『セイバー・イズ・フルチャージ(7)』

 

 

 

 居間で、セイバー相手に話を切り出す。

 正直、遠坂がいるのは気恥ずかしいが、諦めるとしよう。

「セイバー。話がある」

「……はい」

「俺達みたいな、関係は良くないと思うんだ」

「どういう意味でしょう?」

「肉体関係を前提にするなんて、おかしいだろ?」

「ですが、魔力を得るためには必要なことです。……ま、まさか、私の身体に飽きたのですか? それで、凛に乗り換えようと……」

 セイバーが、真っ青になって、変な想像を始める。

「ち、違うって! なんで、そこに遠坂の名前が出てくるんだ?」

「私の身体は女としての魅力に欠けます。悔しいですが、シロウが凛の方に魅力を感じたとしても仕方がない。ほんのわずかですが、凛の方がバストは大きい。……ウェストもですが」

「……セイバー、後で話があるから」

 そう口を挟んだのは遠坂本人である。

「遠坂のことなんて関係ないだろ? セイバーは魅力的だよ。……胸だって、遠坂とほとんど変わらないし」

「……士郎。アンタにも話があるから」

 殺気を放ちながら、遠坂が俺に告げる。

「……では、シロウは何が言いたいのですか?」

「だから、その……抱き合ったりするまえに、俺とデートでもしないか?」

「デート?」

 セイバーが首をひねる。

「デートっていうのは、逢い引きのコトよ」

 からかうように、遠坂が口を挟んだ。

 それで、やっと、セイバーに意味が通じたようだ。

 頬を赤く染めたセイバーが勢い込んで、俺に迫る。

「ぜひとも、行きましょう!」

 

 

 

 楽しかった。

 俺はすでに──いや、おそらく初めてセイバーと会った時から、彼女を好きになっていたのだろう。

 そのセイバーと、二人っきりでデートできたのは、俺にとって凄く嬉しいことなのだった。

 

 

 

 家までの帰り道、俺は素直な気持ちをセイバーに告げた。

「セイバー。俺は、セイバーのこと好きだよ」

「…………」

 見る間に、セイバーの頬が紅潮する。

 その顔を隠すように、セイバーはうつむいた。

「セイバーは、俺のこと、どう思ってるんだ?」

「決まっています。私もシロウを愛しています。そうでなければ、身体を許したりするはずがない」

「じゃあ、魔力が足りないっていう理由がなくても……」

「もちろんです。シロウに抱かれるのは、私にとっても喜びなのです」

 頬を染めた顔を上げて、セイバーが俺を見つめた。

「……それに、デートのしめくくりはラブホテルなのでしょう?」

「えっ? な、なんで、そんなこと……」

「凛にそう言われました。……違うのですか?」

「…………」

 セイバーが俺の右腕を抱え込む。

「私は、期待していたのですが……」

 上目遣いで俺を見る。

 ……めちゃくちゃ可愛い。

「その……、行こうか? ラブホテル」

「はい」

 こくんと、セイバーがうなずいた。

 俺達の周りに甘い空気が漂う。まるで固有結界のように……。

 そんな、いい雰囲気になった時、あの男が姿を見せた。

「我の女に手を出すとは、身の程知らずもいいところだ」

 俺達の前に立ちふさがったのは、黄金のサーヴァントである。

「誰が貴方の女ですか。事実無根もはなはだしい! すでに、前回断っているはずです!」

 きっぱりと宣言したセイバーの言葉に、あれほど傲慢なヤツが、しょんぼりしたように見えた。

 あれだけ大量に宝具の原型を持っているのだから、おそらくこのサーヴァントの正体はあらゆる財宝を収集したギルガメッシュに違いない。推測が唐突すぎる気もするが、アーチャーと呼んでいては、読者の混乱を招くので仕方がないのだ。絵もないし……。

 そのギルガメッシュは、自ら望んで獅子の尾を踏んづけたようだ。

「よりにもよって、私とシロウのデートを邪魔するために現れるとはいい度胸です」

「いや、……我が望んだことでもないし、単に偶然に過ぎないのだが……」

「なるほど、つまり、巡り合わせが悪かったとそう言いたいのですか?」

「そういうことだ」

 我が意を得たりと、ギルガメッシュが頷く。

「ならば、次回もありえるということですね?」

 そう告げられて、ギルガメッシュの表情が強ばった。

 セイバーは完全にその気になったようで、すでに黄金の聖剣が抜き身となっている。

「魔力が満ちている今の私に、怖いものなどない。この場で切り捨ててくれる」

 いかに大量の宝具を持っていても、接近されてしまうと上手く扱えないようだ。セイバーの踏み込みが早すぎて、ギルガメッシュは逃走するのが精一杯だ。

 セイバーと剣でやり合えるような存在ならば、アーチャーとして召喚されることもないだろうし、当然の結果とも言える。

 アーチャーとして召喚された連中は、こうやって、セイバーに追いかけ回される運命にあるのだろうか?

 そういえば、あのアーチャーも運のパラメータが低かったな。

 何発も自分をかすめるエクスカリバーに、ヤツは本気で怯えて、逃げ帰った。

「くう、逃げ足の速い。あれほど生き汚い相手とは知りませんでした」

 悔しそうにつぶやくセイバーが、俺を視界に納めると、急に意気消沈してしまった。

「どうしたんだ?」

「申し訳ありません。宝具を使用してしまいました」

「それが、どうかしたのか?」

「できれば、魔力の回復という理由なしで、貴方に抱かれたかったのに……」

「そんなの気にすることないさ。魔力の残量とは関係なく、俺達は愛し合うんだから」

 俺の言葉を噛みしめて、セイバーがうなずいてくれた。

「そうですよね。私たちが抱き合うのは、愛を確認するためなのですから」

「そういうこと」

 俺もセイバーに笑い返す。

「では、魔力の補充を終えた後も、頑張ってください」

「……えっ!?」

 俺の表情が凍り付いていた。

 

 

 

 つづく