『Z会会報』(1973)

 

 

  

おとこきょうだい うらみのしらつゆ

京 男 吟 紅 萠

 

 瓢瓢と流る我が身に追い風の、比叡おろしと名にし負う、山を降りくる北風に、篭る下宿や、四畳半。襖下張り綻びて、通う寒気に身も凍え、潜る炬燵は、独り身の、火の気なきこそ、あわれなり。外に出でるもなかなかに、作る夜食は味噌ラーメン、食前食後の一服も、胸に苦しきばかりにて、のぼる煙の紫の花の凋むも味気なく、欝陶しきは胸の内。斯くてはならじと読む本は、高橋和巳ばかりにて、居並ぶチャートに目もくれず、積もる埃や二三寸。痛きまなこに鞭打ちて、読み終えにける心地よさ、窓を開ければ東に昇る朝日も有り難く、今日も生きますおっ母さん、見ててくれよと胸を張り、波寄る女に目もくれず、男一浪行く先は、これぞ名高き京大の、溜り場なりと人の言う、喫茶「虹」とはこはいかに。実はおのれも京大生、されどやっぱり受験生、捲土重来押し立てて、めざすは京医の狭き門。講義終えりし悪友と、ビール買い込み行く先は、これぞアイドル吉田山、男五人で酒飲みて、歌うは御存知、三高寮歌。時は夕暮れ空赤く、歌い歌いてその果てに、流る涙の輝きは、京大生の誇りにて、夕日を受けて立つわれの頬を伝うる白露を、男の涙と誰か知る。悩まぬ者とて無き世にて、苦しきことのみ多かれど、ここぞ、男のド根性、書読み恋をし勉強し、悩み苦しみ考えぬいて、強きおのれとなるために、日日に試錬を積みてこそ、真の男と言えるべし。

(比叡おろし)

 

 

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