ぼくのかんがえたマギステル・マギ (6)悪の魔法使いを殲滅せよ

 

 

 

 ジロリと強い視線を向けられて、ネギの体に緊張が走る。

「貴様。茶々丸をどうした」

 昨夜から従者が行方不明となっており、エヴァンジェリンは不機嫌さを隠せないようだ。

「僕が倒して、身柄は預かっている」

「ふざけるな。さっさと帰せ!」

「どうして僕が、敵の要求に応える必要があるんだい?」

「なっ……」

 ギリギリと歯噛みするエヴァンジェリンに対し、ネギはなんとか表情を取り繕う。

 最初にエヴァンジェリンと交戦したときは、従者の有無で遅れを取った。

 その従者を失った状態で比較した場合、魔力を制限されているエヴァンジェリンよりも自分の方が優位だ……と、彼は考えていた。

 そうでなければ堂々と対峙したりしないだろう。

「あまり、『闇の福音』を舐めるなよ」

 彼女の目が禍々しい赤色に染まる。

「舐めているつもりはないよ。全力で君を殺すつもりだから」

「勝てると考えているのが、侮りだと言っているんだ。なんなら、この場で相手をしてやろうか?」

「悪いけど忙しいんだ。僕は教師をするためにここへ来たんであって、君につき合っているのはそのついでに過ぎないからね」

 エヴァンジェリンのこめかみに青筋が浮かび上がる。

 戦いに踏み切らなかっただけ、まだ自制していた方だった。

 昼日中の中等部の中庭である。派手な行動を起こせば、協会の邪魔が入るのは目に見えている。彼女は小生意気な小僧に骨の髄まで恐怖を味あわせてやろうと、この場は矛を収めることにした。

「その放言を今に後悔させてやろう。お利口なつもりかもしれんが、知恵の足りないガキに過ぎんと思い知らせてやるぞ」

 平然と背を向けて歩き出すエヴァンジェリンに対して、ネギは身動きできずにただ見送ることしかできなかった。

『マギステル・マギ』を目指す者として、『悪の魔法使い』相手に弱みを見せるわけにいかず、なんとか虚勢を張り通したものの、あのような殺気を向けられたのは初めての経験だ。

 どれほど優秀な成績を収めようと、彼は半人前の魔法使いにすぎない。実戦経験など無いに等しい。

「なんであんなに自信満々なんだろう? 魔力が無くても戦えるのかな?」

 一人になったことで、おとなしい性格が顔を出す。

 魔力の量だけを見て自分が優位だと思い込んでいたものの、もしかしたら、何か他の切り札を持っているのかもしれない。

「あー、いたいた」

 声をかけられたネギが思わずびくりと身体を震わせた。

「何やってんのよ、こんなところで」

 声の主はアスナだった。

「ど、どうしたんですか?」

「次の授業始まるわよ。遅いから呼びに来たんじゃない」

「……でも、どうしてここにいるってわかったんですか?」

「さっきすれ違ったエヴァンジェリンさんに教えてもらったのよ」

 その名を耳にして、ネギは感電でもしたかのように身体を震わせた。

「朝と違って凄く怒ってたみたいだけど、何かあった?」

「あ、あの……、僕、早退します!」

「ちょ、ちょっと、ネギ! どうしたのよ!」

 追いかけようとしたアスナの前で、ネギは杖に飛び乗って屋根の向こうへ飛翔していく。

 並はずれたアスナの脚力であっても、視界から消え去ったネギを追いかけるのは不可能だった。

 

 

 

 その後、ネギが戻ってくることはなく、放課後になるとアスナはネギを探して学園内を走り回った。

「あのバカ、どこ言っちゃったのよ……」

 寮へと続く桜通りを、肩を落として歩くアスナ。

 部屋に帰っている可能性を考え、薄い希望にすがって戻ってきたのだ。

 街灯に浮かび上がる夜桜も、今の彼女には慰めとはならない。

 そこで異変が起きた。

 彼女の行く手を導いてくれる街灯が、順番に消え去っていく。

 遅れて自動販売機の明かりも消えた。

「え? 停電? 半月ぐらい先じゃなかった?」

 彼女の頭をかすめたのは、電源設備のメンテナンスのために行われる定期的な停電のことだ。

 彼女が帰宅すると、寮内は騒然となっていた。

 闇の中で壁にぶつかって痛がっている声や、PCが落ちてデータが飛んだ悲鳴など、予期せぬ停電に阿鼻叫喚の状態に陥っていた。

 喧噪の中を、ようやく自室まで辿り着くが、いたのはこのかだけでネギの姿はない。

 続いてアスナは、使用されていない空き部屋へと向かう。捕らえた茶々丸を縛り上げて、閉じこめておいた部屋だ。

 しかし、ネギどころか茶々丸の姿すら見あたらない。ベッドにはカモが書き込んだ念話防止の魔法陣が残っているだけだった。

 寮内を探したアスナは、娯楽室の隅に転がっている茶々丸を発見する。

「茶々丸さん。逃げるつもりだったの?」

 片腕しか残っていない彼女では逃げるのも難しいし、この状態で人目に触れると認識阻害の魔法にも影響を与えかねない。

 そのあたりの事情もあって、彼女は軟禁状態を受け入れたはずだった。

「……アスナさんには謝罪しなければなりません」

「なんのこと?」

「この停電は私が起こしました」

「ええっ!?」

 茶々丸の説明によると、エヴァンジェリンの力を抑えている結界は、学園の電力を使用した結界装置で維持しているという。彼女達は定期点検を待って、予備システムに障害を与え、ネギを襲撃する計画を立てていたのだ。

 そこで、本来なら停電を待つはずの計画を前倒しして、予備システムを停止させ、それと同時に商用電源側にもハッキングを行って回路を遮断する。

 定期点検時に実施するよりも稼げる時間は短くなるはずだが、そのデメリットも考慮して茶々丸は実行に移したのだ。

「どうしてそんなことしたのよ?」

「私が捕まったからです」

 彼女の価値基準や行動原理は単純だった。

 これまで存在していた従者が消えたことで、エヴァンジェリンは非常に不利な状況になった。従者の存在に慣れたエヴァンジェリンが、その不在によって後れを取る可能性もあるだろう。

 ネギが茶々丸を襲ったのは、エヴァンジェリンと優位に戦うためだ。それを考えると、いつ攻撃を仕掛けたっておかしくない。

 そこで、できる限り早く停電を発生させることが、マスターのためになると茶々丸は判断したのだ。

 彼女がネギ達の説得を受け入れたフリをしたのは、彼らの油断を誘うためだった。

「マスターはすでに魔力を取り戻しました。きっと、ネギ先生を襲ってその血を手に入れるでしょう」

「なんだって、そんなにケンカ腰なのよ、あんた達は!」

 腹立たしげに怒鳴りつけて、部屋を駆けだして行った足音が小さくなり、……今度は大きくなった。

 再びアスナが顔を出す。

「……茶々丸さんはエヴァンジェリンさんの居場所がわかるの?」

「ハイ」

「じゃあ、案内して」

「いいのですか? 私は敵のはずです」

「茶々丸さんだって、エヴァンジェリンさんのことが心配でしょ?」

 そう告げたアスナが茶々丸の身体を抱き上げた。

 

 

 

 杖に跨った少年が全速力で空を駆ける。

 身に纏ったマントを蝙蝠の翼のように広げ、それを追いかける少女。

 それはネギとエヴァンジェリンによる真剣な鬼ごっこだった。ネギは寮へたどり着く前に停電に遭遇し、数分もしないうちにエヴァンジェリンに見つかってしまったのだ。

 追われるネギにとっては、障害物の多い市街地へ向かう方が有利のはずだが、彼にはその選択肢が選べない。多くの一般人が存在する状況で、彼らを巻き込むことなどできないからだ。

 後方から飛んでくる氷の矢を、同じく魔法の射手をぶつけて相殺する。

「矢の数はさらに増していくぞ。簡単に撃ち落とされてがっかりさせるなよ。私を楽しませるために、死ぬまで踊り続けろ」

 これまで見せたネギの思い上がった態度を腹に据えかね、エヴァンジェリンは未熟な少年をいたぶっていた。

 彼女がネギに怒りを向けるのは、ネギの態度だけが理由ではない。本人は自覚していないものの、ネギの容姿にも一因があった。

 ナギへの思い入れが強いエヴァンジェリンだから、父親に似た息子ならば好意を抱きやすかっただろう。しかし、銀髪にオッドアイという特徴的な外見は、母親譲りとしか思えない。つまり、ナギの息子である前に、ナギを奪った女の子供と見えてしまう。言ってしまえば嫉妬であった。

「自慢の魔法を封じられる気分はどうだ、小僧? 貴様は父親にはまるで及ばん。所詮は小者だと思い知るがいい!」

 嘲笑を受けたネギが進路を変える。

 向かう先は、麻帆良の外縁部にある大きな川を渡る橋だ。

「……ふん。興醒めだな」

 ネギの作戦に思い至って、エヴァンジェリンは不機嫌そうに眉を顰めた。

 エヴァンジェリンの放つ『こおる大地』をよけた拍子に、姿勢を崩したネギは着地を失敗し、橋の上を転がり小さな擦り傷を幾つも受けた。

「私は呪いによって外へ出られんからな。ピンチになったら橋を渡って学園の外へ逃げるというわけか。セコい作戦だな、小僧」

 血を吸うために、一歩、一歩、ネギへ近づくエヴァンジェリン。

 彼女の足元が発光し、巧妙に隠されていた魔法陣が発動した。

「なっ! こ、これは……、捕縛結界!?」

「これで僕の勝ちだね」

 ネギの作戦の骨子は、エヴァンジェリンをここへ誘い込むことにあった。

 エヴァンジェリンが策を読んだと考えた時点で、すでにネギの計略にひっかかっていたのだ。

 エヴァンジェリンに脅されて学校をさぼったネギは、半日をかけてこの準備を行っていた。まさか、こんなに早く使うことになるとは思わなかったが、間に合ったことこそ喜ぶべきだろう。

「やるなあ、ぼうや。感心したよ」

 罠にはまったはずのエヴァンジェリンはそれでも余裕の笑みを崩さない。

 その態度がネギを不安にさせた。

「何かの対抗策を持っているのか?」

「もちろんだ。15年の苦汁をなめた私が、この手の罠になんの対処もしていなかったと思うか? ……茶々丸!」

 ネギが周囲を見渡すが、茶々丸らしき存在は確認できない。

「……茶々丸さんがどうしたんだい?」

「アレ……?」

 残念ながら、結界解除プログラムを持っている茶々丸はこの場に存在しなかった。

 いつも傍らに控えているため、咄嗟に呼びかけていたのだ。

 これこそが、茶々丸の懸念していた、従者の不在によって生じる間隙と言えよう。

「なんだ。茶々丸さん任せなのか。ビックリしたよ」

「くっ……」

 風の矢とは違い、魔法陣を使用した場合の拘束は非常に強力だ。

 エヴァンジェリンであっても脱出は難しく、拘束中には魔法を使えない。

「僕の勝ちだ」

 ネギの身体が杖に跨って宙へと浮き上がる。

「結界に閉じこめた程度で勝ったつもりか? この屈辱は絶対にはらしてみせるからな」

 負け惜しみを口にしたが、ネギが立ち去るというのは彼女の思いこみだった。

 ネギは上からエヴァンジェリンを厳しい表情で見下ろしていた。例えるならそう、屠殺場にいる豚を見るような目で……。

 戦うに至った二人だったが、戦いに臨む気構えには天と地ほどの開きがあった。

 戦いに敗れたときに、命を失う危険性を考慮していたのはどちらであったか?

 戦いの結末において、命を奪う可能性を自覚していたのはどちらであったか?

 弱者をからかう程度の認識だったエヴァンジェリンとは違い、追いつめられた結果とは言え、ネギは戦う理由とその覚悟を持ってこの場に臨んでいた。

 エヴァンジェリンが『殺す』などと言ったのは、単なる脅しにすぎなかったが、彼女の言葉の真偽などネギが知るはずもない。

 殺されるという恐怖に駆られた者が、先に敵を殺そうとするのは当然の事だ。元はそういう生活をしてきたというのに、当のエヴァンジェリンがその事を失念していた。平和に慣れきっていたのだ。

 エヴァンジェリンの正体を知っていれば挑むはずがない。自分の実力ならば負けるはずもない。それらは全て幻想にすぎなかった。

 エヴァンジェリンはどうにかして結界から逃れようとするが、それをさせないためにネギは準備していたのだし、外から結界破壊を行わなければ不可能だ。

「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 ネギに戦闘経験が無いのは確かだが、魔法技術の研鑽だけは積んでおり、彼の持つ魔力も強大だ。

 魔法の威力に負け橋の中央部が陥没する。

 ネギはさらに追撃をかけた。

「解放(エーミッタム)! 雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 遅延呪文を活用した『雷の暴風』の2連撃だ。

 その威力は大量の水を押しのけ、川底にまで達するほどであった。

 魔法が終わると、空白を埋めるために大量の水が流れ落ち、大きな渦を生み出した。

 その渦の中央に膨大な魔力が膨れあがる。考えるまでもない、エヴァンジェリンのものだ。

 橋とともに魔法陣も崩れ落ちたために、彼女は束縛から解き放たれたのだ。

 浮上して、空中に浮かび上がった小さな人影。着ていた服を全て引き裂かれながらも、傷一つ無い幼い裸身がそこにあった。

「小僧、よくもやってくれたな」

 怒りに震えるエヴァンジェリンが、殺意を込めた目でネギを睨みつける。

 射抜くような視線に脅えながら、ネギはなんとか踏みとどまった。

 捕縛結界も失われ、魔力も尽きかけている。どう考えても勝ち目など無い。

 それでも逃げないのは、最後の瞬間まで魔法使いでありたいからだ。

「貴様をこの手で引き裂……」

 怒りに任せて告げようとした言葉が途切れた。事の発端が頭を掠めたからだ。

 エヴァンジェリンが無用に脅しつけたりしなければ、ネギがこんな行動を取る事もなかっただろう。

 血を吸わせて欲しいと頼めば、それで解決していた可能性だってあるのだ。

 その戸惑いが、勝敗を分けた。

 学園都市内の建物が街灯が、徐々に明るさを取り戻していく。停電が復旧して、照明が再び灯されたのだ。

 停電していた時間は、終わってみればわずか30分程度。

 当然、学園を覆う結界までも復旧する。

 魔力を身に帯びていたエヴァンジェリンは、体内から強制的に魔力を排除されていた。その衝撃と魔力を失った事で、小さな体が川に向かって真っ逆さまに落下する。

 バシャン!

 派手な水音を立てたエヴァンジェリンが、水面でもがいていた。まるで溺れているかのように。

 助けようという考えも頭をかすめたが、ネギは心を鬼にしてその思いを抑えつける。

 エヴァンジェリンは先ほども自分へ反撃しようとしていたのだ。これだって演技なのかも知れない。それに、例え本当に溺れていたのだとしても、感謝などせずに襲われる可能性もある。

 勝てたのは運が良かっただけだ。次に戦えば、きっと自分では勝てないだろう。

 だからこそ、決着をつけるのは今しかないのだ。

(ノートの教え通り、僕はエヴァンジェリンさんを殺すことだって覚悟したはずじゃないか)

 ネギの所有している『ぼくのかんがえたマギステル・マギ』では、行動事例を並べてはいるものの、その理由に触れていることは少ない。

 そのため、父親を理解したいと望むネギは、真意を読みとるべく自分なりの解釈を試みていた。

『殺していいのは、殺される覚悟がある者だけ』 という一文。

 ネギはこれを、『自分の行動に起因する全てを受け入れる』ことだと考えた。

 もちろん、負けた場合は命を失うだろう。

 だが、勝ったとしても、自分の手を血に染めたという事実は残るし、その罪を一生背負わねばならない。

 父はそこまで深く戦いの意義を思い悩み、敵とすら真摯に向き合って、『マギステル・マギ』にまで上り詰めたのだ。

 ネギの力ではエヴァンジェリンに及ばず、自分が生き残れたのは運が良かったからにすぎない。しかし、戦うと決断した時に、ネギは彼女の死も背負う覚悟をしていたはずだった。魔法という力を弄んだり、力を誇示するのが目的ではなかったのだから。

 自分の手でとどめを刺さずとも、戦いの結末に責任を持たねばならない。

 見るのが嫌だからと言って、目を背けていいはずがない。

 エヴァンジェリンの口には、水が流れ込んで呼吸を妨げる。水を掻こうとする両腕は水面を叩くだけで、体を浮かす役目を果たさない。

 その様子は、無力な少女が溺れているようにしか見えなかった。

(エヴァンジェリンさんは、一般人の、それもクラスメイトまで襲っている。茶々丸さんが手伝っているのも、彼女に命じられているからだ。僕の事だって諦めてくれるとは思えない。学園長すら黙認しているし、僕の手でなんとかしなくちゃ)

 見捨てるべき理由など、いくらでも思いつく。

(一時の感情に流されて、助けるなんて間違っている……。間違っているんだ!)

 そうやって自分に言い聞かせる。

 迷いを振り切るように、ネギは目を閉じた。

 彼女を救うなんて、間違っている。

 間違っているのに――。

 もがいていたエヴァンジェリンの手を、小さく温かな手が握りしめた。

 エヴァンジェリンの瞳に映ったのは、杖に跨っているネギの姿。

 握った手を強引に引き上げて、ネギは彼女を水責めから解放してやった。

 ネギの両腕に抱きかかえられて、エヴァンジェリンが咳き込んでいた。

「ゴホッ、ゲハッ。なっ、なぜ、私を助けた?」

「……さあね」

 ネギには答えようが無かった。

 合理的に考えて、助けるべき理由は存在しない。

『マギステル・マギ』になるためには、全てを見通すような冷徹な判断が必要だというのに、こんな目先の感情に流されてしまうなんて。

 ネギは自分の心の弱さを情けないと感じていた。自分の思い定めた『覚悟』など、『覚悟したフリ』に過ぎないと、思い知らされたからだ。

「兄貴ーっ! 大丈夫っすかー?」

「エヴァンジェリンさんは無事なのーっ?」

 二つの声にネギが視線を向けると、橋の上からカモとアスナがこちらを見下ろしていた。

 空中戦のさなか、ネギの肩から振り落とされたカモは、アスナと合流してここまでやってきたようだ。

 アスナに抱きかかえられた状態で、茶々丸の姿もある。

「闘いはどうなったわけ?」

 アスナに尋ねられたネギは、抱きかかえているエヴァンジェリンに問いかけた。

「僕の勝ちでいいのかな?」

「ああ。認めよう。私の負けだ」

 悔しそうではあったが、彼女は明確に敗北を認めた。

 アスナ達は闘いに間に合わなかった。

 だが、だからこそネギは自分一人の手で、エヴァンジェリンを倒すことができた。

 これは彼にとって自信につながるだろう。

 

 

 

 ネギは最後まで知らなかった。エヴァンジェリンがナギにこだわっていた理由を。

 かつて、崖から落ちた彼女を救った男がいた。

 吸血鬼として忌み嫌われる彼女に差し伸べられたその手。

 その相手こそが、ネギの父親であるナギ・スプリングフィールド、その人であった。

 ネギはそのあたりの事情を何も知らず、それなのに、ナギと同じように彼女の手を握っていた。

 人外として生きてきた彼女が、その手にどれほどの温もりを感じたか……。それは余人にはわからぬ事だろう。

 だから、エヴァンジェリンは後々まで悔やむ事になる。

 第一印象がどれだけ人間関係に深刻な悪影響を及ぼすか、思い知る羽目になったからだ。

 

 

  つづく

 

 

 

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魔法先生ネギま! 限定版(32)