『シロネギまほら』(41)関東魔法協会を訪れたお客さん

 

 

 

「君が衛宮士郎君じゃな」

 目の前の老人は、麻帆良学園の学園長というだけでなく、関東魔法協会の理事という肩書きも持っている。

 後頭部が独特の形状をしており、端的に言うならぬらりひょんにそっくりだった。

 このかの祖父にあたり、名を近衛近右衛門という。

 先日の学園祭の事後処理のために多忙を極めていたのだが、今日は士郎のために時間を割いてくれた。

「はい。挨拶が遅くなりましたけど、四ヶ月ほどここで暮らしています」

「ただのじじぃだ。何もかしこまる必要はないぞ」

 この場をセッティングしたエヴァが、緊張を見せている士郎をからかった。

 吸血鬼のエヴァに比べれば、人間の老人など若造にすぎない。

「して、わしに頼み事というのは何じゃな?」

「それは後回しだ。まずは、士郎について詳しく説明しておこう。後でもめるのも面倒だからな」

 学園祭において士郎の使った力を、学園長は直に見ているし、撮影した映像も残っている。事実、事件の調査を行った魔法先生が幾人も確認しており、協会内部でも話題になっていたのだ。

 本人の素行調査やその力に対する尋問など、起きるであろうわずらわしい事態も予測できた。エヴァにしてみれば、厄介事をさっさと処理しておきたいのだ。

 士郎の存在も力も非常に特異なので、相手構わず公表できる代物ではない。

 そのため、士郎の事情を明かすのは、エヴァの認めた人間――つまり、学園長と高畑のふたりだけだ。クウネルは麻帆良学園に間借りしているようなものなので、この場に立ち会ってはいなかった。

「簡単に言うと、士郎はこの世界の人間ではない」

 エヴァの宣言を学園長は間違って受け止めた。

「ほう。魔法世界の出身じゃったか」

「そうではない。異世界から来た人間だと言ったんだ」

「――ほ?」

「…………」

 学園長は虚を突かれた様子で、高畑は真意を探ろうとして、エヴァを見返した。

「それは、なにかの謎かけなのかのう?」

 学園長が常識的な質問を返す。

「そんな面倒なことをするか。言葉通りの意味で、士郎は異世界の人間だ」

 エヴァはふんぞり返るようにして、明確に告げた。

「ちょっと待ってくれ。それは本当なのかい?」

 高畑がらしくもなく、戸惑いを見せて問いかける。

「これはまた、突飛な話が出てきたもんじゃな」

 言葉こそ理解できても、簡単に信用できる話ではない。

「私にかけられていた呪いが、どうやって解かれたか疑問に思わなかったか?」

 高畑が視線を向けると、その先で学園長が頷いて見せる。

 学園長はエヴァから経緯を聞いており、高畑は自身の洞察で解除を知った。二人が二人とも相手に伏せていたから、お互いにそれを知らなかった。

「エヴァが京都へ向かう時に、衛宮君が助けてくれたんじゃよ。問題になるとも思えんし、公表はせんかったがのう」

 高畑には学園長が隠した理由も察しがついた。魔法協会に所属する人間の多くが、元賞金首の真祖を警戒しているのだ。高畑自身がこれまで伏せていたのも同様の理由による。

「アレを見せてやれ」

「わかった。――投影、開始トレース・オン

 刀身の歪んだ短刀が士郎の手に出現する。

「ほう」

 学園長は長い眉毛の下で目を光らせた。

「これは……、アーティファクトとは違うのかい?」

 高畑は魔法使いとして標準的な質問をする。

「俺の世界では投影と呼ばれていて、魔力を使って何かを創り出す魔術なんです」

「士郎は私と仮契約しているが、アーティファクトは赤い外套だからな。士郎の持っている剣は、あくまでも士郎個人の能力だ」

「何かを創る?」

 高畑にしてみれば聞き慣れない能力だった。

 例えばエヴァの様に氷を剣状にして使う事はありえるが、あくまでも攻撃手段にすぎない。

 純粋に道具を創る魔法というのはまずない。使用の度にわざわざ魔法で創るより、専用の魔法道具を入手した方が合理的だからだ。

「改めて聞かせてもらうが、これで登校地獄を解除したというのかね?」

「はい」

 学園長の問いに士郎が頷いた。

「どうやってじゃな?」

 短剣に魔力が込められているのは一目でわかるが、学園長には使い方まで理解できなかった。わかったのは自分の理解している魔法理論とは違う品物という事実だけだ。

「刺しました」

「…………」

「…………」

 学園長の沈黙に、士郎は次の発言を待つ。

「その後はどうするんじゃ?」

「刺すだけです」

「…………」

「…………」

 苦悩するかのような学園長に対し、士郎はまったく表情を変えない。

「言っておくが、士郎の言葉は事実だぞ。確かに刺しただけで登校地獄は消滅した。これは厳然たる事実として受け止めろ」

 エヴァの補足を受けて、学園長はこれまでとは違った視線を短剣に向ける。

「なにかの儀式を行ったり、魔法をかけたりもせずに……かの?」

「はい。ただ、刺せばいいんです」

「衛宮君はこちらの魔法には詳しいんじゃろうか?」

「いいえ。まったく知りません。ネギやエヴァに聞くまでこっちの魔法はまったく使えませんでした」

「今使えるのも初心者用の魔法ぐらいだ。実戦で使えるのも、せいぜい武装解除エクサルマティオーといったところか」

 エヴァが口にした通り、士郎の魔法使いとしての実力は、かろうじて“一般人ではない”と言う程度だ。魔法を行使できても、世界の魔力を使えないという欠陥が残っている。

「情けないことじゃが、わしにはその短剣に込められた魔法が理解できん。それと同じように、お主も登校地獄の理論を知らんのじゃろう? それでは、解呪できるとは思えんのじゃが……」

 理屈のみで考えれば、学園長の言葉は正しいはずだ。

「ルールブレイカーは術式を解析して無効化しているわけじゃなくて、魔法に込められた神秘そのものを断ち切るんです。これには“破戒する”という概念が込められていて、それだけに特化しています。ルールブレイカーの纏っている神秘が、かけられている魔法の神秘を上回れば、術式の種類や形式に関わらず解除する事ができます」

 重要なのは神秘の格とも言うべきもので、魔力の多寡ではないのだ。どれほど膨大な魔力で編まれていても、高度な神秘がそれを覆すのだ。

 また、単純な魔力で比較しても、ルールブレイカーが劣る事はまずありえない。

 契約にしろ呪いにしろ、その目的は“何かをさせる”か“何かをさせない”という制約にある。つまり、発動条件の選別や、行動への強制力、反した場合の罰則など、様々な条項が揃う事で初めて成り立つ。込められた魔力は各項目へ割り振られることとなり、“契約を保持する”魔力そのものは全体の魔力と比べて少なくなるのは当然だった。

 ルールブレイカーは他に何の使い道も無く、“契約を破棄する”事しかできない。だからこそ、存在意義のある宝具なのだ。

「魔法の契約を糸で縛り上げた状態だとすると、結び目を理解して解いたりするわけじゃなく、無理矢理切断してしまう道具なんです」

「ちょっと信じられんのう……」

「私の証言では不満なのか?」

「そうは言わんが」

 エヴァが無意味な嘘をつくとは思えないが、納得できるかどうかは別の話だ。

「図書館島のゴーレムにも使ったらしいぞ。思い当たる事はないか?」

「なんじゃと? あのゴーレムを壊したのはお主なのか!?」

 3月の期末試験の直後に、偽物のメルキセデクの書を守護していた二体のゴーレムが稼働停止となった。

 ゴーレム本体の損傷は軽微だったが、ゴーレムを動かしていた魔法だけが消滅していたのだ。魔法の痕跡すら残っておらず、どのような手段で行ったのか不明のままだ。

 学園長はその原因を今になってようやく知る事ができた。

「むむむ……。そのような魔法道具は聞いた事もないがのう」

 極論すれば、どんな錠前でも開けられる“魔法の鍵”なのだ。現実世界はまだいいとしても、魔法が重要な価値を占める魔法世界であれば、どんな金庫でもどんな牢獄でも破れてしまう。

 魔法に関する知識に詳しいからこそ、学園長は不可解さに首を傾げざるをえない。

「そうかな? 貴様も知っているはずだぞ」

「ひょ? ワシがか?」

 エヴァに断言されたものの、学園長にとってはまったく心当たりがない。

「ギリシャ神話のアルゴ船の事は知っているだろう」

「黄金の羊の毛皮を探すというアレじゃな」

 魔法使いの呪文にラテン語や古代ギリシャ語が使われている事からもわかる通り、彼等の魔法を遡るとギリシャ神話との関わりが深い。そのあたりの知識を持っていて当然だった。

「その中に王女メディアが登場するだろう。アフロディテに操られ、肉親を裏切り、夫に裏切られた魔女だ」

「まさか、これが……魔女メディアの使っていた“裏切りの刃”じゃと?」

 魔法によるつながりを断ち切る、そのためだけに存在する短刀。それが事実であれば、まさに神話級の遺物であった。

「なんと、のう」

 長い人生においても、そのような由来を持つ魔法道具を見たのは初めての事だ。

 エヴァも偉そうに説明しているが、士郎の記憶を覗いた時には同じように驚いている。

 続いて高畑が疑問を口にした。

「それなら、あの鬼神兵を倒したのはどんな道具なんだい?」

 高畑とて倒しきれなかったあの鬼神兵を、士郎は一撃で消滅させた。

 自分の力に対する自負があるからこそ、聞かずにはおけなかった。

「あれはエクスカリバーだったな?」

「ああ」

 エヴァの問いに士郎が頷いていた。ごく自然に。

「……衛宮君はエクスカリバーまで創れるというのかい?」

「そうです」

「…………」

 高畑のみならず、学園長までも開いた口がふさがらないといった様子だ。

 かのアーサー王が携えた、歴史上最も有名な聖剣だ。そんな話を平然と受け入れる人間の方が少数派だろう。

「納得できないと言うなら見せてやれ。私も間近で確認してみたいからな」

 エヴァも威力こそ知ってはいたが、剣をその目で見てはいない。

「――投影、開始トレース・オン

 ルールブレイカーに代わって出現したのは、見る者の心さえ奪うほどの美しい黄金の剣。

「これ……が、エクスカリバー?」

 半疑問形で尋ねたものの、それが礼を失する行為だと高畑自身が気づいていた。

 これほどに輝かしく、これほどに尊い剣が、エクスカリバー以外に存在するはずがない。少なくとも、そう信じさせるだけの存在感と神々しさを纏った剣だった。

「眼福……と言うべきじゃろうな」

 冥途の土産と評しても過分とは言えない。それほどの価値がある剣だった。

「そうだろうな。私もこれほどの剣とは思わなかった」

 600年を生きたエヴァですら、目にした事のない至高の剣だ。

「衛宮君は、伝説に残るほどの剣を自在に創れるということかのう?」

「そんなに器用じゃありません。俺にできるのは、見た事のある剣を模造することだけなんです」

「見た……と言うたかの?」

「はい」

「異世界から来たという話が本当なら……、いや、これは衛宮君に失礼じゃな。衛宮君が異世界から来たというのは信じよう。これほどの力の持ち主をワシは聞いた事がないし、二つの剣もそれを証明しておる」

「一応言っておきますけど、俺は向こうの世界ではまったく無名ですよ」

「これほどの力を持っていてもかね?」

「俺に魔術を教えてくれたオヤジがモグリの魔術師で、俺の存在は公的な組織に知られていないんです。特殊な力なので、隠すように師匠からも言われてますから」

「そうじゃろうな。残念ながらワシもその判断は適切じゃと思う」

 この世界においても、魔法を悪用する輩は存在するのだ。その点は、万国、いや、全世界共通のようだ。

「しかし、そちらの世界ではこれほどの品が現存しておるのかの? 残念ながら、この世界ではこのような剣は残っておらん。遠い歴史の中へ埋もれてしもうたんじゃ」

「向こうの世界でもほとんどが失われています。ある事件に巻き込まれて、そういう宝具を見る機会があったたけです」

 あの事件に遭遇しないまま士郎が一人前の魔術師になったとしても、あれだけの品々を目にする機会などないはずだ。士郎がこのような剣を見る機会に恵まれたのは、やはり聖杯戦争によるところが大きい。

「君の力について、もう一つ聞かせたもらいたいんじゃが……。飛行船で見せたあれはなんじゃ? 武器ということはあるまい。幻とも思えんかったが」

「あれは固有結界という魔術で、自分の心象風景を実体化させるものです。本来は俺が使える唯一の魔術で、投影なんかも固有結界から派生したものなんです」

「ほう。……興味深いの」

 空間を操作する魔法はあるが、どちらかと言えば敵を閉じ込める形で使用される事が多いのだ。

「そうだろう。そうだろう」

 エヴァとしても、あれだけ自分を驚かせた力だけに、他の魔法使いも驚かせてやらなければ納得できないところだ。まるで我が事のように自慢気だった。

「あれは『無限の剣製』という名を持つらしい。あの力があるから、士郎はどんな剣でも複製する事が可能なのだ」

 エヴァは、あらかじめ情報を開示するように士郎へ指示していた。

 彼女は情報が力だということを理解している。能力を明かすことの危険性も。

 これがエヴァ自身ならば隠し通す事も可能だろうが、それを士郎に期待するのは無駄だと考えていた。

 さらに言うなら、無理に情報を隠そうとすると、興味や猜疑心を招きやすく、学園側に調査や尋問の口実を与える事になってしまう。

 だが、初めから情報を開示しておけば、事情は異なってくる。

 士郎が真摯な対応をとる以上、学園長も無碍には扱わない。そして、秘密にする理由と事情を知れば、おいそれとは漏洩しないはずだ。なんと言っても、人助けを本分とする『魔法使い』なのだから。

 学園長と高畑は基本的に善人であり、柔軟な対応を期待でき、秘密を守る意志と実力を備えている。学園長については、関東魔法協会の最高権力者であるという立場も役に立つ。

 エヴァは、秘密を抱え込んで学園長や高畑に痛くもない腹を探られるよりも、学園内部に対する抑止役として利用する方法を選択したのだ。

 つまり、ふたりの善意を利用して、共犯者に仕立て上げたわけだ。

「どのような剣であっても複製できるのかのう?」

「どのような剣であってもだ。エクスカリバーを見たのだから理解できるはずだ」

「そうじゃな……」

 単純にあれ以上の剣を学園長は知らなかった。それだけで、士郎の力がどれほど規格外かわかろうというものだ。

 エクスカリバーが複製できる以上、どのような剣であって複製が可能だと思える。

「ところ変わればというが……、魔法ですらこれほど変わっていくんじゃなぁ」

 魔法に関わる人間は一般人に比べて世界の真理に近いと感じるものだ。そんな魔法使いであっても、世界の多様性や成り立ちを理解しているわけではない。

 学園長のつぶやきは、無限の平行世界を前にした矮小なる人間の感慨だった。

「では、それらの事をふまえて聞きたいのじゃが、衛宮君がこの世界へ来た目的はなんじゃね? 何をするためにここへ来たんじゃ?」

 士郎の特異な力を知ったからこそ、このような聞き方となった。何らかの意図をもって訪れたと考える方が自然なのだ。

 ククク。エヴァが楽しそうに笑いを漏らす。

「……それが、単なる事故なんです」

 苦笑を浮かべて士郎が告白する。

「事故……とな?」

「はい。この世界へ来る目的どころか、この世界の存在すら知りませんでした」

「それでは、そっちの世界の魔法も、こちらと比べて高度というわけではないんじゃろうか?」

「そうですね。種類は違っていても、格段に優劣があるとは思えません」

 士郎自身の知る魔術師は非常に限定されている。

 一度だけ目にした魔術戦を元に考えても、こちらの魔法使いが劣るとは感じなかった。

 それに、向こうの魔術師というのは、研究者と呼ぶべき存在なのだ。魔術師仲間にさえ自分の力を伏せる。そもそも魔術師の知りあいが少ない士郎では、判断のしようもなかった。

「俺の世界では、科学で代用できる魔法は魔術と呼ばれるようになります。他の人間では再現できないほどの奇跡だけが魔法と呼ばれていて、今となっては五つしか残っていません。俺の師匠はその内の一つ、平行世界への移動を目指していて、その実験中の事故で俺はこの世界に来ました」

「それはまた、災難じゃったな。しかし、その師匠の気持ちもわからんでもない。未知への探求心は必要じゃからな」

 最後の言葉は学園教師としてのものかもしれない。

「それでは、こちらの世界での衛宮君は天涯孤独となるのではないかな? 知りあいがおるわけでもなかろう?」

「そうですね。俺と同じ『衛宮士郎』は存在しないようです」

 初対面で超の告げた話が事実ならば、自分に似た存在もいないらしい。

 考えてみれば、衛宮の姓も切嗣から引き継いだものだから、それ以前は別な名字を持っていたはずなのだ。その『彼』がどこでどのように成長するのか、衛宮士郎が知るはずもない。

 また、士郎の話を信じ、力を貸すかどうかはまた別の話となるだろう。

「これまでは、超包子のアルバイトだけで食いつないできたわけじゃな?」

「そうです。俺はあまり贅沢をしないので、なんとかなりました」

 あっさり告げているが、彼の生活を知る者ならきっと呆れることだろう。旅行者を思わせるほど、必要最低限の品しか持っていないのだから。そうでなければとっくに電車屋台での生活をやめていたはずだ。

「それではさすがに不便じゃろう。ワシの方で住む場所と仕事を手配しよう」

 学園長の申し出に対して、士郎がひとつだけ注文をつけた。

「ありがたい話なんですが、超包子の営業時間と被らない仕事でお願いできます」

 その言葉を聞いた三人は不思議そうに彼を見る。

「……なんですか?」

「超包子よりも割のいい仕事を手配するつもりだったんじゃが……」

「お金の問題じゃなくて、超がいなくなったことで人手が足りないんです。今離れるわけにいきませんし」

「フム……」

 改めて士郎の人間性に触れ、学園長は感心する。単純に収入が増えることよりも、知人との関係を優先するらしい。

「それでは警備員をしてもらえんか? もともと人手不足でのう。魔法的な事件に関われる人材が欲しかったんじゃ」

「警備員……ですか。俺にはこっちの魔法知識が乏しくて、異常を察知できなかったり、対処できない可能性もあります。俺が使えるのも、武器を造るという物騒な魔術に偏ってますし」

 極端な話、何者かの使用する魔法が、平和的なものか物騒なものか判別できないのだ。交渉するにしろ、敵対するにしろ、デメリットが大きいだろう。

「いわれてみれば確かにのう。……それでは、この学校の用務員ではどうじゃろうか?」

「職種について不満はありませんけど、都合よく空いてるもんなんですか?」

「いるにはいるんじゃが、だいぶ年を食っておってな。若い同僚が入ってくれれば、力仕事も楽になって助かるじゃろう。それに、何かあったときに備えて、3−Aの近くに頼れる人間がいるのはありがたいんじゃ」

「ネギになにかあるんですか?」

「ネギ君のことがなくとも、魔法関係者を多く集めたクラスでな。狙われる可能性が高いんじゃよ」

「……わかりました。引き受けます」

「ふむ。これで、エヴァンジェリンがここへ案内した目的は達せられたかのう?」

「いいや。まだだ」

「はて……? 一体何が望みなんじゃな?」

「こいつにパスポートが欲しい」

「パスポートとな」

「アルから聞いたが、魔法世界へ行けばナギに関する情報が手に入るらしいな?」

 アルビレオ・イマに関する情報を隠蔽されていたため、エヴァンジェリンは殺気を込めて学園長を睨みつける。

「それで?」

 冷や汗をかきながら学園長はあらぬ方向へ視線を漂わせた。

「夏休みにぼーやが魔法世界へ向かうことになった。一人では不安だから士郎を同行させる」

「……ふむ。それは意外といい案かもしれんな。よかろう。衛宮君のパスポートはわしの方で手配しよう」

 

 

 

つづく

 

 

 
あとがき:他サイトのSSでも見かけそうな学園長との交渉話です。ルールブレイカーによる解呪の詳細は、『ネギま』世界で通用させるための創作です。また、ルールブレイカーが存在する以上は、『Fate』世界で『神話に登場しているはず』というのを前提とし、『ネギま』でも同様の扱いとしました。


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