『マスター・オブ・ワームズ(2)』
臓硯は、マキリの技を用いて、桜の令呪から偽臣の書を作成した。これさえあれば、第三者にライダーの所有権を与えられる。
それを手にしたのは、慎二であった。
「じゃが、魔術回路を持たない貴様がマスターでは、先が見えておるんじゃよー」
慎二がムッとして、尋ねる。
「だったら、どうするって言うんだ?」
「おぬしに魔力が足りなければ、他から調達するまでのこと。――はっ!?」
自分の発した言葉に、臓硯が驚愕の表情を浮かべた。
「ぎゃわー! 恐怖・実の祖父を襲う鬼孫! 野良犬に噛まれたなどという慰めはいらんのじゃよー!」
「魔力欲しさに貴様なんぞに手を出すかっ! 気色の悪いことを言うな!」
「別なアイデアを考えるから、見逃してくれんじゃろかー?」
「だから、あり得ない心配をするなと言ってるんだ!」
臓硯の頭をぐりぐりと踏みつける。
「その別なアイデアの方をさっさと教えろ」
「学校に結界を張って、みんなから元気を少しづつ分けてもらうんじゃよー。そんなこともわからんから、グズは使えねー」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり――。
「ギャワー!」
慎二が、臓硯ではなく、ライダーに尋ねてみる。
「そんなことができるのか?」
「可能です」
ライダーが短く答えた。
「善は急げなんじゃよー」
「善なのかどうかはわからないが、……そうするか」
夜――。
慎二達は学校に忍び込み、ライダーが結界を張るための拠点を設置し終えた。
「こうしておけば、もし学校で敵に襲われたとしても、この結界で対処することができるでしょう」
「そうなのか? 爺でも一回ぐらいは役に立つアイデアを出すんだな」
「照れるんじゃよー」
「誉めてない」
学校の屋上で三人がぼそぼそと話していると……。
「面白そうなことしてるじゃねえか」
そんな声がかけられた。
屋上の端に立つのは、獣の気配を纏っている青色の騎士。
「ぬぅ。早くもわしらを警戒するとは……。評価されるのも考え物なんじゃよー!」
臓硯の世迷い事を男は聞き流している。
「しかし、ものは考えよう。はやくも一人目を始末するチャンスが、舞い込んだに違いない。ライダーさんの出番なんじゃよー」
やっと結論に達した臓硯が、勢い込んで振り向いた。
だが、視線の先には、慎二を背負って屋上から飛び降りようとしている、ライダーの姿があった。
「な、なぜーっ!?」
驚愕の臓硯を尻目に、ライダーはこの場を立ち去ってしまう。
男は槍を手に臓硯へと近づいた。
「まあ、なんだ。かわいそう……なんてかけらも感じねぇが、死んでもらうぜ」
「わしは人畜無害な老人だというのに、納得いかないんじゃよー!」
「サーヴァントと戦うのが目的だったんだが、仕方ねぇ。姿を見られた以上、お前を始末させてもらうぜ」
「全身青タイツの傾奇者とは思えんそのセリフ! 蔭働きが目的ならば、自分の服装から検討すべきではないかね、君ー!?」
どすっ!
ランサーの槍が臓硯を貫いた。
「ギャワー!」
間桐家のリビング。
遅れてたどり着いた臓硯が、涙を流して難詰していた。
「諸君、この中に裏切り者がいる」
「私はマスターである慎二に従っただけです」
ライダーが平然と主張する。
「どうせ、お前は死なないじゃないか」
「だからと言って、納得できるものではないわーっ!」
臓硯の主張はもっともである。
「でも、死んでも問題はないだろ? こうして生き返ってるんだし」
「むう……。納得できる」
納得できたようだ。
翌朝――。
弓道場の前で凛の姿を見かけた慎二が、気安く声をかけた。
「僕もマスターになったんだよ? 僕と組まないか?」
「イヤ!」
腹いせに新入部員をいじめて楽しんだ。
特に男――。