『シロネギまほら』(59)ネギ達は活躍しているそうです
「ん?」
甲板に立っていた士郎が、何かに気づいて視力を強化する。
「――
青空に浮かんでいるのは、生物でも自然物でもない存在。縦長のカプセル状の物体が、レンズらしきものをこちらに向けていた。
「賞金稼ぎか……?」
おそらく、こちらの情報を入手した連中が、魔法道具を使って偵察しているのだろう。
「――
士郎が手にしたのは、実体化した弓矢の一式だ。
構えて狙いをつけると、弦を離した。
ヒュン、ドガン! 狙い違わず破壊する。
だが、一つだけでは終わらなかった。
「まだあるのか」
同じ物体がさらに二体周囲を舞っている。
ヒュン、スカッ! これはかわされた。先ほどの射撃で警戒しているのだろう。
ならば、かわされても当たる物を射ればいい。
次につがえるのは、避けることのできない矢――
ヒュン、ドガン! 赤い軌跡を引く矢が、回避行動を取った物体を追いかけて撃破する。
ヒュン、ドガン! 同上。
三体目を撃ち落とし、士郎が一息つく。
「ひどいですよーっ!」
耳元で叫ばれて、士郎が驚愕する。
「な、なんだ!?」
「なんだじゃないですよ。死ぬかと思いました!」
聞き覚えのある声は、さよのものだ。
「相坂? どこから来たんだ?」
さよの魂を宿した人形が、先ほど撃墜したのとよく似た物体にしがみついている。
「これに乗って飛んできたんですよ。これは朝倉さんのアーティファクトなんです!」
『
さよ専用のゴーレムは、さよが座るための椅子のような部品がついている。彼女が乗る事によって、隠密性が格段にあがるのだ。そうでなければ、士郎へ接近するより先に撃ち落とされていただろう。
「脅かして悪かったな。賞金稼ぎかと思ったんだ」
言われてみて、さよにも理解できた。さよや朝倉はバッジの反応から味方の存在を知って近づいたが、士郎達にしてみればスパイゴーレムは正体不明でしかない。
「朝倉も近くにいるのか?」
「ちょっと遠いです。みんなを捜すために、船に乗って世界一周旅行中なんです。絡繰さんがバッジの場所を調べて、このゴーレムで調べて回ってるんですよー」
アーティファクトを通じて朝倉と話せるため、お互いの近況を把握することもできた。
街で情報収集していた朝倉は、亜子、アキラ、夏美の三名が奴隷となっていることを知った。
亜子が病気で倒れてしまい、薬を得る代償として、奴隷契約を結んでしまったのだ。
一方、ネギと茶々丸は森を横断中に、千雨や小太郎と遭遇し、朝倉との再会を果たす。
事情を知ったネギと小太郎が拳闘大会へ出場。勝ち進む二人の活躍を聞きつけて、このかと刹那も早々に合流を果たしていた。
いずれ、士郎達のグループもここへ加わることになる。
船へ乗船中の朝倉と茶々丸は、『バラクーダ号』改め、『グレート・パル様号(仮)』へ乗り換えることになった。
定期航路を移動するよりも、未確認地域へ自由に飛び回れた方が効率はいいからだ。
「そうそう! 衛宮さんに聞きたかったのよ!」
勢い込む朝倉に、少しばかり士郎がたじろいだ。
「な、何を聞きたいんだ?」
「衛宮さんと、6年前にネギ君を救った人と、どういう関係なの!?」
「ん? 6年前?」
「そう! ネギ君の生まれ育った村が襲撃された時、ネギ君のお父さんと一緒に、衛宮さんに似た人が助けに来たのよ」
「おおっ、そうだったアル!?」
士郎と合流したのは先だが、古菲は今になってようやくその記憶を思い返したようだ。
『なになに、なんの話!?』
そのあたりの事情を知らない、ハルナ、祐奈、まき絵が興味を示す。
以前、エヴァの別荘でネギの記憶を覗いた事があり、ネギま部のほとんどがその内容を知っている。しかし、学園祭以降に仲間となったメンバーは、具体的な内容を知らない者が多かった。
「その話は俺もエヴァから聞いたよ。『赤い外套』と『剣の雨』という点が似てるんだよな?」
「そう! 誰なの? 衛宮さんのお父さん!?」
年齢的に言っても本人ということはあり得ないだろうから、自然とそんな連想が働いた。
「まず、俺の使う魔術は個人的な資質によって発現したものだから、血筋による遺伝でもないし、誰かから技術を学んだわけでもない。だから、俺と個人的なつながりのある人じゃないと思う」
「じゃあ、あの赤い外套はどうなの?」
「あれはアーティファクトだからな。当時も同じアーティファクトを持っていた人がいたのかもしれない。剣の雨を降らせる人間に、出やすい傾向があるとかな」
このあたりは、エヴァと打ち合わせてとぼけることに決めていた。
なにしろ、士郎もエヴァも事の真相を知らないため、ネギ達へ説明したくとも説明のしようがない。
『ヒイロノコロモ』は1日のうち3分という短時間しか使用できないこともあって、これまでの使用練習もネギ達には見られないように行ってきたのだ。
「……な〜んだ」
わざとらしく落胆する朝倉。
「これが衛宮さんのお父さんだったら、『親子二代にわたる宿命』とか、すごいニュースになったのに」
「俺も興味はあるから、真相がわかったら俺にも教えてくれ」
話があると朝倉に呼ばれ、甲板上にハルナが姿を見せた。
「で? 衛宮さんとはどうなの?」
「どうって、何が?」
質問の意図がわからず、ハルナが首をひねった。
「久しぶりに会ったら、名前で呼び合っているし、こりゃ、当然何かあったと思うじゃない」
裕奈が『エミヤ』、古菲が『士郎』と呼ぶのは、以前と同じなので、改めて尋ねてはいないようだ。
「んー? しばらくは二人っきりだったしねー。親しみを込めて名前で呼ぶ事にしただけだよ」
「だから、その頃に甘〜い話とかなかったわけ?」
「なんにもなかった。ラブ臭だってしないでしょ?」
「そんなのわかるのはアンタだけだって」
ハルナの様な人間離れした技能を求められても、朝倉には無理である。
「ただねぇ、少しだけ士郎さんの事を理解したと思ってる。おかげで困ってるんだけど」
「なんでよ?」
「士郎さんは親切だし、穏和だし、常識的だよね。ただの友人としてなら、凄くつきあい易いと思う」
「深くつきあう場合は違うってわけね?」
「わかりづらいけど、士郎さんって凄く異質なんだよね。欠けているって言うか、行きすぎてるのよ」
「よくわからないって、それ」
ハルナの言わんとするところが、朝倉にはうまく通じなかった。
「ネギ君は誰かの為に無茶をするじゃない? で、ネギ君の場合は自分の危険をわかっていないとか、忘れているから無茶をしているように見えるんだよね。目の前のことしか見えてなくて、悪い意味で子供っぽい感じ」
「んー、そんなとこあるね」
「士郎さんが違うのはそこなのよ、そこ! 身の危険を充分に理解しているのに、平気で無視するの。賞賛されたり感謝されたりってのにも興味がなくて、怪我しようが死にかけようがお構いなし。『これ以上、踏み込めば死ぬだろうけど、助けるためなんだから仕方がない』って平気で踏み込むのよ」
「…………」
朝倉が言葉を失う。
ネギに限らず、無償で人助けするような人間は、好意を受けやすい傾向にある。朝倉が士郎に対して抱いていたイメージもそんなところだ。
それをハルナは明確に否定した。
ここまで言う以上、よっぽどの違和感を感じたに違いない。
朝倉もジャーナリスト志望であり、客観的・多角的に人物や事件を観察するように心がけている。3−A内でも大人びて見られる方だが、それでも人生経験に乏しい中学生に過ぎなかった。
ハルナが直面しなければ気づかなかった士郎の一面を、伝聞だけで理解するのは無理なことだった。
「それでパルはどうする気? 衛宮さんに問題があるとして、私らでどうにかできんの?」
「難しいと思うなー」
正直な感想を告げる。
士郎の方が年上で、自分たちより思慮も分別もある。
士郎の歪みというのは、日常では表面化しづらいものだし、緊急時にも賞賛すべき行動を取る。
むしろ、ハルナが知り得た事が幸運に類するものと言えた。
「正直言って、士郎さんに恋愛なんて似合わないと思うけど、一番必要なことじゃないかと思うんだ。もっと、普通の幸せを知るべきだと思うしね」
「衛宮さんにはちゃんと恋人がいるじゃん。遠坂さんが」
「士郎さんを理解した時はさー、放っておいてる遠坂さんに、凄く腹が立ったんだよね。だって、あの士郎さんだよ! 離れてたら心配するでしょ、普通は!?」
語気を荒げながらも、ハルナが肩をすくめる。
「だけど、今はそう思ってない。あの士郎さんと恋人になるって、凄いことだと思う。恋人だと認めさせるのも、恋人として受け入れるのも。どっちも普通の人には無理だね、絶対」
士郎が彼女の事を絶賛していたのも、ハルナには理解できる気がするのだ。
きっと、そういう女性でなければ士郎の隣に並ぶ事はできないのだろう。
その一点だけで、ハルナは会ったこともない遠坂凛を尊敬できそうに思えた。
その後も、『グレート・パル様号(仮)』は、仲間達を求めて航行を続けた。
ある時は、干していた下着が盗まれ、士郎に疑惑の目が向けられるも、真犯人であるカモの拘束に成功する。
ある時は、賞金狩りを相手に派手な戦闘していたアスナと楓へ手を貸し、あっさりと撃退して逃走を果たした。
未だ、居場所が判明していないのは、夕映とアーニャの二人だけとなっていた。
あとがき:ゲート争乱時に立っていた場所が違うため、原作とは異なる組み合わせや出現場所となっています。