『ロード・トゥ・アーチャー(2)』
遠坂に連れられて、俺は教会へ顔を出した。聖杯戦争に参加する意志を伝えるためだ。
問題が起きたのはその帰り道でのことである。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがバーサーカーを従えて襲撃してきのだ。
戦場を外人墓地へと移し、セイバーはバーサーカーと剣を交えていた。
体格差は歴然。それでもセイバーは互角に撃ち合っている。
いや、有利な戦場を選択し敵を誘導したのはセイバーなのだから、総合力では劣っていないということになる。
夜の墓地で戦いを見守るのは4名。
俺と遠坂は固唾を飲んで。
イリヤスフィールは自分のサーヴァントの勝利を疑わず。
そして、もうひとり……。
「ちょっと……」
「何かね?」
「アンタも手伝ったらどうなのよ!」
「あいにく私は重傷を負っている。あるサーヴァントに容赦なく斬られたためだ」
「ぐっ……」
アーチャーの皮肉に遠坂が言葉に詰まる。言うまでもなくアーチャーを負傷させたのは、セイバーであった。
遠坂自身もその事実を忘れたわけではないのだろうが、彼女を焦らせるほどにバーサーカーの存在感は圧倒的だったのだ。
そして、ついに――。
「セイバーっ!?」
遠坂が悲鳴をあげる。
巨大な斧剣がセイバーの腹をえぐっていた。血をまき散らし、剣を杖にして小柄な身体を支える。
予測される結末は、――死。
気がつくと、俺は戦いのただ中に、飛び込んでいた。
「ばかっ!」
遠坂の声が聞こえたもののもう遅い。
バーサーカーの斧剣が俺に迫り――。
セイバーをかばうように抱きしめた俺は、横殴りの衝撃にはじき飛ばされた。
セイバーともつれるようにして、地面を転がる。
肘や膝が痛い。感じたのはその程度だった。
「あ……、どうして……」
腕の中から小さな声が漏れる。
俺はあわてて身を起こしてセイバーの上をどいた。
「何を考えてんのよ、アンタは!?」
「何を考えているのです、貴方は!?」
つい先ほども校庭で聞いた言葉と同じ声が俺にぶつけられた。無謀な行動をふたりがかりで非難される。
「いや、セイバーが危ないと思ったら、つい……」
なんとかふたりを落ち着かせようとして、その姿が視界に入る。
「それよりも、あいつを……」
二人が俺の視線を追ってそれを見る。
「放っておきなさいよ。あんな薄情者」
「ええ。気にする必要などありません」
ふたりが冷たく言い放つ。
「ふん……。好きにしろ」
アーチャーが投げやりに吐き捨てた。
俺に危機が迫ったとき、どうやら、”俺を死なせない”という令呪の拘束が働いたらしい。
アーチャー自身の意志に反して、アイツはとっさに俺を突き飛ばしたのだ。
俺は助かったものの、替わりにアーチャーが犠牲となったわけだ。
「……つまんない」
呆れたようにイリヤがつぶやく。
「なんで、そんなに他人を助けようとするの?」
真実、不思議そうに尋ねてくる。
「別に助けたくて助けたわけではない」
アーチャーが答える。おそらくは本音のはずだ。少女が納得するかどうかは別として。
「……もういい。こんなの、つまんない」
その少女はそう言い残して、俺たちの前から姿を消した。
衛宮邸に戻った俺たちは、湯飲みを手に一息ついていった。
「ねえ、衛宮くん」
「ん?」
「バーサーカーは強敵よ。アーチャー一人だと心細いと思わない? それなら、私たちには手を結ぶ余地が残されていると思うんだけど」
「へ……? 俺は最初から遠坂と戦うつもりなんてないけど?」
思いをそのまま口にすると、
「っ!? ……ったく、これだもの」
遠坂がなぜか悔しそうにつぶやいた。
「セイバーもそれでいい?」
「私は何度かシロウに助けられました。手を借りるというよりも、シロウを守るためにはその方がいいのではないでしょうか?」
セイバーが微笑を浮かべて遠坂に頷く。
「……アーチャーはこのさいどうでもいいのですが」
「そうね。私もアーチャーはあてにしてないけど」
二人の言葉を耳にして、憮然としたアーチャーが顔を背ける
「……好きにするがいい」
そう口にしたアーチャーの背中が、妙に寂しそうに感じられた。