『ロード・トゥ・アーチャー(5)』
アーチャーに呼び出された俺が道場へ顔を出す。
「貴様がのたれ死にしようが、騙し討ちされようが、それはなんとか我慢しよう。……自分の手で殺せないのは残念だが」
アーチャーが見事なほど本音をぶちまける。
「ずいぶんと身勝手な言い分だな」
「……だが、あのときも言った通り、貴様の自己犠牲を受けるというのは私にとっては屈辱なのだ。それだけは許容できない」
「わかったよ。二度としないから、安心してくれ」
さすがに不愉快になり、投げやりに答える。
そうだ。次にそんな機会があっても、絶対にアーチャーだけは助けないようにしよう。俺はそう決めた。
「いいや。信じられんな。貴様は何度でもやる。この私が相手でも見捨てることなどできるわけがない」
アーチャーはなぜか奇妙な確信を持って断言した。
「いろいろ考えた結果、私が貴様を鍛えることにした」
「なんでそうなるんだよ!?」
「令呪の縛りがある以上、貴様が死にかければ助勢せねばならんし、私が不利な状況で戦えば貴様が介入するだろう。これでは悪循環だ。どんなに説得しようとも、貴様には飛んで火にいる習性がある。それなら、多少なりとも火に耐えられるようにしておこうというわけだ」
アーチャーが口元に浮かべていた冷笑をすっと消して、真剣な面持ちで宣言する。
「では、今からアーチャー道場を始める」
「なんだ、それっ!?」
アーチャーは妙にやる気を出していて、俺の質問など軽く聞き流した。
「いいな、弟子一号!」
「俺のことか?」
俺の戸惑いをよそに、特訓が開始された。
もしもこれが、セイバーから剣を、遠坂から魔術を教わるなら、どんなにいいだろうか?
ふたりの美少女に囲まれるのだから、きっと、楽しく学べるはずだ。
……もしかして、夢を見すぎているのか、俺?
まずは剣技。
「やりすぎだ、アーチャー!」
「残念ながら、そうではない。令呪の制限があるため、私は貴様を殺すことができない」
「でも、痛いものは痛いぞ」
「泣き言を言うな。私の攻撃は、貴様なら耐えられるだろうと見切っての攻撃だ。……まあ、貴様が自分から諦めるというなら、やめても構わんがな」
「……やるよ」
次ぎに魔術。
「貴様に教える魔術は投影のみだ」
「え? でも、不効率で役に立たないって親父が言ってたぞ」
「投影を使わない貴様の方こそ役立たずだ。貴様に投影意外の何ができる?」
「そういうお前は、どれだけの魔術が使えるんだよ!?」
「…………」
「…………」
「それはおいておくとして……」
「まさか、お前も投影しかつかえないのか? よくそれで偉そうに言えるな」
「見くびるな。初歩的な魔術なら他にも使える」
「初歩的な魔術だけか!?」
「…………」
アーチャーが憮然として黙り込んだ。
どうやら、魔術の師匠には大きな期待を持つべきではなさそうだ。
「だが、覚えておけ。魔術師を目指すとき、いや、魔術使いとしての生活に置いて、投影はほとんど役にたたん。だが、聖杯戦争という状況においては、最大の切り札となりうる。それだけは肝に銘じておくことだ」
さて……。
俺は剣でも魔法でもアーチャーにかなわない。コイツがサーヴァンとである以上、仕方がないことではあるが、悔しいことにかわりはなかった。
ところが、まさか料理の腕までが劣っているとは想像だにしていなかった。
男二人ということもあって、気が抜けていたのは確かだ。ところが、出したカレーライスを一口食べるなり、
「1時間待て、私が本当のカレーライスを食べさせてやる」
などとアーチャーは言い出したのだ。
俺のエプロンを当たり前のように身につけると、アーチャーが投影したのはマイ包丁。それだけならまだしも、マイまな板や、マイ寸胴まで投影できるのはどういうわけだ?
それから1時間後、笑みを浮かべるアーチャーの前に俺は敗北を喫した。
それから数日間は、昼は修行に明け暮れ、夜は町の見回りを続けた。
なぜか、遠坂達と遭遇することもなく、俺たちは男二人で過ごしてしまった。
いまさらだが、アーチャーという男は何者なんだ?
アーチャーが俺より優れているのは……、悔しいが認めよう。しかし、普通はどこかしら方向性の差異があるものではなかろうか?
RPGゲームで言うなら、攻撃力、防御力、敏捷性、幸運とか、ステータスの特徴に違いがあるはずだ。ところがアーチャーは全てにおいて俺を上回っている。これなら勝てそうというスキルが一つもないのだ。俺が得意な物はアーチャーも得意で、アーチャーが苦手な物は俺も苦手だ。
全ての能力が均一に俺より上だ。ありえないだろ、普通!?
それやこれやで俺が凹んでいたところ、遠坂が我が家を訪問した。
一つの凶報を持って──。
セイバーがキャスターに奪われたというのだ。