんを捜索し、可能なら乗り移って救出する、と」

「さよちゃん。船の中にまで潜入できる?」

 難しいとの判断もあり、朝倉は当人に可否を問いかけた。

「や、やってみます」

 もともと小心者のさよだから、自分の隠密性に自身はあっても、強い恐怖感はぬぐい去れない。それでも、クラスメイトのためにと頷いた。

 楽天的なメンバーが多いため、必然的に不安材料を指摘するのは士郎の役目となる。

「敵が強すぎた場合は、欲をかかずに撤退すること。向こうもオスティアヘ向かってるなら、次の機会があるはずだからな」

 助けたいというのは士郎も同じだが、この船の乗員全ての安全と引き替えにはできない。さすがに、あの船の強奪や撃沈が難しいなら、引き際を見極める必要があった。

『ちょっと、みんなー。何か出てきたよ!』

 甲板で見張りをしていた裕奈から報告が入る。

 外部カメラが捕らえたのは、箒に跨って飛び出してきた30名の鎧騎士達。

「アリアドネーの戦乙女騎士団だね。さっき話した警護の担当者だよ」

「こっちで飛べるのはどれぐらいいんの?」

 ハルナが問いかける。

「短時間だけなら虚空瞬同でなんとかなるでござるよ」

「私の魔力ジェットも15分だけなら全力運転が可能です」

「俺もアーティファクトを使えば飛べるんだが、使えるのは一度だけで3分しか使えない」

「私が協力すれば、アスナも飛べるよね」

「あんないつ墜落するかわかんないやり方は禁止っ!」

 せっかくのハルナの提案もアスナ本人から却下された。

「ネギや桜咲がいないのは厳しいな。今回は、防御を優先して、飛行は温存しておこう。強敵相手や、敵艦へ乗り移る場合の切り札にするんだ」

 士郎の意見に皆が頷き、大半が甲板に飛び出していった。

 

 

 

 敵の待ちかまえている場所へ踏み込むのは避け、戦乙女騎士団は遠巻きに船を包囲していた。

 甲板の敵を無力化すべく、魔法の矢が次々と降り注ぐ。

 魔法世界も含む『ネギ達の世界』へ迷い込んだ士郎にとって、ある意味、一番厄介なのが『魔法の射手サギタ・マギカ』であった。

 この『魔法の射手サギタ・マギカ』という魔法は、魔法使いにとって基礎中の基礎だから誰でも使え、さらに、上級者になるほどその本数を増していく。さらには、自動追尾までするので、回避するのは困難だった。

 対抗手段は単純で、耐えきるか、相殺する以外にない。

 士郎は強力な『盾』も持っていたが、保有魔力が少ないため濫用はできない。投影した剣群による相殺も同様だ。

 そんな士郎を救ったのは、刹那であった。

「――投影、開始トレース・オン

 投影した匕首・十六串呂シーカ・シシクシロを16本に分裂させると、さらに『壊れた幻想ブロークン・ファンタズム』で自壊させて広範囲に弾幕を張る。

 裕奈の魔法銃も、士郎がこまめに補充してきた魔法弾を使用し、迎撃しながら撃墜数を重ねる。

 魔法障壁で魔法弾を防げた敵には、抗しきれない巨大な十字手裏剣が襲いかかった。

 業を煮やして乗り込んできた相手には、アスナや古菲が挑みかかり、あっさりと甲板から蹴り落としてしまう。

 ならず者集団と侮っていた戦乙女騎士団は、その認識が間違いであることに今更ながら気づいていた。良くも悪くも、ネギま部の面々は優秀な人材揃いのため、魔法世界の正規兵にすら見劣りしない。

 敵がさらに20人を増員しようとも、こちらの面々に動揺はまるで見られなかった。

「私も負けてられないね! どうだっ、囮カモ君大行進!」

 障壁と敵への目くらましを兼ねて、カモを模した無数のゴーレムがわらわらと出現する。

「カモッス」「カモッス」「カモッス」「カモッス」「カモッス」「カモッス」

魔法の射手サギタ・マギカ』を受けて消滅するカモもいれば、為すことなく虚しく地表へ落ちていくカモもいる。

「なっとくいかねー!」

 我が事のように感じたカモの嘆きの声。

 魔法の矢を無事に突破し、運良く敵にとりついた数匹が、騎士団員の鎧内部へと潜り込んでいく。

「きゃーっ!?」「ちょっ、駄目」「そこはやめてーっ!」

 女騎士達にとって、カモによる攻撃は耐えられるものではなかった。

「ナイスよ、エロガモ!」

 今回ばかりは、アスナもエロ行為を黙認、いや、賞賛する。

「なっとくいかねー!」

 さっきとは逆に、ゴーレムを妬んだカモの叫びが響く。

 ここで、敵艦からはさらなる補充人員が投入された。

 彼女らはすぐさま落下した仲間の救出に回ったので、温存されていた精鋭というよりも、力不足から出撃を見合わせられた団員なのだろう。

『バッジの反応が動きました。新しく出撃した騎士団に混じっているようです』

 操舵室で船の管制を行っていた茶々丸の報告が皆を驚かせた。

 朝倉の『渡鴉の人見オクルス・コルウィヌス』が、すぐさまその人物を補足する。

「夕映? 夕映だよ、あれ!」

 お得意のステルスを活用し、さよ専用のゴーレムが夕映に接近を果たす。

「夕映さん。何してるんですか!? みなさん、心配してますよ〜!」

「なっ!? 私のことを知ってるですか!? それに貴女は妖精さんですか?」

「いくら地味だからって、忘れるのはひどいですよー」

 むくれるさよに、とまどう夕映。

「離れて、ユエ! 危ないよ!」

 別な女騎士が剣を手に、さよを追い払おうとする。

「どういうことだ? 洗脳でもされたのか? 脅されてるのか? なんとか説得しないと」

「そりゃ無茶だ、衛宮の兄さん! 敵対している状況で話なんか聞いてくれっこねぇ! 向こうは援軍も呼べるし、全く無関係の船が通りかかっても、向こうに加勢するはずだ。こっちは賞金首なんだからよー!」

 捕虜であったなら救出で済むが、夕映が敵側として行動する限り、捕らえるのも当然難くなる。

「……そうだな。今は退くしかないか」

「仕方ないよ、士郎さん。仲間扱いされているなら、虐待の心配はないだろうしね。今回は退くよー、みんな!」

 

 

 

『ランドグリーズ』艦長は、回頭する敵艦に逃走意図を見て取った。

 こちらに艦尾を向けて離脱を図る『グレート・パル様号(仮)』に、精霊砲が向けられる。

 背後関係を知るためにも、撃沈は避けるつもりだった。目的はエンジンを破壊して、航行不能にさせること。

 砲口から、圧縮された魔力が迸る。

 敵艦の艦尾。攻撃を受けるはずの場所に、赤い外套が翻った。

 斜線を遮るように咲き誇る大輪の花が、叩きつけられた魔力を四散させ、さらに巨大な花を描いた。

 士郎の持つ、遠距離攻撃に対する絶対の防御『熾天覆う七つの円環ロー・アイアス』だ。

 驚愕するアリアドネー戦乙女騎士団を残し、賞金首の面々は無傷のまま逃走を果たしたのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

あとがき:原作の隙間にねじ込んでみました。フェイト達がバッジに気づけていないことを考えれば、夕映のバッジも機能しているはずなんですよね。原作ではなんの説明もされませんでしたけど。